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二章第20話 幾つもの強さに支えられて



「一つ、頼みがある」


「……僕はモノさんに命を救われた恩がありますから、出来る範囲であればなんなりと」

 

 点在していた全ての要素は一つの線となり繋がった。

 何も知らずに、戸惑うだけだったところからよく、ここまでやってきたものだ。

 やっと、ようやく、全貌が見て取れたし、やるべき事も定まった。


 しかし、そういう時に『あれ』がやってくることをモノは知っている。

 最悪のタイミングで、全てを置き去りにする『あれ』が。


 だから――、


「……俺は多分、もうすぐこの場所から消える。だから、少しだけでいい。この街を守ってくれ」


「――――」


「無茶はしなくていい、ヤバくなったらすぐに逃げてくれてもいい。けど、少しだけ。守ってくれ」


「――――」


「絶対に俺は戻ってくる。多分、俺だけだと勝てないだろうから、飛びっきりの助っ人を一人連れてくる……だから、頼む」


 オリバー・バイシェルトのあの力。

 首を絞められ抵抗を許されなかったあの時、モノは直感的に理解した。

 恐らく、モノだけではあいつには勝てない。

 なら、今まで鬱陶しいだけだった『あれ』――『突発的テレポーテーション』をメリットを最大限に利用してやる。


 モノの真っ直ぐな視線。

 その視線から何を読み取ったか、それまで黙り込んでいた、アルファは口を開き――、


「――わかりました」


「……! 本当か!? 俺、結構、突拍子のないこと言ってねえし、説明不足甚だしいぞ?」


「突拍子は、無いですね。皆無です」


「なら、どうし……」


「――けど、今のモノさんの顔つきが。僕が一番に尊敬する人の浮かべる表情によく似ていたものですから」


 今まで、相手にすらされなかった戯言だ。

 モノからしたら真実なのだが、『突発的テレポーテーション』のことを信じる者は今までにいなかった。

 いや、アルファだって全然分かってないはずだ。

 何も説明してないし、『今から消える』だなんて、まともに取り扱う奴はいない。


 けど、アルファは頷いた。


「言ってることも全く意味がわかりません。けど……」


「けど……?」


「――任されました」


 ああ、わかる。

 アルファは決してモノの言葉を信じたのではなく、『モノ』を信じたのだと。

 

「――――」

 

