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二章第29話 【太陽すらも焼き切って】




第一色装(ファーストカラーズ)・アンロック――『血陽(ブラッド・サン)』!」


 そこら中から、エリュテイアの頭上へと集まっていく住民達の――眷属達の赤く光輝き、夜の街並みを照らす血。

 その神秘的な光景に、初めて身の危険を感じたのか、オリバーは激しく取り乱す。


「これは……!? 計画は完璧だったはずだ! 完璧でなければいけないんだ! 一つの失敗も無かった筈なのに、どうして! どうして、『呪い』が解けたんだ!?」


「やっぱりこの街の『盲信』もお前のせいかよ、最悪だな。あとお前、完璧主義すぎじゃね? そんなんだと疲れるだろ?」


「当たり前だ! 父さんの計画が間違っているはずがない! 偉大なる父の計画を、僕は寸分の狂い無く、遂行しなければッ!! そう、何一つとして逸れることは許されない! なのに、何故ッ!?」


「まさかのここでファザコン要素も足してくんのかお前……属性過多だし、そもそもお前に萌えとか無いから意味無いぞ、そういうの」


「何故だ、何故! 何故何故何故何故何故何故何故! 何故なんだ!!」


 先までなら、激昴して直ぐに襲いかかってきてもおかしくはない、モノのオリバーを小馬鹿にした軽口。

 しかし、今のオリバーにはそんな言葉に反応することも出来ないレベルで余裕が無いらしく、うわ言を馬鹿の一つ覚えのように繰り返していた。


「んで、エリュテイア。一発デカいのぶち込むって話だけど……」


「ええ。血を集めきるまで、少しの間、時間稼ぎ頼んだわよ」


「了解、任せろ! ……てなわけで、不本意だけど、ロリコンサイコパス鬼畜クソファザコン野郎のそこのお兄さん! ちょっとこの超絶美少女と遊ぼうぜ」


 ウインクをしながら、顔の前で片手で横ピースを作り、あざとく決めポーズを取るモノ。

 そんな全力の、普通の男児なら拒むことなどしないレベルの美少女の誘いを、オリバーは無視。力を集め、膨れさせるエリュテイアへと飛びかかる。


「させないぞッ! これ以上、好き勝手はさせないッ!! 僕と父さんの邪魔をするなァァァアアア!!」


「おい! こんなレベルの高い美少女が誘ってんだぞ、無視すんな! しかも、好き勝手してんのはお前だろうが!」


「くそがッ、鬱陶しい!!」


 その間に割り込むようにして『拒絶』による障壁(バリア)を展開するのはモノだ。

 圧倒的強度を誇る障壁に、行く手を阻まれたオリバーは苛立った声を上げる。


「このッ、このォッ!」


「うお、なんつう衝撃だよ! 怪力にも程があるだろ……!」


「僕は神に選ばれたんだぞ!? この程度の障壁、簡単にぶっ壊してやるッ!」


 オリバーから繰り出されるのは一秒間に何発もの手刀の連撃。障壁との衝突の度に発せられる、バリバリという衝撃に、モノは全力で耐える。

 否――、


「頭に浮かんだだけだけど、物は試しだ! 喰らえ! システム・アンロック!!」


「死ねぇぇえッ!!」


 突如、脳の、いや、魂の奥底から響いた力。

 モノは新たな『白』の力を、世界へと顕現させる。

 『正義』を糧に、誰かを守りたい、その願いを原動力にして、障壁は一段階の進化を遂げた。

 

 モノが叫ぶと同時に、目が眩むほどの『白』の煌めきを放つ、半透明の障壁。

 真っ新に、全てを始まりへと返す光。

 自分以外の何もかもを一方的に拒絶する光。


 光はオリバーの打ち出した手刀のダメージを、取り込み、その全てを、


「『反射(リフレクション)』!!」


「……ッ!?」


 ――オリバーへと、跳ね返した。


 予想だにしなかったであろう現象に、オリバーは為す術なく、自分の攻撃の威力によって吹き飛ばされた。

 

「お、おう!? なんかすげえの出た!! ……とはいえ、一緒に障壁(バリア)もダメになっちまうのか。こりゃまた使うタイミングは考えねえと」


 硝子の破片、或いは透明な水晶のようになって、モノの周りに飛び散り、漂う、ついさっきまで障壁だった物。

 『反射(リフレクション)』、使った感じ直前のダメージを跳ね返す能力のようだ。

 が、強力な『システム』故か、展開していた『拒絶』を使い切ってしまうらしい。なかなか難しい力だ。


 などと思考していると、瓦礫の山から、その瓦礫を除けて、這い出てくるオリバー。

 流石に今回のは効いたらしく、鼻血を垂らしていて、


「やっぱ、今のでもダメか、相変わらずタフな野郎だ。……けど、流石に無傷では無いみたいだな」


「あ、あぁぁ……ふざけるな、ふざけるなふざけるなふざけるな!! 僕は『加護者』だぞ? 神になるんだぞ? 神を超えるんだぞッ!? なのに、この僕が、なんでこんなことにッ!? 生贄だァ、生贄が足りないぃぃぃいいいい!!」


