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三章第16話 嘘と本当




 ――はっきり言って最悪の状況だ。

 破壊の奔流に呑み込まれ、瞬時に見る影もなく崩壊した廊下。

 視界の奥でゆらりと揺らめき、怒気に狂う、帯のような銀の長い髪をもった少女の姿を確認して、モノは事態の悪化を悟る。


「――どこだァァァアア! モノ・エリアスゥッ!!」


「ライラ……」

 

 『破壊竜』ライラ・フィーナス。【超越者】の一人であり、どうしてかモノへと敵意を剥き出しにする少女。

 記憶の抜ける前は、あんなにも友好的であったというのに、この二日間で一体何があったのだろうか。

 加えて、目の前には『青』の『最終兵器』――アズラク。異常気象を起こしたであろう人物であり、こちらもモノを目の敵にしているようで。


 しかも両方とも、かなり、いや、とんでもない強敵と来たものだ。これを最悪と表現せずに居られようか。


「……モノ・エリアス。お主も災難塗れなのだ」


「まったくだ、王様からあいつにどうにか言ってやれないか?」


「残念だが、あの状態のあれに、何を言ったところで聞く耳を持たんのだ」


「王の言葉でもか……?」


「――()()()()()()()()()()()。間違いなく()()()()()()()せいなのだ」


 空色の瞳でモノを見上げながら、憐れむような表情のティア。

 またもやそんな幼女王の口から出る、気になる言葉の数々。王、つまりは主の言葉すら届かない、ライラの暴走の理由への謎。

 『破壊竜』とはライラの称号だが、まさか――、

 

「竜の血……? ってまさかあいつほんとに竜なのか!? 見た目人間だぞ?」


「正しくは混血ね、人間の血に、外に飛んでる竜と同じ血が混ざった匂いがしているもの」


 スンスンと鼻を鳴らすエリュテイア。

 血の匂いなどという、普通の人間では判別できない方法でライラの正体を突き詰める彼女に、ティアはどこか感心した様子で、


「さすがは吸血鬼、なのだ。その通りライラ・フィーナスは竜と人の混血。そのうえ、竜の血は同調両方とも、共鳴力が高くてな、我を失って飛び交っておる奴らに思考が引っ張られているのだろうな」


「そうか、火を吐くっていってた……我を失ってるってのはどういうことだ?」


「ううむ、詳しくは分からないのだ。ただ、何者かの手によって理性が消え去ったことは間違いないのだ」


 王都の空を覆い尽くし、飛び交う無数の竜。ティアが言うには竜達は正気を失っているらしく、それに影響された結果が、今のライラの暴走状態らしい。

 しかし、それだけでは判明しない点もある。


「まあ、だからといってお主だけに敵意を向ける理由はわからんのだ。モノ・エリアス、何か心当たりは……ない筈だったな」


「おう、すまねえ。心当たりとかは全部、記憶と一緒に落っことしてきた」


「記憶を無くした割に、お主は落ち着きすぎなのだ。だが、喚かれるよりはいいのだ、さて、この状況どうする?」


 どうする、と聞くティアの表情は深刻なものではなくて、微笑を携えていた。

 それはどちらかと言うと、モノ達を試しているようにも見えて。


 ティアの真意は分からないが、判断を委ねられた身であるモノは一度、頭の中で今の状況を整理して――、


「……いやあ、正直どうしようもないっていうか」


 打開への、あまりの難易度の高さに思考を停止させた、その時だった。


「モノ、危な――!」


「――『破壊(ブレイク)』ッ!!」


「……!」


 オッドアイを光らせた少女――ライラが放った一撃。

 尽くを粉砕する波が、廊下の壁を走り、床を抉り、空気を割る。

 真っ直ぐにモノを捉えようと、途中の物質全てを破壊し、迫ってくるそれに、対するモノ達は大きく横に飛び回避行動を取って――、


「……『冷却(クールダウン)』」


「――ッ!?」


 地面を蹴ろうとしたモノの身体が、それまで黙っていたアズラクの呟きと共に、ピタリと止まった。

 

