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一章第2話 ある日、森の中。幼女に出会った。




「……ああ、うん。そんな気はしてた」


 自身に起きた変化について、悲しすぎる結論を導き出したアインは、埒が明かないので一旦外に出てみることにした。

 のだが、そこに広がるのは想像通りの光景。

 あまりの一致度に思わずアインは半笑いしてしまう。


「なんかの遺跡っぽい建物で、しかも植物伸びきってたからな……まあ普通に考えて森の中だよな。加えて人がいないパターンの」


 人の気配など全くなく、あるのは様々な虫、鳥、獣の類の鳴き声だけ。鼻腔を突く木々の独特な香りが、視界を染める緑色が豊かな自然を表現している。

 このボロ布を纏っただけの格好で人に会うことに抵抗を覚えていたが、こうも人がいなさそうな空間に居るとなると逆に不安が募る。


「そういえば、今のところは大丈夫だけど、喉の乾きとか空腹も心配だな。せっかく復活? したのにこのまま野垂れ死にするとか残念すぎる。それに虫も嫌だ」


 今はとにかく分からないことが多すぎる。それを確かめるためにはまず人と会うことからだ。このままくたばっている場合ではない。虫が嫌だし。

 そう感じたアインはゆっくりと行動を開始する。この森の規模を把握してない以上、あまり体力を使っても危険だから無理は禁物。


「とは言っても、右も左もわからない状態なんだが……まあ、歩き回ってればなんとかなるか」



※※※※※※※※※※



「――――なんとかなるわけないだろ、頭お花畑かよ! 景色が何処も彼処も、ぜんっっぶ一緒! ここさっきも通っていたよ、ワトソン君!?」


 当然と言えば当然なのだが、森の中を現在位置不明の状態で歩き回ったらこうなるわけで。

 ワトソン君、誰だよ。とツッコミたくなるが、そのツッコミを入れる人が居ないので完全にボケが一人歩きである。

 歩き始めて、結構な時間が経ったというのに、一向に森から抜けれる気配がない。それどころか、同じところをぐるぐる回っているかのように錯覚するくらいだ。実際には、一直線に歩いているので、そんなことは無いはずだが。


「いよいよ腹も空いてきたし、これほんとに死ぬんじゃ――」


「……あれー? お姉ちゃんどしたのー? 迷ったー?」

 

 徐々に短期間で二度目の死の実感が近づいてきたところに、突然、アインの聴覚に元気な声が響いた。

 その声は、動物とか虫とかの鳴き声とは違う、アインが理解出来る『意味』を持っていて――、


「ん。ちびっ子……?」


「そうー! エルはね、七歳だからちびっ子ー!」


「おおう、元気だな……」


 声のした方向を見やると、そこには小さなシルエットが一つ。思わず、『ちびっ子』と声を漏らすと、そのシルエットは両手の指で七を表現しながら笑った。

 そのテンションに圧倒されながら、アインは少し仰け反る。

 茶色い髪を短い二つ結びにした、黄緑色の瞳を持つそのちびっ子を見て、アインは一瞬のうちに思考を巡らし、


「そうだな……はは、うん、なんでもないよ。それじゃあ俺もう行くよ、またな!!」


「えー!? まってよー! お姉ちゃんそんなにボロボロなのにー?」


 そそくさとこの場を立ち去ろうとるアインをちびっ子が呼び止める。確かに、人との出会いを求めてはいた。

 だが、森の中、他に誰もいない状況で、一人の男が幼女と出会うとかどう考えても犯罪――、


「……ああ? 『お姉ちゃん』? あ、そうか、今、俺、美少女だったわ。ならいいのか? ……うーん。なんかそれはそれで、この身体を利用して幼女にお近づきになろうとしてるみたいで不味いような……」


「お姉ちゃん、なんか一人でブツブツ言ってるー! 変な人ー!」


「変な人言うな! 今俺の中で大事なふたつの要素が天秤にかけられてて大変なんだよ! ……いやまてよ」


 全く、人の気も知らないで呑気なものだ。と、思ったところでアインは気づく。


「幼女が一人きりで森の中を歩いてて呑気……?」


「んー? お姉ちゃん、大丈夫ー?」


 突然やってきた犯罪臭に、動揺してしまっていたがよくよく考えれば、この状況は有り得ない。アインですら、野垂れ死にそうで危機感を感じていたのに、幼女がこんなに元気で呑気な訳がない。

 つまり、


「……ごほん。()、道に迷っちゃったんだけど……もしかして、君、道わかるのかな?」


 一度咳払いをして、一人称を身体に合わせて直し、子供に対する優しい接し方で聞くアイン。それに、幼女は、満面の笑みで答える。


「うん! ここよく来るから慣れっこ!! 道に目印もちゃんと付けてきたよー!」


「そっかぁ……!」


 やはりそうか、と納得するアイン。道を知っていないとここまで落ち着き払うのは無理だ。いや、もしかしたら世界にはそういう状況でも常に冷静な幼女がいるかもしれないが、多分、相当なレアケースだ。

 森の中で迷ったらだいたいが泣きじゃくるに決まってる。

 とりあえず、そうと決まれば話は早い。

 そんなこんなで、色々な確認が取れたアインは幼女の前にしゃがみ、その腕をつかみ、そして――、



「…………だずげでぐだざいっ!!」



 縋り泣いた。

 

 

美少女が森の中で幼女に泣きつくという、訳の分からない構図の出来上がり。


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