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三章第13話 親友だもの




 ――――王都に来て四日目。

 この言葉が示すのは、モノにとっての丸二日分の記憶の喪失だ。

 具体的には、王都に来てから二日目と三日目の記憶が無い。一日目の記憶はハッキリとあって、四日目は現在進行中。しかし、その間の出来事がすっぽりと抜けている。

 体感では、一日目の夜に寝て、四日目の朝に起きたような不思議な状態。


 信じ難い事だが、『四日目』という単語は、確かにモノの中でぽっかりと空いた穴をザワりとした不快感で埋めつくす。

 これが本当であると、モノの無意識が、本能がそう、言っている。


 四本、細い指を立てたエリュテイアの瞳を覗き込んだモノは、暫く沈黙。

 それから、何かを決め込んだ様子で頷き、ゆっくりと口を開く。


「四日目……。いや、そうか。うん――エリュテイア」


「……?」

 

「私、ここ二日間の記憶が無いみたいなんだけど……どうすればいいと思う?」


「……………………はいぃ?」


 何言ってんだこいつ、とでも言いたそうな顔で目を細めて、モノを見詰めるエリュテイア。

 この反応はとても正しい。

 急に知り合いに、「ぼく記憶喪失なんだけど」とか言われても、何かのジョークにしか聞こえない。

 でも、モノは至って真剣に、自分の状態を伝えているだけで。


「いやだから、王都に来て二日目と三日目の記憶が丸ごと無いっていうか……」


「…………はあ。あ、あなたね、『アゼルダ』といい、今といい、どれだけ前世で悪事を働けばこんな意味のわからない状況に巻き込まれるわけ? 世界でも滅ぼしかけたのかしら?」


「私の前世とんでもねえな!? 私の前世っていいやあ、引きこもりしてただけだぞ? いやでも、あれは前世でも本当の意味では前世じゃないのか? しかも、エリスも結局巻き込まれてるから一緒だぞおい、まさに運命共同体……私達ズッ友だょ★」


「ブツブツブツブツと訳の分からないことを言わないで欲しいわね。それと、その気味の悪いポーズも止めなさいな! ずっと友達なのは、うん、ま、間違いないけど……ね?」


「おい、なんだよそれ。くそ可愛いな」


 モノを苛む態度から一転、恥ずかしそうに顔を赤く染めながら、モノとの友情を確かめるエリュテイアに、両手でピースを作ったモノは思わず顔がニヤける。

 ぶつかり合ったこともあったが、その少女がこんなにも自分に好意を隠さないでいてくれるということに、何処か優越感に浸るモノ。

 でもまあ、


「……でも、エリス。お前、疑ったりしないのな、私が記憶喪失だってこと」


「突然消えたように居なくなるわ、記憶を無くすわ、モノに有り得ないことが頻発してるのは確かだけれど。……そんなこといちいち本当かどうか疑ったりしないわよ。親友だもの」


「――!」


「あなた一生懸命、私を巻き込まないようにって、『アゼルダ』の時も『テレポーテーション』だっけ? 私達から離れてたけど、そんなの気にする必要無いわよ。一人で悩まずに何でも言って頂戴、私だってモノの力になりたいわ」


「エリュテイア……」


 黒色の真っ直ぐな眼差し。

 その視線を受けて、モノは己の馬鹿さ加減に呆れ返る。そもそも、『アゼルダ』の時に全部一人で抱え込むのでは無く、周りを頼りにすることも大事であると学んだはずだったのに。

 エリュテイアがモノの力になりたい、と言ってくれた。それだけで、こんなにも心強さを感じるというのに、何故今まで忘れていたのだろうか。


 それはさておく、訳でも無いが、エリュテイアの言葉の中には気になる点もあった。


「……って、お前『突発的テレポーテーション』の事気付いてたのかよ!?」


「アルファから少しだけ聞かされていたわ。それで、王との謁見の時に実感? 確信? したってわけよ」


「ああ、あの時は確かに目の前で消えたからな……なあ、あれって、エリュテイア達からはどんな風に映ってるんだ? 単に、私が急に消えたって感じか?」


「……それよりももっと気色悪いわよ。暫く、モノが消えた事に誰も気付かなかったわ……まるで、世界に騙されているみたいにね。『アゼルダ』の呪いよりも強制力があって、質が悪いわ」


