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三章第23話 回帰の浄水場




 今までの『突発的テレポーテーション』と比べて、余りにも短い距離、短い時間間隔。

 浄水場から出た所(ゴール)から、浄水場の初期(スタート)地点へと。

 言わば、モノの現在位置だけが、『リセット』された形。

 

 四隅に清い滝の流れる広い部屋、水に浮く円形のステージに、水色の髪の少女――クリスタと向き合う状態で、モノは立っていて。


「――モ、モノちゃん……!? アズラクに連れられた筈じゃ……?」

 

「ははは……もう何が何だか……」


 再び突然現れたモノに、目を見開いて、分かりやすく驚いた様子のクリスタ。

 ふと見れば、先程、この空間に訪れた時には無かった物が、少女の背後に置かれていた。


「なあ、その箱は……」


「っ!! な、なんの事かなあ? そ、それよりも、モノちゃんどうして戻ってきたのっ?」


「……? なんでそんなに慌ててるんだよ……まあいいや。ちなみに、私がどうしてここに居るのかは、私にも分からん!」


 クリスタの後ろに置かれているのは、人一人が入れそうな大きさの、飾り気のない蒼白い箱が一つ。

 少し気になって、その箱の話題に触れようとすると、クリスタは上擦った声を上げながら、箱を隠すように腕を広げる。

 割と予想外の反応を示し、あからさまに、話題をすり替えるクリスタに、モノはニヤリと笑って、


「あ。さてはヘソクリか? 今度からはあまり、箱の中の金を見詰めてうっとりするの控えろよな」


「ち、違うよっ!? 私、そんなことしてな……」


「――はあ!?!? クソガキがどうしてここにいるんです!?」


 モノの冗談交じりの揶揄いに、クリスタは顔を赤く染めて、必死に抗議。

 しかし、クリスタが否定を言い切る前に、モノの背後から大きく響くのは、幽霊でも見たかのような驚愕の声で。

 その声に振り向くと、そこにはついさっきモノを出口へと案内し終えて、主の元へと戻ってきたであろう青年――アズラクの姿。


「いやあ、確かに『またな』とは言ったけど、これは流石に早すぎるよなあ……」


 今回に関しては、再会とかそういう次元の話ではない気がしてならないモノ。

 そんな苦笑するモノを見て、唖然と固まっていたアズラクはため息をつき、何とも言えない表情を浮かべる。


「――アズラク、ちょっといい?」


「! クリスタ様? どうかされましたか?」


「いいから、こっち来て」


「はっ、直ぐに」


 命令に従って、主人たる少女へと駆け寄っていく、従順な青年。それから、「こっちこっち」と手招きしたクリスタは、アズラクに何やら耳打ち。

 突然始まった内緒話に、モノが首を傾けていると、やがて、戸惑った声を上げるのはアズラクで。


「――――」


「そ、それは……! ですが……」


「――――」


「……わかり、ました。仰せのままに」


 暫くして、クリスタの前で跪いたアズラク。

 こう、目の前でコソコソと話されていい気はしないのだが、まあ部外者というより、今の状況では不審者であるモノに話せないことは幾らでもあるだろうから、モノはその点については納得。

 しかし、内容が気になるのも事実だ。


「なあ、なんの話してたんだ?」


「それをお前……貴女に話したら、わざわざ耳打ちした意味が無いだろうが……いや、ないですよ」


「相変わらずブレッブレだな!?」


「黙れ……! お黙れくださいおガキさん。とにかく、貴女には早くここから出ていって貰いますよ。監視として、また俺が連れていきますから、大人しく付いてこい……来てください」


「もはや言い直せてすらいねえ箇所があったような気がしたけど、わかった、付いてく」


 相も変わらず、言葉の途中でクリスタに睨まれては、礼儀正しく言い直すアズラク。

 だったが、ボロが出まくりなので、いっその事、礼儀正しく振る舞う努力を止めた方がいい気がするのは、気の所為だろうか。


 それはそうと、モノは二回目の不法侵入で、より怪しまれるのは普通の反応なので、監視をするというアズラクに大人しく従うことにする。

 モノがそう頷くと、先程と同じようにアズラクは手を差し伸べて。


「では、行きますよ」


「はいはーい」


 


