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三章第3話 光の都



 

 レイリア王国、王都。

 囲んだ、分厚い白色の石材で出来た円形の城壁を馬車ごと抜けて、モノ達は、一波乱ありつつも、遂にその都へと辿り着いた。


 草原の道を走っていた時より、ずっと抑えられた速度でゆっくりと移ろう景色を一行は眺める。


「おー、凄い豪華な噴水だ」


 呟いたモノの視線の先には、三段積み重なって、噴出する水が綺麗な弧を描いた、立派に磨かれた噴水。

 立派なのは何も噴水だけではなく、周りも、注目すると、清らかな透明度の高い水が、キラキラと晴天から差す陽光を浴びて輝いていて。

 見えた景色の至る所に、水を利用した芸術のような美しいオブジェが設置されていた。


「王都の水の文化は、『浄化の女神』のお陰で、非常に発達してますからね」


「『浄化の女神』?」


「はい。女神といっても、本当の神ではなくて、人間の女性なのですが。その方――チューン様は水の穢れを浄化する力を持ってまして。この水は全てチューン様によって作り出されたものなんです」


「なんか罰当たりな気もするけど……こんだけ綺麗な水を見ると、確かに、その称号も間違いじゃないのかもな」


 王都を飾る、煌びやかな水の造形に、その清水を生み出したという女性を想像して、モノは頷く。

 ナナリンとアルファは見慣れている様子だが、エリュテイアは、モノと同じく初見らしく、「綺麗ね」と感嘆を漏らしていた。


「……ですが、この王都は皆から『光の都』と呼ばれていまして」


「そりゃまたなんで。水の何かじゃなくてか?」


「はい、その理由なんですが――」


「……だあああ! そんなことはどうでもいい!! モノ・エリアス、どうして隊長の座に就くのを拒否するのだ!!」


 王都の中を進む悠々とした馬車の時間を有効活用して、アルファから王都の色々な説明を聞こうと、モノとエリュテイアが耳を傾け始めた、その時だった。

 アルファの隣にどかっと座っていた、銀の帯のような形状の髪の少女が、辛抱ならんといった様子で声を上げ、立ち上がる。

 そんな『破壊竜』と呼ばれる少女、ライラ・フィーナスに、会話を遮られたモノは溜息をつきながら答えて。


「はあ。何回も言ってるだろ、私はそんな人の上に立つ器じゃないって。買い被りすぎだし、私には隊長なんて務まらないぞ」


「大丈夫だ! この王都の軍は特殊でな、一つ一つの隊が独自の性格を持ち合わせていて、尚且つ、どういう性格を持たせるのかは隊長の自由だ! モノ・エリアスが良いと思う奴らを集めればいい!!」


「なんだその自由すぎる軍隊……そんなんで統率が本当に取れてんのかよ」


「我も、我の気に入った奴らばっかりを集めて、好きなようにこの王都を守っている。お前が思っている以上に気楽なはずだ!! だから! お前が! 九番隊の! 隊長に! なれ!!!」


