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三章第35話 支配者




 エリュテイアが、モノ達と合流する少し前のレイリア王城。


 その城の持ち主、言わば王である幼女ティアに、『破壊竜』ライラと名の通ったメンツに、エリュテイアは向き合っていて。


「―― 十中八九『支配者』……【超越者】の一人が原因なのだ」


 淡い黄と緑のグラデーションの髪で作られた団子を揺らしながら、蝶飾りの杖を突き出すティア。


 原因、とは、王都の空を我を忘れて飛び交っている竜についてのことだ。ライラの暴走や不調は、その狂化した竜の血に引っ張られているせいで。

 その竜達の突然の出現に、『超越者』の一人が絡んでいると、ティアは結論付けた様子だ。

 『支配者』という称号はエリュテイアも耳にしたことがある。

 記憶が正しければ、なんでも八人いる『超越者』の中でも、特に行動が読めず、厄介な存在らしいが――。


「だから、あいつとの条約なんて意味を成さないと言ったんだ。あいつにとって約束なんてものは破る為に有るようなものだからな」


 と、苛立たしげに呟くのは銀色の帯のような美しい長髪を垂らした、噂の絶賛不調の『破壊竜』、ライラで。

 その言葉の真意がエリュテイアには上手く汲み取れなかったが、ティアには納得のいくものだったらしく、幼女は頷き、


「うむ、残念だがその通りだったようなのだ」


「……つまりは、竜が理性を失った理由が、その『超越者』の能力のせいってことね。で、それは理解したのだけど、どうしてこんなことを……?」


 会話の節々に、ライラとティアの二人の間でしか通じない表現はあったものの、大筋は理解したエリュテイア。

 しかし、その上で、謎が多いのは、例の『支配者』とやらが、こうやって『竜』を暴走させ、王都に出現させた動機だ。

 王都を貶める為だとしても、火を吐くとはいえタイミングも疎らで、加えて、一応、凍ってしまった人々を運んで避難させているが、実害も正直、あまり無かった。


 当然と言えば当然の疑問を浮かべるエリュテイア。

 それに答えるのはティアだったが、そのティアすらも首を傾けていて、


「さあ? そもそも、『超越者』とは理不尽の権化……強大な力を持つが故に、その精神性は至極、自分本位なものなのだ。彼奴等を阻める存在はそう多くない」


「……もう少し、簡単に言ってくれるかしら? モノじゃないけど、難しい話を解くのは得意じゃないの。あなた見た目は幼いのに、頭が老人みたいよ?」


 何だか回りくどい言い方をしているように思えたティアの発言に、もっと掻い摘んで話すように促すエリュテイア。

 催促を受けた幼女の方はというと、空色の瞳を瞑目。溜息をつき、やれやれ、と見た目の幼さには似合わない動作で、肩を竦める。

 

「……コレといい、『白』といい、お主といい。少し王に対する敬意が足りないのだ。まあよい、余は寛大な王だからな。して、簡単に言うと、なのだ……『超越者』の考えていることは、その本人にしか解らない、なのだ」


「なるほど、凄く解り易いわ。偉いわね、撫でてあげるわ」


「うへへ、わあい!! ……じゃあないのだ。子供扱いは止めろなのだ」


 エリュテイアが、王冠と団子の載ったティアの頭を撫でると、撫でられた彼女は一瞬喜んだ表情を見せた後、冷めた顔をしてその手を払う。

 まさかの王によるノリツッコミだ、後でこういう話が好きな、モノに教えてやろう。


 などと気の抜けた事をエリュテイアが考えていると、顎に手を当て、赤と青のオッドアイを伏せるのはライラで。


「とはいえ……『支配者』が絡んでいるのはほぼ、その通りだろうが、その『支配者』が王都の何処にいるか解らないのが厄介だな。なにせ、気配を殺すのが上手い奴だから、我にも気付けん」


「余の方も、『語りかけて』はいるものの、今のところそれらしき反応は無いのだ。『吸血鬼』には血の気配を感じられる器官が存在していると聞くが、どうなのだ?」


「残念ながら、範囲が狭いのよ。だから、この王城付近だけになるけれど、それらしいのは感じないわ」


 エリュテイアには『吸血鬼』という種族故の特徴があり、その一つがティアの言う通り、血の気配を嗅ぎとるという物だ。

 ライラと空飛ぶ竜の血の類似性を導き出したのも、この能力の恩恵だが、意外と嗅ぎ取れる範囲が狭く使い勝手が悪い。

 相手が目の前にいて、その相手に集中すれば、血の成分の細かい所まで分析することが出来るが。


 三人とも、『支配者』らしい気配を感じられそうにない、と確認した所で、ライラは口を開いて――、


「そうか……となれば、地道に探すしかなさそうだが――」


 


「――それって、もしかしてアタシのコトかナ?」


「っ!?」


 ライラの言葉を遮って、王城の廊下に響く高い少女のような声。

 誰の気配も無い事を確認したばかりだと言うのに、突として爆発した異様な気配に、反射的に振り向く一行。


 そこには、ブロンドのウェーブのかかった長めの髪に、地味なエプロン付きのワンピースを身に纏った、何処にでも居そうな風貌の少女が居て。

 見た目だけで判断すれば、そこら辺の一般の町娘と変わらないように思える。

 だが、この少女と対峙して、そんな風に感じるのは、余程鈍感な人間だけだ。

 少女から放たれている、異質なプレッシャー。

 全ての神経の矛先が、目の前の存在に持っていかれる、エリュテイアにはそんな感覚があって。


「いひひひひっ! 呼ばれてないのに、突然の登場! なーんて、ネ。驚いタ? 驚いたよネ――」


「『破壊(ぶれいく)』ッ!!」


 そんな少女が薄い緑の瞳を細めて、口角を嗜虐に歪ませた瞬間、エリュテイアの隣から短く、怒りの混じった声が鳴る。

 刹那、縦横無尽に迸るのは、空間ごとひび割れるような鋭い音と、元々ダメージを負っていた廊下の壁が、今度こそ跡形も無くなる衝撃の波。

 『破壊竜』の咆哮。

 神をも超越した一撃が、少女を飲み込み、全てを塵と化す――。


「――あれあれ、あれレ? いきなり『加護』だなんて、すっごく怒ってるネ? なら、大成功って事だよネ? ライラ・フィーナスの頭の中はアタシでいっぱイ。それって、アタシがあの『破壊竜』を支配しているってことだよネ!? 最高! わざわざ暴走させた竜を持ってきた甲斐があったヨ!!」


 ――何が楽しいのか、非常に興奮した声が、エリュテイア達の()()から聞こえる。

 振り向けば、そこには、『破壊』の衝撃に呑まれた筈の少女が、無傷な姿で、頬を紅潮させていて。


「『支配者』シルマッ!! 貴様、何故、同胞にあれ程(むご)いことを……!!」


 生理的な嫌悪。理解し難い何か。

 その二言だけがエリュテイアの脳内を駆け巡る中。

 『破壊竜』は『支配者』に、怒声を浴びせ、大剣の柄を握りしめた――。




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