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二章第6話 話せばわかる




 大通りを横に抜けて、人気の無いジメジメとした空気の路地裏。

 三人組の男達に連れていかれる美少女を見て、人々は何を思っただろうか。しかし、その当の本人である少女は、心配と焦りの視線も気づかないまま、自ら率先して、陰へと足を踏み入れる。


「で、『いい事』ってなんだ?」


 見るからにワクワクといった様子で目を輝かせるモノ。

 そんなモノの態度に何か納得いかないような表情を浮かべながらも、取り囲み、徐々にモノの逃げ道を塞いでいく男達。


「『いい事』は『いい事』だろうがよお……!」

「ぐへへ……近くで見れば見るほど可愛いな……」

「俺達、今日はツイてるぜ」


「なあ、勿体ぶるなよな。あんまり時間が掛かるようなら、私も付き合ってられないぞ? 多分、今頃、私を探している奴らがいるからな」


 この男達が言う『いい事』も気になるが、時間がかかるというのなら、モノには他に優先すべきことがある。

 今頃、レイリア城に居るエリュテイア達は消えたモノに気づいているだろうから。

 そうやって急かすモノに、本人に気づかれないよう、すっかり慣れた動作で退路を塞いだ男達はニタっと、嫌な笑みを作って。

 

「いいや、お嬢ちゃん、もう少しここでゆっくりしてこうぜぇ?」


「だから、ゆっくりは出来ないんだって」


「何言ってんだ、この状況分かってる? 今、お前囲まれてるの、でもって、俺らの手には()()


「……それは」


 赤いバンダナの男の手に、キラリと光る鋭利な刃物――ナイフだ。

 か弱い少女を恐怖で抵抗出来なくさせる為に、わざとらしくブンブンと振り回したり、手の上で器用に回してみせたり。

 よく見れば、左右の二人の男の腰にも、短剣らしき物が帯刀されている。


「おおっと、動くんじゃあねえぞ? もし、少しでも抵抗してみろ。一瞬で身体がバラバラだぜえ」


 モノが男達の態度の変化に、ようやく警戒し始め、半歩足を引こうとすると、それを制止するバンダナの男。

 じりじりと、詰め寄ってくる男達の鼻息が荒い。

 

「ああ、なるほど、そういう」


 流石のモノも、ここに来て彼らを突き動かしているのが肉欲であるという事に気づき、心の中で納得する。

 

「気に食わねえな、その澄まし顔。ガキの癖に落ち着きやがって…………まあいい、これからその表情も乱れまくりだろうからなあ!」


「…………」


 ナイフの刀身をモノの首に当てて、舌舐めずり。

 対するモノはというと、その年齢の少女にしては、おかしい程にじっとしていて。

 

「へっへっへ――――へ?」


 遂に、男の手が、モノという美少女の肩に触れた、その時だった。


「そおいっ!!」


 モノは突如、その肩に置かれた手の首をガシッと掴み、掛け声と一緒に軽々と持ち上げた。

 急に身体を襲った浮く感覚に、間抜けな声を漏らすバンダナの男。

 それをそのまま、路地裏の出口、大通りの方角へと投げ飛ばして――、


「ふぎゃん!?!?」


「触るな気持ち悪い……まあ、私が可愛いのは分かるけどな」


 怒涛の勢いで転がっていった仲間に、愕然とした猫背の男と、チャラ男。

 生まれる一瞬の停滞。この少女が投げ飛ばした、という事実を男達が受け入れるまでの時間。

 やがて、体格差のある相手を、軽々と投げ飛ばした少女への不審と、仲間をやられたことへの怒りが、二人の男の顔に表れ――、


「な、何しやがったテメエ……!」


 バンダナの男に代わってモノの頬に、今度は刀身ではなく切っ先を触れさせる猫背の男。

 それから、黙りこくるモノを見て、自分が怖くて動けないとでも思ったのか。

 脅しを強くする為に、少し白い頬を切って痛みを教えてやろうとナイフを握る手に力を入れて、


「そうだ、そうやって大人しくしてろ。じゃないとほら! こうやって血が……血が……?」


 ――パキッ。

 