「あ、圧が強い……無理無理、絶対やんないからな!!」


 モノの目の前まで移動したかと思いきや、お互いの息が当たる距離まで、顔を詰めてくるライラ。その肩を軽く押し返しながら、モノは繰り返し、誘いを拒否する。

 対するライラは、信じられないといった表情を浮かべて、


「どうしてだ!? 王都の兵士か兵士を目指している奴らの中では、拒むなんて選択肢が一切出てこないくらいの名誉なことなんだぞ!?」


「私、そもそも兵士じゃないし、兵士を目指してもいないから、全く当てはまらないぞ、その常識」


「嘘だ! お前みたいな面白い奴は、全員、レイリア軍の兵士を目指しているはずだ!!」


「どういう偏見だよ! そもそも、兵士目指す奴らなんて、大体筋肉つく料理ばっかり食ってるんだろ!? 本で読んだぞ!! 私はあんなバランスの悪い食事は嫌だ!」


「きゃはっ★ モノたんも大概、変な偏見だけどね! ふへ、そんな純粋なモノたんもかわいい〜……」


「……あなた達、恐ろしい程に、馬鹿ね」


 どっちもどっちなやり取りを繰り広げるライラとモノに、呆れたような、諦めたような微妙な顔を向けるエリュテイア。

 モノが、何故かどさくさに紛れて抱きついてこようとするナナリンを払い除けていると、苦しそうな声を漏らすのはアルファだ。


「うう、すみません、こうなると師匠は止めれなくて……」


「ほら見ろ、師匠が弟子に迷惑かけてどうすんだよ!」


「知らん!! 我は我が楽しければそれでいい!」


 猪突猛進で滅茶苦茶で唯我独尊。

 これは弟子であるアルファの普段からの気苦労が絶えなそうだ。再び、心の中で友の不遇さに同情しながら、モノは疑問が出来たので一つ、ライラに問う。


「なあ、まさかとは思うけど、もしかして私を王都に招待したのって、それが理由か?」


「まさかもなにも、その通りだが?」


「…………エリュテイア、帰るぞ」


「そうね」


 真面目に来てやった自分達が本当の馬鹿だった、と直ぐにでも『アゼルダ』へと帰還することで、意見が合致するモノとエリュテイア。

 しかし、それを慌てて止めようとするのは、当然のように言ってのけたライラではなく、その弟子のアルファで。


「ちょ、ちょっと待ってください! 確かに師匠の思惑はそうかもしれませんけど、あの、『アゼルダ』の危機を救った方達をひと目見たいと、王が……ってこれ、出発前にいいましたよね!?」


「あ、忘れてた、聞いた聞いた」


「そ、そういえば、そうだったわね。色々とあなたの師匠が強烈すぎて忘れていたわ……」


「お二人共頼みますよ……師匠もですからね!!」


 アルファに言われ、はっとした様子で、王都に招待された理由を思い出す二人。

 危ない、すっかり、王様に呼ばれているのを忘れていた。


「あー、はいはい、おー、弟子よー」


「絶対わかってないな、この人……!」


 きっ、と苛む視線を弟子に向けられ、あからさまに抑揚の無い声で納得の意を示すライラに、アルファは深い溜め息。


「帰るなんて寂しいこと言わないでよ〜★ せめて私が依頼人に報告するまでは待ってて。そしたらナナリン全力で何処までも、モノたんに着いていくからっ★」


「さらっと本人の前で堂々とストーカー宣言……」


 今までにも結構思ったことがあったのだが、『加護者』とか『神』とか『超越者』とかいう大それた存在よりも、ナナリンの方が恐ろしいのではなかろうか。


 などと、ゾワっと身震いした身体を、擦りながらモノが思考していると、ライラが、突然に、今までとは打って変わって落ち着いた声色を放って、


「――冗談はさて置き、実際、王都に暫く滞在するのはモノ・エリアス、お前にとってもきっといいと思うぞ」


「な、何をまた急に……」


 見れば、その表情にも、それまでの巫山戯た色は一切無く、左右で色の違う瞳で、真剣な視線を向けていて。

 もはや別人かと疑ってしまうような、纏う雰囲気の変わりよう。再び、人ならざる存在感を放ち始めたライラに、モノは声にならない声を飲み込み、喉を鳴らす。

 モノだけではない。馬車に乗った全員が、ライラのそれに惹き付けられ、呑まれた。

 時間が止まって、永遠であるかのように錯覚する程の、一瞬にしては濃すぎる緊張。


 やがて、モノの頬を冷や汗が伝い、その冷たさを感じると同時に、ライラは口をゆっくりと開き――、


「……お前、目的を見失っているだろう?」


「――――!」


 そのあまりの衝撃に、モノは大きく目を見開き、アメジストの瞳を震わせて、


「な、んで」


「我は生き物のオーラを感じ取ることが出来てな。お前は、長年生きてきた我がかつて見たことの無い程に、()()()()()()()をしているが……目的を見失った者が宿す虚無のオーラも出ている」


「虚無……」


 何もかもを見透かされているような、それこそ、『神』か何か超常的な存在を前にしたかのような、そんな感覚をモノは目の前の少女に抱かずには居られなかった。

 ライラの発言はズバリ、モノの置かれた状況を指していた。

 

 そうなのだ。モノは元々、生前に暮らしていた村『ウォルト』を見つけて、そこに訪れ、妹に真意を確かめ、村人達との関係をやり直す事が目的であった。

 しかし、村が二年前に滅んでいたということを知ってしまったモノには、その目的の意味が失われていた。

 そんな中、『アゼルダ』の事件に巻き込まれ、一度は、街を救う、という目標が出来たものの、それを達成した今、モノは、目的や目標というのを分かりやすく見失っていて。


 モノとの付き合いも浅いというのに、オーラというものを感じ取って、その虚無を見抜いたライラ。

 モノが言葉を失う中、ライラは徐ろに、馬車の前方の窓を隠していたカーテンを開けて、


「この王都で、お前のそれを満たす何か大きな目標が見つかるといいな」


「――――」


「さあ、着いたぞ。このライラ・フィーナスが、レイリア王国軍の一番隊隊長として、お前達を歓迎する。……ここが『光の都』の、否、王国の中心――――レイリア王城だ」



 窓の先、視界に収まりきらない城を、新たな舞台を背に、『破壊竜』と呼ばれる少女は、一行に、にやりと笑った。



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