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三章第11話 破壊竜との一幕




 バキバキという空気が砕かれる音が響き、地面の柔らかい雪が吹雪くように舞う。

 銀髪の少女――ライラの前方が扇状に爆ぜ、原型を留めていられる物はまず無い。

 『破壊』の加護。否、神すらを超えたとされる力。

 その一撃は少女の怒りを際限なく表しているようで――。


「――答えろモノ・エリアス! 何をしたのかと聞いているんだッ!!」


「いったい、なにが……おきて……!」


 真横を切り文字通り全てを抉った破壊の大波に、目を見開いたモノは酷く戸惑い、微かな声を漏らす。

 

 ライラが居ることに加えて、視界の先には本殿を囲うようにして九つの塔が経つという独特な構造をしたレイリア城の姿。

 間違いない、ここは王都だ。

 しかし、一夜にして積もった雪も、降りしきる青の雪も、レイリア城とは別に聳え立った謎の細長い建物も、空を飛ぶ無数のトカゲも、何かに激怒するライラも、何もかもがモノの知っている王都とは違っている。


「ライラ、どうして……」


「とぼけるな! 我は昨日、お前が彼奴らと一緒にいるところをこの目で見た。どうしてだと? これはこっちの台詞だ、どうしてだモノ・エリアス! どうしてこんな惨い事を……!!」


「昨日……? 何言ってんだ、私はお前に訓練に付き合わされてただろうが!」


「……あくまでシラを切るつもりか。なら――ぶっ壊す」


 眉間に皺を寄せ、憎悪に満ちた睨みをきかせたライラは背中の、竜の装飾がなされた大剣を抜く。

 立っているのがやっとの程の常識外の威圧を、放ったライラに、モノは自身の命の危険を予見した。


「ダメだ、完全に聞く耳を持たねえ……となれば、『最終兵器(アルマフィネイル)』――起動!!」


 それからモノは、明らかに冷静さを失った様子のライラに対抗すべく、『最終兵器』の力を解放する。


 胸に抱いた『正義』の感情が管となって、世界の何処かへと繋がり、膨大なエネルギー、『色彩』を抽出。

 圧倒的な権限を持って空間へと滲み出るは『純白』。微かな煌めきを放ち、靄となりて具現化され、モノの周囲に漂い始める。


 ――と、同時に、


「――破壊(ブレイク)ッ!!」


 銀髪の少女が叫ぶ。

 先程の踏み込みだけの牽制攻撃とは違い、竜の大剣に纏わせた破壊のオーラ。

 縦に振り下ろされたその剣が地面に触れ、刹那、向いていた方向が一直線に爆ぜて、爆ぜて、爆ぜて――。

 地面も、雪も、空気も、音も、光も、何もかもを呑み込む『破壊竜の咆哮』と呼ばれる一撃は、蟻の一匹も残さず全てを粉々に分解していく。


「システム・アンロック――『拒絶(リジェクト)』!!」


 人々が恐れてやまない『超越者』という存在。

 その八人の中でも、突出した殲滅力を持つと言われる『破壊竜』ライラ・フィーナスの攻撃を、真っ向から向かい打つのは、半透明の『白』の障壁。

 何かが逆巻くような甲高い衝突音を鳴らし、チリチリと火花を散らし、その火花すら瞬時に破壊の波へと呑まれて消滅する。


「せやああああああッ!!」


 持ち堪えるべくモノは声を張り上げ、感情を奮わせ、『白』の出力を上昇。

 やがて、障壁自体が眩く『白』の光を放って――、



 ――ピキッ。


「……ッ!!」


 ――障壁に亀裂が走った。


 モノは限界を感じ取って、奥歯を噛み締める。

 そもそも、王都へと来る途中でライラと初遭遇を果たした時にも、ライラの一撃を受け、そのたった一撃だけで障壁が崩れ去るのは体験済みだ。

 その上、今回のこれは、あの時の本人が言っていた『手加減した』攻撃では無い。

 全力で、モノという存在を壊しにかかった一発。

 故に、障壁が途中で耐え切れなくなるのは当たり前で――、



「――耐えれないことくらい、分かってるっての……!!」



 ――全力だからこそ、モノにとってチャンスになる。


 呟いたモノは、不意に、障壁の維持の為に突き出していた右腕の手首を左手で掴んで補強。頭の中のイメージを切り替える。


 全てを拒もうとするのでは無く、一度受け入れて。

 貯めを作るのだ。一旦引いて、助走をつけてから押し返すイメージ。


 主の脳内回路の切り替えに呼応して、性質を変えていく『白』の色彩。

 その性質変化を、通常の人間に備わっていない器官で感じ取って、遂にモノは身体に、最終兵器に指令を下す。


「喰らいやがれ! ――『反射(リフレクション)』ッ!!!」


「なんだと!?」


 この世界で特異な物である『色』の力は、神を超えたとはいえ大元は『加護』の力である破壊の衝撃を、その抜きん出た優位性で奪い取っていく。

 モノの右手へ、吸い込まれるように、圧縮されるように、集まって、集まって。

 次の瞬間には、同じ威力の破壊の咆哮が、攻撃をした張本人へと放たれて――、


 一直線に、爆ぜて、爆ぜて、爆ぜた。


「はぁっ……はぁっ……!」

 

 同じようにして、舞い上がる雪。

 モノは、腕の痛みを無視して、息も整えないまま、すぐにその場から離れる為に、


「システム・アンロック――『無重力(グラビティゼロ)』……!」


 『無重力』を発動して、軽くなった身体のふわりと浮かび上がるような感覚を確かめ、準備をする。

 ――そして、モノはその判断をした己を即刻、自分で褒め称えることとなる。


「――攻撃は最大の防御ってなァ!」


「嘘だろ……無傷!? からの、私、ナイス判断! 撤退だ! こんなのまともにやってられっかよ!」


 舞い上がった雪が何かに押されるようにして捌け、中から現れる銀髪の少女。

 獰猛な笑みを浮かべた少女ライラは、全くのノーダメージの姿をモノに見せつける。

 『攻撃は最大の防御』という発言から察するに、跳ね返ってきた攻撃に、瞬時に破壊の波を放ち、相殺したのだろうか。

 だとしたら、有り得ないほどの反射神経、有り得ないほどの戦闘センス。

 こんなものモノでは勝ち目がない。


 本当に、すぐに逃げようと準備をした自分を褒めてやりたい、と思いながらも、モノは思い切り地面を足の裏で押し込み、


「……! くそ、待て! モノ・エリアスッ!」


「待つわけねえだろ、こんなの命が幾つあっても足りんわ!!」


 ――白の弾丸となって、白銀の王都を駆け出した。

 

 制止する声なんて知ったこっちゃない。

 『超越者』の実力はまだまだ把握しきれないうえに、『拒絶』も暫く使えない。

 故に、モノは今の状況を整理する為にも、その場から潔く撤退。

 流石のライラでもモノの速度にはついてこれないようで、どんどん、どんどんと遠ざかる影。


 通常、『超越者』と対峙して生き延びれる場合は殆ど無いとされている。のだが、



 ――『白』の少女は()()()、『破壊竜』ライラ・フィーナスから、()()()無傷の状態で事なきを得たのだった。




 

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