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三章第2話 【超越者】




 声を上げたアルファが、馬車の外へと出て、それに続くエリュテイアとナナリン。

 そんな中、モノはどこか抜けた空気に安堵を覚えながらも、視界の真ん中に銀髪の少女を見据え、睨みをきかしていた。


「アルファ……師匠って、こいつが?」


「はい、正真正銘、僕の師匠です」


 アルファに向け、にこやかな表情を浮かべた少女。

 それから、少女はその色の違う双眸で、何処か品定めをするような視線を、モノ、ナナリン、エリュテイアの順に向ける。


「『白』のモノ・エリアスと、盗賊ナナリンと、『吸血鬼』のエリュテイアか。ふむ……いいな、特にモノ・エリアス、お前はいい」

 

「なんの事かはわかんないけど、どうも。で、アルファの師匠さんはわざわざ、ここまで出迎えか?」


「出迎え、そうだな。我はお前達を出迎えに来た」


 頷く少女。緊張から一瞬だけ解放されたように思えたが、彼女から放たれる強大な存在感は未だに、モノを押し潰そうとしていて。

 そこから言いようのない、何か凍える感覚を背筋が捉えているせいで、モノは強ばった身体から力が抜けない。


「そりゃまあ、弟子想いなことだな。で、今から、あんたもこの馬車に乗って和気あいあいってことでいいのか?」


「はっは! いいぞ、モノ・エリアス! 警戒は大事だ」


 豪快に笑う少女は、その身に一枚だけ纏ったボロ布の服を揺らして、モノ達から半歩だけ足を下げ、距離を取り、


「動物が生き残る為に、一番大事なのは危険察知の能力だ。だからモノ・エリアス、お前のその態度は正しい」


 前傾姿勢になった少女は、そっと、背中に携えた大剣こ柄を握って――、


「……! 皆、伏せろ!!」



「――『破壊(ブレイク)』ッ!!!」



 ――バキバキッと世界が割れる音がした。


 振り下ろした大剣から、吹き荒れたのは純粋な破壊のエネルギー。

 地面を、空間を、世界をまるでガラス細工のように、粉々に砕いていく目に見えない衝撃波が、縦横無尽に駆け巡り、通り過ぎる。

 一瞬の出来事。

 銀髪の少女の前方の景色が、モノ達を巻き込んで扇形に爆ぜた。


「し、師匠!?」


「……いい、反応速度だ」


「モノたんさっすがぁっ★」


 舞う砂埃。本来なら何も残らないであろう一撃の中、瞬時に半透明の障壁(バリア)を展開し、エリュテイアとナナリンを守ってみせたモノに、少女は称賛を送る。

 モノの障壁を展開する為に突き出した、両手がガクガクと震え、痛みが走る。

 

「しかも、我の一撃を真正面から受け切るとは。想像以上だぞ、モノ・エリアス!」

 

「ふ、ざけんな……! いきなり、こんな……!」


「なに、全然手加減したぞ? 曲がりなりにも『加護者』の一人を倒したんだ、これで死ぬとは思っていない」


 会話をしている内に、遅れてミシミシと音を立てながら亀裂の入っていく障壁。

 そして遂には、


「一発で『拒絶』の障壁が消し飛ぶとか、どんな『化け物』だよ……!」


「それは違う。『超越者』の攻撃を、むしろよく一発耐えたと言っているんだ」


「『超越者』……?」


 また当たり前のように飛び出してきた知らない単語に、疑うような表情を浮かべるモノ。

 しかし、モノ以外の、エリュテイアとナナリンにとってはその単語は、相当な衝撃を持っていたらしく。


「『超越者』ですって……!?」


「世界に八人いるっていう、あの……!?」


「???」


 モノを置き去りにして、二人のこの驚きよう。確かに、『超越者』などという言葉の響きから、只者では無い様子だけは理解出来るが。


「え、モノたん、ほんとに知らないの?」


「ああ、うん」


「……まあ、モノたんだから仕方ないか。きゃはっ★ えっとぉ、『加護者』はもう知ってるよね、アゼルダのオリバーみたいな」


「私だからっていうのはなんか釈然としないけど、説明助かる」


 モノは視線で説明を続けるように促して、それを受けたナナリンは一つ頷く。


「『超越者』っていうのは、世界に八人しかいない、『加護者』の中でも神を凌駕したって噂されてる人達で……うーんと、とにかくすっごい人!!」


「大体イメージは掴んだけど、雑だな!? ……まあ、ナナリンだから仕方ないか」


「きゃはっ★ 言い返された〜っ」


「お前達、冷静なのか馬鹿なのかわからんな?」


 緊迫した状況に似合わない、普段通りの軽いテンポで会話をするモノとナナリンを見て、腕組みをしながら怪訝な表情を浮かべる少女。

 そこに苛立ちの乗った冷たい声を放つのは、『赤』の靄を漂わせたエリュテイアだ。


「オッドアイに竜の大剣の『超越者』なんて、世界に一人だけ。……あなた――『破壊竜』()()()ね?」


 鋭い眼光で、目の前の少女を睨みつけたエリュテイア。『最終兵器(アルマフィネイル)』を起動したせいもあるだろうが、溢れんばかりの怒気だ。

 しかし、銀髪の少女は、普通の人が卒倒しそうな怒りの眼差しを一身に受け止めながらも、何食わぬ様子で。


「そうだ、我はライラ――ライラ・フィーナス。レイリア王国軍の一番隊隊長であり、『破壊』の『超越者』であり、そこのアルフレッド・アグランの師でもある」

 

