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三章第34話 グッド&バッドタイミング




「エリュテイア……!? おま、どうしてここに! いや、超絶グッドタイミングなんだけどさ!」


 まさに今、手元に欲しい戦力。その最高峰である少女は、血の色のサイドテールを揺らしていて。

 少女――エリュテイアは、その黒の瞳でモノを見据える。


「王城の方でも色々あったのよ……でも、その前に少し確認。あなたの態度を見る限り、『青』は味方になったってことで良いのかしら?」


 モノから、隣のアズラクへと移るエリュテイアの視線。それに気づいたアズラクは、ゆっくりと頷いて、


「はい。貴女様にも御迷惑をお掛け致しました、今、心から謝罪を」


 綺麗な所作で腰を曲げ、王城で襲いかかった件に謝罪を述べるアズラク。

 睨み付けて警戒を顕にしていたエリュテイアは、その謝罪に頷き、一先ずは纏った『赤』の気配を消し去る。


「まあ、そういう事だ。こいつはもう味方だ、私が保証する。だから、許してやって欲しい」


「私は、モノが良いならいいわ。仲良くしましょ」


「はっ。姫の御友人であるエリュテイア様の事も、守ってみせます」


 自分の前へ跪き、誓うアズラクの様子を見て、エリュテイアは複雑そうな顔をモノへと向ける。

 恐らく、この変わりようについての突っ込みだろうが――。


「…………モノ、あなた『青』に何したの……? この殊勝な態度、最早別人レベルなのだけれど」

 

「なに、ただの喧嘩だよ喧嘩。拳で語り合った仲って訳だな……いや、拳で戦ったのは私だけか」


 今になって考えると、拳バーサス剣で、よくあれ程互角に戦えたものだ。

 アズラクが『青』に操られているせいで、容赦出来ない状況であったのは解る。が、それにしても武器を持たない丸腰の少女に、思いっきり斬り掛かるのはどうかと思う。


 紫の瞳を細め、モノが表情だけでアズラクを責めると、責められた側の青年は、痛い所を突かれた風に苦笑いを浮かべて、


「はは……そうはいっても、その剣を使った俺を、ぶっ飛ばしたのは紛れもない姫ですよ。アレは、効きましたね」


「いやいや、お前本気じゃなかっただろ? 本心と身体がすれ違ってて『色』の力が中途半端じゃなきゃ、私はお前に勝てなかったよ。その点、今のお前には期待してるぜ、ボロボロだけど」


「ええ、お任せを。そして姫は、この不甲斐ない俺を正しき方向へ、お導き下さい」


「『正しい』、か……」


 ――『正しい』。

 それは、モノにとって、妙に突っかかりの覚えるワードだ。

 モノの『最終兵器』としての力――『白』。この色に対応するのが、『正義』という感情であり、これまでに何度も行使してきた。

 だが、その度に思うのだ、『正義』とは言うが、今の自分は本当に正しいことが出来ているのだろうか、と。

 そして、その度に、これは己にとっては正しいことなのだと言い聞かせてやってきた。


 しかし、それはあくまで己の内だけに留められている。つまりは、モノは今、アズラクの目によって、初めて、他人から見た正しい姿が求められた、という訳で。

 故に、中と外の両方で、全て正しくなければ、ならない。

 そう、正しく、あれ――。


「――――」

 

「モノ……?  どうしたのかしら? あなた、今あまり、して欲しくない顔をしているわ。まるで……」


「――ぇ、なに、変な顔してた? やだ恥ずかしい」


 そんなに嫌な顔を、無意識の内に見せてしまっていたのだろうか。

 引く、というよりは心配の方が強い声色のエリュテイアの言葉に、モノは自分の顔を手でぺたぺたと触り、確かめる。

 だが、触った感じ別にどこか強張っている表情筋は無い。

 

 モノがそうやって不思議そうにしていると、エリュテイアは何かを言いかける。


「そういう訳じゃ……いえ、今は話を逸らしている場合では無いわね。私がここに居る理由も含めて、モノにも『青』にも知っておいて欲しいことがあるの」


「知っておいて、ほしいこと……?」

 

 言いかけて、時間を惜しみ話題の修正を図ったエリュテイア。

 何を言おうとしていたのかは気になるが、修正された話題の方が、この場面において重要そうなので、モノは深く追求しない。そのまま聞く体勢を整える。

 アズラクもそれに倣ってエリュテイアの言葉へと集中した様子で――。


「……今の王都の置かれている状況についてよ」


「置かれている状況って、その口振りだと、何か変化があったのか?」


「ええ」


 モノが知っている脅威は、凍った人々と、『青』い雪と、突如現れた氷の塔と――。

 そこまで思考して、モノは途轍もない違和感を覚えた。今、羅列したのは殆どの原因がアズラクであり、解決済みである。

 が、その他の脅威の一つが、明らかにおかしい。


 モノはふと、弾かれたようにして空を見上げた。

 視界には、降ってくる『青』の雪と、灰色の雲、それだけだ。そう、それだけ――。


「……気づいたかしら?」


「あれだけ飛び交ってた竜が、いねえ……」


「言われれば、確かにそうですね……。それに、そもそも竜の登場は、クリスタ様の計画の内容に含まれていなかった筈です」


「じゃあ、どうして……」


 てっきり、クリスタが呼んだのかと思い、これはどういう事なのか、アズラクへとモノが問おうとした所で、可能性が真っ向から否定される。

 むしろ、クリスタが呼んだものでは無いと言われ、謎が深まるばかりで、


「それに関係のあることよ、聞いて頂戴」


 何か、ただならぬ予感に、モノとアズラクは息を呑む。

 エリュテイアの切羽詰まったような表情を見るに、どう考えても、良い知らせでは無い。


 気付かず、モノの頬を伝った汗。

 気温の所為もあってか、無駄に冷たくて――。


「さっきまでは三人、今は二人ね」


「…………」


「王都に居たし、居るの。『破壊竜』に加えて――――『支配者』と『尋問者』が」




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