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三章第4話 レイリアの王




「――なあライラ、王ってどんな奴なんだ?」


 今まで見てきた建物の中でも、複雑な構造で、圧倒的な規模を誇るレイリア城。といっても、モノの見てきた建築物の数なんてたかが知れているが。

 それでも、これから先、この城以上の物が出てくるとは考えにくい。

 つい先日、『アゼルダ』の豪邸の大きさにも驚いたばかりなのだが、これではまるで比べ物にならない。


 そんな城へと、ライラについていく形で足を踏み入れた一行。

 「王の所へ案内する」と、廊下の前を行くライラに、モノはふと、これから会うことになる王の事を問う。


「簡単に言ってしまえば、凄い奴だな」


「……簡単に言われ過ぎて上手く想像がつかない」


「会ってみればわかる。そして、この扉の先が、王の座する場所だ。つまり、今からわかる!」


 立ち止まったライラの前方には、いかにもな蝶のような金の装飾の施された扉。

 扉の向こう側には、王、と呼ばれる人物がモノ達を待っている。

 ライラですら、凄いというのだから相当だ。もし、ガチムチなおっさんとかが出てきたらどうしよう。

 モノはライラと対峙した時とはまた別のタイプの緊張感に、唾を飲み込む。


「ところで、さっきから気になってたんだけど、廊下にも水流れてるのな。これ、人が落ちちゃう事とかないのか?」


「今までに何回も、王が誤って落ちてずぶ濡れになっているのを見たな」


「よりにもよって王がかよ!」


 ここにきて、突然、新しいドジっ子属性なるものを持ち合わせていることが露見する、ガチムチ王。

 もはやイメージがブレブレで、モノの脳内でとんでもない姿になってきているのでこれ以上の不要な属性を付け加えられる前に、さっさと実際に会ってしまった方が良さそうだ。

 故に、モノがライラに、扉を開けてくれと言おうとするが、それよりも先に声を上げるのはナナリンで。


「ねえ、王様に会うのはいいけどさっ★ 護衛? いや、監視役っていうの? 周りにいないけどいいの〜?」


「何を言ってるんだ。仮に、お前達が何をしようとした所で、私一人で十分だろうが。たわけ」


「それもそっか〜、きゃはっ★」


 さも当然の如く、一人で十分と言ってのけるが、ライラの場合、現実にモノ達では相手にならないだろうから、一行はなんとも複雑な気持ちだ。

 だからか、ナナリンもそう言われてから、何も言い返せずにいて。


「――もういいか? では、開けるぞ」


 扉へと手をかけたライラ。

 そのまま、ゆっくりとその扉を押し開け――、なんてことにはならず、


「ふうん!!」


「……へ?」


 ――バァンッ! という城中に響き渡る何かが盛大に破裂するような音。

 モノ達の視界の先では、くるりくるりと煌びやかな装飾の付いた扉が、宙を舞い、その途中で粉々に空中分解されていて。


 木材の粉が降ってくる中、モノ達はアルファを除いて皆、驚愕の光景に唖然と言葉を失った。

 

「ティア! 連れてきたぞ!!」


 そんな突然の出来事に固まるモノ達を無視して、ライラは前に広がる空間の奥の方、玉座と思われる物に凭れかけた人物へと声を張り上げた。

 すると、座する()()()シルエットは、その声を受けて、立ち上がる。

 いよいよだ。

 いよいよ、ガチムチ王とのご対面。




「――お主、何回、扉壊せば気が済むのだ!?」


「…………のだ?」


「来る度に破壊するのやめろなのだ!! お主には色々と……こう、敬意というものが足りないのだ!!!」


 段の上の玉座からモノの鼓膜に届いたその声は、予想していたものとはかけ離れて、高く、あどけない子供のような音だった。

 些か、特徴的過ぎる語尾に疑問符を付けて呟いたモノは、声の主の姿に注目する。

 注目すれば、そこには、モノの脳内に描いていた筋肉達磨ではなく、一人の幼女が存在していて。


「がっはっは! 勢いよく開けた方が気持ちいいだろう!!」


「気持ちいいのは、お主だけなのだ!」


 地団駄を踏み、「がーっ!」とライラの仕打ちに猛抗議する幼女。

 その頭部には、これみよがしに、宝石の散りばめられたサイズの合っていない『王冠』が揺れていた。

 

「ま、まさか……あんたが……?」


「……うん?」


 まさか、とモノが小さく、懐疑の声を漏らすと、その声を聞き取った幼女はライラからモノ達に向き直り、それから、自らの存在を誇示するように、大きく胸を張って、


「お主、モノ・エリアスで間違いないのだ。……そう! この余こそ! レイリア王国の支配者、つまりは王! ――ティア・ニータ・レイリア様なのだ!!」


「…………」


「ふははは! 余の有り余る威厳に、美貌に、存在感に! 言葉も出んか、なのだ! そうだ、ひれ伏せひれ伏せ! なのだ!!」


 発言内容、身分、外見、全てがあまりにも噛み合っていない。

 事前の想像とは百八十度も違う姿で、挙句の果てに、顔を赤くしてプルプルと小刻みに震え出した幼女を見て、モノは苦笑する。


「…………つま先立ち、無理すんなよ」


「……っ!! …………う、うるさい! なのだ!!」


 少しでも身体を大きく見せようとしたのか、ピンとつま先立ちで踏ん張る幼女。

 モノの身分を弁えない、発言にやはり『うがーっ!』と抗議した彼女は、動いたせいでズレた王冠の位置を調整する。

 

 淡い黄色と緑のグラデーションになっている髪を、左で団子状に留め、その団子と左右対称の位置に、斜めに被った輝く王冠。

 更に、空色の瞳を持ち、手に、先端に蝶の飾りの付いた杖を握った、年端もいかぬ子供の姿をした人物。


 モノ達は、大陸一の国『レイリア王国』、その王――ティア・ニータ・レイリアとの、予想外に次ぐ予想外の邂逅を果たした。


 

 

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