「……そ。で、そんなあなたがどうして私達をいきなり襲うのかしら?」


「そ、そうですよ師匠! モノさんは僕の恩人ですし、ここに居る皆さん、相当な要人ですよ!? それなのに、なにいきなり『加護』使っちゃってるんですか!!」


「喧しい弟子め、喚くな、消し飛ばすぞ? ……お前、そう簡単に死なんだろうし」


「理不尽だ!!」


「はは……」


 畏怖を覚える相手ではあるが、どうもアルファとの会話を聞いていると、ハチャメチャな師匠とそれに振り回される弟子という、和やかな雰囲気が漂う。

 思わず、気を張っていたモノも苦笑するが、エリュテイアは仏頂面のままで、


「……ちゃんと、質問に答えなさい」


「せっかちだな。もっと、ゆとりを持て。ましてや『吸血鬼』という長命種族だろうに、人間等の短命種族よりも短気でどうする」


「お生憎様、私はいきなり襲いかかってくる奴に、気を許せるほど心が広くないの」


「……それは確かに。して、お前達に攻撃した理由だったな?」


 意外とエリュテイアの怒りの理由に、すんなりと理解を示すライラ・フィーナス。

 どこか拍子抜けするような態度をみせたライラは、それから、ようやく先の質問に答えるべく、口を開き、


「そんなのは決まっているだろう」


「…………」


「――お前達から強そうな気配がしたからだ!」


「はぇ?」


 前のめりになって目をキラキラと輝かせるライラ。

 モノは今度こそ跡形もなく消え去った緊張感に、無意識的に間抜けな声を漏らす。

 そのライラの表情と、仕草といったら、年相応の無邪気な少女の『それ』で――、


「だから、我はお前達がどれだけ強いのか試したくなった!! 突然だったのは詫びる。うん、正直に言おう…………我慢できなかった!!」


「…………」


「がっはっはー!!」


 腰に手を当てて胸を張り、盛大に笑い散らかす、先程まで本能的な危機を感じ取っていた少女ライラの姿。

 モノ達一行は、天変地異でも起きたのかと思うくらいの、酷すぎる落差に、ライラへとジトっとした冷ややかな視線を向ける。

 冷ややかな視線を向けるメンバーの中には当然の如く、弟子であるアルファも含まれている。まさかの、自分の弟子にすら呆れられるレベル。


 高笑いが響く中、エリュテイアはそんなアルファに、『最終兵器』を解除しながら、視線を移して、


「ねえ、あなたの師匠、もしかしなくても……馬鹿よね?」


「うっ……! 否定出来ないのが辛い……!」


「アルファお前、やっぱり苦労人だよな……」


「きゃは……★」


「その同情的な視線も辛いのでやめてください……。ほんと、うちの師匠が巫山戯た奴ですみませんッ!!!」


 自分の師の言動に、今までの苦労が偲ばれる涙を流しながら、謝り倒すアルファ。

 ペコペコと頭を上下に振りまくるアルファを、どうどう、と落ち着かせながら、モノは改めてライラの方を向き、我慢していた物を爆発させ――、


「がっはっはー……じゃねえよ!! 下手したら今頃木っ端微塵だったろうが!!」


「がっはっはっは!! 良いではないか、良いではないか!」


「今の場面で良いか悪いか決める権利、お前に無いからな!?!?」


 何を考えてるんだこいつは。いや、何も考えてないからこうなってるのか。

 『乱暴で、脳筋で、問題ばかり起こしてて』と思い出すのは、アゼルダでふと聞いた、アルファの師匠のイメージ。

 まさにその通りである。一字一句違わない。

 

 何がそんなに面白いのか不明だが、暫くして、腹を抱え、ひとしきりに笑いきった後。ライラは「ひー、ひー」と目尻に溜まった涙を拭いながら、モノを見つめてくる。


「モノ・エリアス。お前はやっぱり良かった。それに、これからもっと良くなる。我の勘は当たるぞ?」


「はあ、そうかよ」

 

「うむ、だから――」


 身体に、振り回されてどっと疲労感が襲い、げんなりと力無い様子で空返事をするモノ。

 が、しかし、その滅茶苦茶な展開はそこで終わらなかった。


 ライラは、「だから」、と、短く間を作ってから、息を吸って、


「――お前、今度編成される九番隊の隊長になれ!」


「はぁ!?!?」



 とんでもない爆弾が、投下された。




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