「……なるほど。意識していないと、私が消えたことにすら気付かないのか……」


 今までずっと気になっていた、他人から見たモノの『突発的テレポーテーション』の映り方。

 モノは、モノが突然パッと消えたかのように映ると思っていたのだが、それはどうやら違うらしい。

 それ以前にまず、意識していないと消えたことにすら気付いて貰えないらしい。

 『アゼルダ』でアルファの目の前から消えた時は、後から聞くとアルファは瞬きの間にモノの姿が消えたと言っていたが、それは事前にモノがアルファに対して、『今から消える』と言っていたからみたいだ。

 

 考えれば考えるほど謎が増えるばかりの『突発的テレポーテーション』の仕組みにモノが思考を広げていると、口を開くのはエリュテイアだ。


「――とにかく! 私は何があってもあなたの味方よ。気負わずに何でも相談しなさい。一緒に頭を抱えてあげるし、身体だって張ってあげるわ」


「エリュテイア……! ありがとう、大好きだ!」


「き、ききき、急に、な、何言ってるのよ!? ま、まあ? 私も……って何言わせるつもり!?」


「何も言わせるつもりなかったんだが。完全に自爆だぞ、それ」


「う、うるさいわね……!」


 モノもエリュテイアのことは非常に親しく思っているので、モノは先のお返しに友好度を最大限に表現する。

 その返答の途中で完全な自爆を披露し、悶えるエリュテイアだったが、やがてわざとらしく一つ咳払いをして。


「そ、そんなことより、モノ、あなたは大丈夫なの……? 突然、記憶を失うなんて、ハッキリ言って恐怖でしかないわよ。よくそんなに……落ち着き過ぎじゃないかしら?」


「いやいや、私、超驚いてるし、焦ってるぞ?」


「そうは見えないから言っているのだけれど……まあいいわ」


 何だか納得のいっていない様子のエリュテイアにモノは首を傾げる。

 しかし、そのエリュテイアが保留といった形をとるので、モノも深く追及したりしない。

 

「あと、モノが二日間何をしていたかはごめんなさい、私も知らないわ。ここ数日、お互いに好きに過ごしていたから……分かるのは、あなたは城下町に行っていた、それくらいね」


「全く謝る必要ないぞ、これに関しては勝手に記憶を落っことした私が悪いしな。にしても、城下町、か……。私はそこで何をしてたんだ……? いやそれより――」


 エリュテイアとは行動しておらず、何やら城下町に行っていたという、穴の空いた二日目と三日目のヒント。

 だが、これこそ、その日のモノを目撃した人が居ないと答えの出ない問いだ。

 なので、モノは一瞬だけ考えようとしたが、直ぐにそれを止め、エリュテイアへの質問に切り替える。

 そう、この場にはエリュテイアしかいないが、他の面々の安否も気になるのだ。


「アルファとナナリンとか、街の人は無事なのか? 全然外に見当たらなかったんだけど。あ! あと、わかってると思うけど、外の雪を見るに……」


「――ええ、間違いなく『最終兵器(アルマフィネイル)』が原因ね。どうして急に、とは思うけれど」


「ああ、しかも『青』とかだろうなこりゃ」


 外に降りしきる『青』色の雪。ああいう、常識を超えた現象で、鮮やかな色が付いたものは、『最終兵器』の力であると相場が決まっている。

 『アゼルダ』で『紫の最終兵器』であるヴィオレと遭遇した際も、室内だというのに『紫』色の雨が降っていたりしたが、外の雪もこれと似たような物なのだろうか。

 

 エリュテイアとモノの間で、空飛ぶトカゲや塔はさて置き、この異常気象は『最終兵器』の力であるとの共通した認識が出来たところで、エリュテイアは先のモノの問いに答える。


「そうね。それと、アルファとナナリン含めて、街の人の事だけれど……」


「……?」


「記憶を無くしたのだったら、見せなきゃいけない物があるわ。付いてきて頂戴」


 思い詰めたような表情を浮かべたエリュテイア。

 踵をやって来た方へと返し、モノをとある部屋の前へと案内するのだった。



※※※※※



 ――廊下を進み、一つの扉の前で立ち止まったエリュテイアと、それに続くモノ。


「……それじゃあ、開けるわよ」


 取っ手に手をかけるエリュテイアに、モノは扉の向こうから変な気配を感じ取って息を呑む。


 それから、モノが頷くと、ゆっくりと扉は開かれる。


「…………!! こ、これは……!?」


 開かれると同時に、ヒヤリとした白い冷気が漏れ出て、モノの足首を撫でた。

 

 視界に広がるのは異様な光景。


 言葉を失うモノの前にズラリと並んだそれは――、



 ――様々な格好で固まった、氷漬けにされた人々の彫像だった。




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