 エリュテイアとティアは広い射線から、何とか逃れるが、モノだけはその場に取り残される。


 加速する視界。

 比例して、減速する身体。

 為す術もないとはこの事か。

 抵抗することは勿論、声を上げることも、息をすることも叶わず、挙句、表情を変えることすら叶わず。


 やがて、全てが停止した。

 一瞬のようにも、永遠のようにも感じたが。

 鼓動すらも、全てが止まって、モノの身体は『破壊』を受け入れるだけ。


「――モノおおおおぉぉぉっ!!」


 エリュテイアの悲痛な叫び声。

 しかし応じる時間は無い。

 

 氷の彫刻のように、無抵抗な格好で静止したモノ。


 手を伸ばしたエリュテイアの視界の先で、


 『白』の少女は、縦横無尽な竜の咆哮に呑まれていった――――。



※※※※※※※※※※




 レイリア城の一階、中央部分が爆ぜた同時刻。

 まだ凍った人々の回収作業の終わっていない、王都の西側。


 とある少年は、一人の女と睨み合っていた。

 否、しっかりと目の前の存在を睨んでいるのは少年だけだ。

 女の瞳は左右別々のどこかに飛び散っていて、片方は空を見上げている間、もう片方は地面を見下げていたりと、ばらばらだ。


「……りゅうが、とびました。とあるおとこ、ちからをつかわなかったんです。なんて、うそですよ。かみをこえたひと、あつまった。だから、あたし、かえります。なんてね、じょうだんです」


「…………」


「なんて、それもうそです。いやいや、これもうそかもね。ふふ、いってみただけ。あれ? じゃあ、いまのもうそ? あれ? あれれ? うそが、うそで、うそが、うそで、うそで、うそで、うそで、うそで、うそです? どれがほんとう?」


 うわ言のように言葉を漏らす女。

 女は重心が安定していないのか、ゆらゆら、くねくね、がくがくと左へ右へふらついている。

 少年が女に抱いたイメージは、『何もかもが定まっていない』だった。


 その佇まいを見ているだけで不快な女を前に、少年は、後ろで白雪の絨毯に、恐怖か、はたまた純粋に低気温のせいか、震えてへたり込む少女の名前を呼んで――、


「……()()()


「おにいちゃ……」


「その子を連れて逃げて……というのは無理な話か。出来るだけ巻き込まれないように離れていて下さい、それで、その子に続けて治癒魔法を」


 少年がベータと呼んだ少女の傍には、胸部から夥しい量の鮮血を、白の絨毯へと垂らし、苦痛の表情を浮かべ寝そべる()()()()()()()()の姿。

 

 ベータはその少女の胸部へと淡く優しい光を放つ手を翳しながら、少しだけ少年と距離をとるために移動する。

 致命傷を負っているのに加えて、ベータとその少女の体格差にはかなりのものがある為、この場から逃げ出すことは不可能だからだ。

 

 故に、剣を構えた黒髪の少年は己の全てを犠牲に、全てを守りきる覚悟を決めて。

 未だ尚、気が狂ったように意味の無い言葉を呟く女へと、敵意を向け、いつものナヨナヨとした声ではなく、はっきりと煮え滾る怒りを乗せる。


「……可愛い妹にも手は出させないし、()()()友人を傷つけたお前を僕は許さない」


「うそなのか? ちがうよ、でもそれもうそ。じゃあどれがほんとう? 『ほんとう』なんてどこにもないよ。じゃあ、ぜんぶうそ? でもそれなら、うそがうそってことになるよね? ならそれって『ほんとう』だよね? もういいや、きりがないし、いやまって、くんくん、はは……おまえ、ころす」


「僕はレイリア軍一番隊所属、アルフレッド・アグラン! どうしてここに【()()()()()()が居るのかはわかりませんが……ここで、止めます!」


 黒髪の少年アルフレッド・アグランは、世界の理不尽を体現する者――【超越者】と呼ばれる内の一人と予期せず遭遇。


 濃厚な殺気を放つ女と、剣の振れない少年の闘いの火蓋は今にも切られようとしていた。




 明日は恐らく投稿できません、また明後日には投稿すると思いますのでよろしくお願いします。

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