※※※※※




「――こっちです」


「おう」


 一度目の案内の時もそうだが、この浄水場の造りは、まるで神殿のようで。

 大きな白い柱が何本も並び、やはり水も流れている、広い廊下をモノとアズラクの二人は進んでいく。


「この綺麗な水、クリスタが加護で作ってるんだよな? それって、やっぱり王都に流れる水も全部そうなのか?」


「ええ。王都に流れる水の全てが、クリスタ様の力によって清められています」


「つくづくすげえな、神って奴の力は……」


「………………そうですね」


 これだけ広い王都だ。

 その水の資源全てに、あの少女の力が作用しているとなると、やはり『加護』というのはとんでもない代物だ。

 アゼルダでフィロが、『加護者』が世界中でどんどん増えている、みたいな事を口にしていたが、もしそれが本当なら、この世界は一体どうなってしまうのだろうか。


 そんな大層な事を考えながら、順調に進んでいたモノ。

 だったのだが、廊下のとある地点。

 モノは突如、ピタリと白い肌を顕わにしている足の動きを、止める。


「……どうしたんです?」


「ん。いいや、ちょっとな」


 手も繋いでいる為、直ぐにその異変に気づいたアズラクは、振り返って訝しげに、藍色の瞳でモノの様子を窺う。

 今までの少し巫山戯気味の雰囲気から一転、何処か無機質な表情を浮かべたモノに、図らずも『美しい』などという感想を一瞬だけ抱いてしまうアズラク。

 

 しかし、そんな感想は速攻で思考の外へと追いやった彼は、真剣な眼差しの目の前の少女が、何を言うつもりなのか、無意識に息を呑んだ。


 一方でモノは、そういったアズラクの視線を受けながら、身体に粘っこく纒わり付く気配を感じていて。

 それが、目の前の青年から放たれていることを確かめてから、ゆっくりと口を開き――、


「……アズラク。お前、私をどうするつもりだ?」


「――――ッ!? お、お前は……一体……!?」


「隠してたつもりだろうけど、バレバレだな。ああいや、()()()隠せてるぜ、間違いなく」


 モノの背筋を冷やすこれは、殺気とかそういう類のものでは無い。そんなものより、もっと濃厚で、もっと特殊な、異質の気配。

 そう、これまでに何度も感じたことのある、世界を染め上げるそれは、


「……でも、『色』の予兆が隠せてない。なあ? ――『青』の『最終兵器(アルマフィネイル)』」


「な……!? これは!?」


 モノの身体にも宿っている――『色』の気配だった。

 モノが、アズラクが『最終兵器』であるということに、どうして気づいたのかは、『桃』のローズ・リリベルの時と同じ理由だ。

 鮮やかな髪色と、身に纏うオーラ。

 まあ、この方法で見破ったローズには、『勘が良すぎる』などと不思議な顔をされたのだが。


 モノに言い当てられた事実と、そのモノから漂い始めた『白』の光り輝く絵の具の靄を見て、仰天し、強張るアズラク。


「何するつもりだったのかは分からないけど、先手必勝! 逃げるが勝ちってなあ! システム・アンロック――『無重力(グラビティゼロ)』!」


「……ッ! ま、待て!!」


「ライラといい、お前といい、そうやって言われて待つ奴は居ねえんだっての!」


 驚きの方が優ってしまって、肝心な方の反応が遅れたアズラク。モノは、その隙を活かして、『無重力』を発動し、光を反射するツルツルとした床を一蹴り。

 一度通った廊下だ、出口への道順は記憶している。

 故に、誰も追い付けないよう、白の帯のような残像を残しながら、加速したモノは弾丸となって駆ける、駆ける、駆ける。


 もう既に、アズラクの姿は見えず、代わりに近づいてくるのは外の光――出口だ。

 流石に人々の行き交う街中では、攻撃はしてこない筈であるので、モノは一直線に走り抜け――、


「よし、助かっ――」


 街の喧騒が聞こえてきて、安堵を覚えたモノ。

 だが、その賑わいは、モノを受け入れることなく、プツリと途絶えて。



「――ぇ?」


 モノを迎え入れるのは、水の勢いよく落ちる音。

 

「…………ああ……これ最悪だ」


 視界に広がるのは、群がる人の影ではなく、水に浮かぶ円形のステージと、四隅の滝と、ひとつの椅子。

 どうやら、今度は水色の髪の少女は居ないようだが、間違いない。

 

「……また、()()()()()()



 ――再び、ゴール地点からからスタート地点へ。

 モノは自分が、この『浄水場』に閉じ込められてしまった可能性が高い、と、頭を抱え、悟るのだった。




 明日は更新無しです!

 明後日にはまた更新します!(ボツにならなければ)

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