「………………あへ?」


 高く呆気ない音が鳴り、カランカランと何かが地面に落ちた。猫背の男は、落ちた『それ』を見るなり、ガタガタと顔面蒼白の状態で震え始める。


「な、なんで……!? なんで、ナイフの方が折れ、折れてるぅぅぅう!?」


「この国宝級の乙女の柔肌はそんな刃物じゃ傷も付けられない代物ってなわけだ。んじゃま、お前もぶっ飛べ……そおいっ!」


「あびゃん!?!?」


 『白』の靄が散り、刹那、猫背の男も先のバンダナの男に続いて、大通りへと投げ飛ばされる。


 『最終兵器』の力を解放したとはいえ、オリバーとの戦闘の際の限界ギリギリの出力ではなく、僅かな出力を保ったまま。

 あの小さい集落で目覚めた時と比べたら、随分と『色』の力に慣れたものだ、と自分で感心するモノ。

 

「感情を抑えれば、その分、力も抑えられるって訳か」


 今の状態なら、身体が丈夫になるのと、動作が少し軽くなる程度。

 つくづく、『色』の能力は、感情に左右されるらしい。しかし、コツが解れば、扱う事自体はそんなに難しくはなくて。

 

「ヒ、ヒィィッ!」


「うーん。もうなんか、心折れた雰囲気だけど。まあ連帯責任だ、仲間も吹き飛んだんだし、お前も仲良くな。……そおいっ!」


「うりゃん!?!?」


 もうモノに対しては、このままでも何もしてこないであろう、残りの一人――チャラ男。

 だが、仲間を投げ飛ばしておいて、チャラ男だけ見逃す、というのは不公平な気がするので、取り敢えずチャラ男も投げ飛ばしておくことにしたモノは、半泣き顔のチャラ男の胸倉を掴んで、同じく大通りへ。

 

「全く、余計な時間取らされたな……」


 パンパンと両の掌を払うモノは、完全に無駄な時間を過ごした事を自覚して、一つ溜め息をつく。

 まあそもそも、『突発的テレポーテーション』によって飛ばされて、レイリア城へと戻る時間自体が、無駄であると言えば、それまでなのだが。

 

 ――そんなこんなで、やれやれ、と路地裏から大通りへと出ると、そこには若干の人溜まりが成されていて。

 その人々は路地裏からノコノコと出てきたモノの姿と泡を吹いてくたばった三人の男を交互に見て、信じられない、といった表情をする。


「ん? ……あ、これ飛ばす方向マズったな」


「き、君。大丈夫なのかい……? 少女がワル共に連れ込まれるのを見たというから、こう、武器を持ってきたのだが……これは、一体……」


 なるほど、路地裏へと連れ込まれた時、目撃者が居たのか、と、棍棒を持った城下町に住む一般人であろう男を見て、納得するモノ。

 しかしまあ、人伝いに目撃情報が入っただけで、こうすぐに駆けつけてくれる所に素晴らしい住民性を感じる。

 そんな勇敢な人々に、モノはまずは感謝を述べて、

 

「助けようとしてくれてたのか、ありがとう。でも、ほらこの通りピンピンしてる」


 無事だということをアピールするべく、その場でぴょんぴょんと跳ねてみせる。


「そ、それならいいのだが。あまり君みたいな歳の子が、知らない大人について行っちゃだめだぞ?」


 三人の男に路地裏へと連れ込まれ、その三人の男を返り討ちにした挙句、無傷な少女の姿に困惑を隠せない人々。まあ、無理もない。

 なので、これ以上騒ぎが大きくなる前に、モノはさっさとこの場を後にする事を決意する。

 王都に来て間も無いというのに、問題を起こしたとなれば、怒ると超怖いエリュテイアにドヤされてしまう。

 

「はーい、わかりましたー、ごめんなさーい……てことで、こいつら貰ってきまーす」


「は、え? ちょ、ちょっと待ち――って足速っ!?」


 人々の忠告を聞きながら、モノはちゃっかりと、証拠を隠滅するかの如く、くたばったワル三人衆も確保して、その場から『最終兵器』に力も借りて走り去る。


 そう、『白』の光の帯と、途中で目覚めた三人衆の絶叫を撒き散らして。



※※※※※※※※※※




 先とは違う路地裏へと今度は逆に、男達を無理矢理連れ込むような形で、モノは足を踏み入れた。

 尻もちをつき、震える、すっかり怯えきったワル三人衆を見下ろしながら、拳を鳴らすモノ。


「さてと、お前ら……」


 これも、何時ぶりだろうか。


「――話し合い(説教)の時間だ」


 


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