 瞳孔すらも開き、宛もなく喚き散らして、正気を完全に失った様子のオリバー。

 着々と追い詰められている証拠だ。

 モノは、後ろを振り向き、エリュテイアに問いを投げかける。


「エリュテイア! あとどれ位だ!?」


「もう少しよ! 本当にあと少しだけ!」


「おっけー、踏ん張りどころだな」


 優に、人間一人分の大きさを超えた赤い球体にチラと目を向けながら、モノは頷く。

 それから、視界の奥のオリバーへと向き直り、意識を高める。

 あと少し。凌ぎきれ。


「させない、させないさせない!! 僕を塞ぐ障害は、全部殺す!! そして我が糧にィ! お前らのクソの役にも立たない命、この僕が有効活用してやるよォッ!!!」


 理性を失ったことがかえって『加護』の力を強めたのか、オリバーの身体が、一瞬、消えてなくなったかと錯覚する程の速度で跳ねる。

 だが、こちらもまた限界をとうに超えている。


「――絶対に通さねえ!!」


「ぐうあッ!?」


 常人には見えない速度に、常人には見えない速度がぶつかる。


 モノの足の裏、飛び蹴りがオリバーの胴体を捉えていた。

 まさに光の速さ。白き弾丸。

 白く、稲妻の如き力の奔流をその身体に迸らせ、大気を喰らう。


「あぁぁ! あぁぁぁああああッ!!!」


「そおいっ!」


 もはや言葉にすらなっていない絶叫と共に、起き上がり、再び迫るオリバー。

 しかし、それにも、モノの飛び蹴りが直撃する。


「なんなんだ、なんなんだよお前はぁぁああ!? ついてくるな! この僕の速度に追いついてくるなぁぁあああああ!!」


「はあ、なんつうか、お前もう哀れだな」


「この僕が哀れ!? この僕がッ!? 僕からしたらお前らみたいな矮小な存在、無価値な存在の方が余っ程哀れだ!! お前ら如きが、偉大な父から生まれたこの僕を哀れむなァ!!」


 二度目の飛び蹴りが急所に入って身動き取れないのか、腹を抱え蹲り、血反吐を吐きながらみっともなく怒鳴るオリバー。

 その様子を何か、モノは可哀想な物を見るような目で見詰め、派手にぶちかました故に息を切らす。

 そこに投げかけられるのは、ずっと待っていた声で。


「……モノ! よく耐えてくれたわ! そこから離れなさい!!」


「わかった! ……ふう、正直、もうカラッ欠でどうしようかと思ってたところだ。危ない危ない」


 エリュテイアに言われ、直ぐにエリュテイアとオリバーの間に立っていたモノは飛び退く。

 そして、エリュテイアの頭上の輝きに、息を飲んだ。


 ――それは、太陽だった。


 集められた赤い血でできた、太陽。

 最初と比べて、尋常じゃない程に膨らんだ赤の天体。


 その血の太陽の真ん中からいずるのは、先までのそれと比べ物にならない濃度と鮮やかな『色彩』を放つ、『赤の槍』。

 『赤の槍』は矛先で、蹲り絶句する男の姿を見詰めた。


「――さあ、遠慮なく喰らいなさい!!」

 

「馬鹿な……馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿なこんなはずでは――――」


「はあああッ!!」


 エリュテイアが手を振りかざし、数百人分のありったけの『怒り』を乗せて叫んだ。

 刹那。

 照準を定めた、巨大な槍は、オリバーへと一直線に飛び出し――、


 圧倒的な破壊の煌めきは、そう、太陽すらも焼き切る勢いで、その身体を、温泉街の風景ごと、飲み込み、赤く、赤く、穿っていった。



※※※※※



「はは、すっげ……」


 出来上がった地面の巨大な窪みは、真っ直ぐと何処までも続いていた。

 モノは想像を遥かに上回る威力に、思わず感嘆を漏らす。


「ふん、どんなものかしら。……なんて、あいつ死にかけだけど、まだ息があるみたいよ、ほら」


「うぇ? ……うわ」


 エリュテイアに言われ目を凝らすと、視界の先には、その巨大な窪みの中心に無様に転がり、ピクピクと痙攣する男の姿。

 モノは、そのあまりの気持ち悪さに、呆れたような声を漏らす。


「…………ぃ、ま、だだ、ぼ、くの、ち、から、せいいぶつ、を……!」


 何かを必死に求めて手を伸ばす格好はそれはそれはみっともなくて。

 手を伸ばすだけで、それ以外の部位が動いていないので、もはや何をする事も出来ないというのに。


 ――そして、そこに突然、聞き覚えのある声が、響いた。


「――きゃはっ★」


「な、この声は……!」


「はーい、正解です! モノたんの愛するナナリンだよん!」


 軽い身のこなしで、民家の屋根を渡り、モノの隣へと着地する、蜜柑色のツインテールを揺らす、薄い青の瞳の少女。

 その少女の手には、なにやら薄らと光る()()()()()()()()()()()()()が握られており――、


 まさかのタイミングの登場に、モノが驚いていると、ナナリンはそのペンダントをオリバーに見せびらかすように、にやりと笑う。

 対するオリバーは、絶望の表情を浮かべていて。


「きゃはっ★ そこの貴族さん、もしかして、お探しの物はこれかな? だとしたら残念賞!」


「な、ぜ、おま、それを……!!」


「――『聖遺物』、私の盗みの依頼の品でございますこれは、今から消えちゃいます! ……えいっ★」


 能天気にそう言って、ペンダントへと魔法を放つナナリン。

 魔法を食らったペンダントは呆気なく砕け散り、その光を失った。


「きゃはっ★ ご愁傷さま〜っ★」


「――――」


 相当ショックだったのか、はたまた最後のトドメになったのか、遂にガクッと意識を途絶えさせるオリバー。


 そんなやり取りを見届けて、モノは、いや、全員が、



 ――この戦いの完全勝利を確信したのだった。

 




 くうーっ、いいとこを持っていきやがる!

 そんなこんなで一件落着!!


 あ、ちなみにオリバーの父ですが、オリバーがファザコンなら、父は極度の親バカです。

 

 こういう裏話系もTwitterなどで、これから話していこうと思っているので、是非フォローよろしくお願いします!!


 アカウント名:折時異音

 twitterID:ionoritoki

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