 図書館で目的を失い、沈んだ心。

 ナナリンの優しさに触れ、暖かくなった心。

 誰にも信じて貰えず、一度は折れた心。

 エリュテイアの姿を見て、再度立ち上がった心。

 世界の理不尽さを知って、怒りに奮い立った心。

 アルファに信頼で受け止められ――、


「っ……うっ……!」


「え!? モノさんどうしたんです!? やっぱり何処か痛いんですか!?」


「ちげえよ、バカ」


「バカ!?」


 ――安らぎを覚えた心。


 思えば、この街に来てからというもの、モノの心境は砂漠の天候の様に、形を変えてきた。

 しかも外部の環境によって沈み、人との関わりで再起する、を繰り返しているように思える。

 そうなのだ。

 モノは元々、『魔力無し』を理由に閉じこもっていたせいで、他の人間よりも脆く、弱い。

 その割に、正義感が強いから、逃げたい気持ちと自責の気持ちがせめぎ合い、なかなか負のスパイラルから抜け出せない。

 そんな時にモノを引っ張り出してくれるのは、直接か間接かは置いておいて、いつも、ナナリンや、エリュテイアや、アルファといった友だった。


 友がいるから、モノは何度でも立ち上がれるし、強くなる。

 モノよりも強い心を持つ者達の、その強さを少しだけ分けてもらうのだ。

 それだけで、モノの身体に力が湧く。


 凝り固まっていた心が溶かされ、その反動か、涙が一粒零れた。

 その一粒は、モノのこれ迄の負の感情を凝縮して、流れ出たもので。

 それを乱暴に拭ったモノは、アルファへと向き直る。


「なあ、聞きたいんだけど、その尊敬する人って誰なんだ?」


「ああ、えっと、僕をここに派遣した、ド鬼畜な先輩……いや、師匠ですね。乱暴で、脳筋で、問題ばかり起こしてて――」


「……いやいやいや! 待ってくれ。全然、今のところ尊敬できる要素が無い」


「――でも、やる時はやる人なんですよ」


「……!」


 アルファはモノを真っ直ぐに見詰める。


「まあ、そんなわけで、僕も取り敢えずは頑張ってみます」


「……ああ。約束だ、俺が超強力な助っ人を連れてくる」


「約束です、僕が街の人達を暫く守ります。僕、とてつもなく弱いので失敗しちゃう可能性もありますが、そこはご了承を」


「――じゃあ」


「頼んだ!」「頼みましたよ!」


 鼓動が跳ねた。

 否、全身が跳ねた。

 

 まだ弱かった決意が、覚悟が、強さを得て、モノに宿った。

 それと同時に、あの現象はやってくる。

 

「やっぱり、きたな……! どうせ一方的な移動だ、今回ばかりは最大限に利用させてもらうぜ!!」


 その声はもう、アルファには届いてない。

 自分以外の誰にも届いていない。


「今に見てろよ世界さんよお! 今の俺は、新しく生まれ変わったと言っても過言じゃねえぞ!」


 だから、誰にも聞こえないのなら、世界に、言ってやるのだ。

 少しずつ『強さ』を貰って、集めた今の自分は、強い、と確信して。


 そう、もう一度。


「はっはっは! こんな世界なんて……クソ喰らえだッ!!!」


 

 あの時とは違う、生き生きとした表情で。

 満ち満ちた表情で叫んだ。



 ――六回目の『突発的テレポーテーション』。

 モノは世界を、盛大に笑い飛ばしてみせた。



※※※※※※※※※※




「――戻って、きたぜ!」


 言われた通り、夜の街並みだ。

 昼間のような喧騒は失われ、街灯が、キラキラと光っている。

 モノはオリバーの豪邸がある方角に振り返り、友の無事を祈ってから、駆け出した。


 向かうは、エリュテイアのいるあの森。


「『最終兵器(アルマフィネイル)』――起動!」


 駆け出すと同時に、モノは『最終兵器』を起動。

 感情とリンクした『色』がモノの心と身体を満たす。


「システム・アンロック――『無重力(グラビティ・ゼロ)』!」


 モノの身体を押さえつけていた力が軽くなる。

 足の裏で街の整えられた道を蹴り、抉りながらモノは闇を『白』で照らしながら突進。

 一度、食材採取の依頼でやってきた森へと、入っていく。


「エリュテイア! エリュテイア、居るか!? 俺だ! モノだ!」


 森に踏み入った所で、モノは大声で、彼女の名前を呼ぶ。

 草木を掻き分け、エリュテイアの家へと近づいていくモノ。

 近づくにつれて、冷たい夜風に乗って、鼻腔を突き始めたのは微かな鉄の臭い。


「これは……血の臭い、か?」


 それはこの短期間で嫌という程に嗅いだ臭いと同じ。その経験からモノはそれが『血』が放つものと、理解する。

 それから、モノは、その臭いに誘われるようにして、森の奥へと進んでいく。

 一歩進む事に、濃くなっていく臭いに、モノは彼女との距離が縮んで居ることを感じた。


「――――」


 やがて、モノの視界に姿を見せるのは――『赤』。

 美しい『赤』の髪を持った少女だった。

 その()()()()は、憂いを帯びた表情で、足下に転がる男を見つめていた。


「ば、化け物が……」


「もう、黙りなさいな」


「ぐっ……!」


 男が恐怖の滲んだ声色で呟くと、少女はその男の腹を思い切り蹴り飛ばした。

 呻き声を上げ、木の幹へと衝突する男は、そこで気を失う。


「…………」


 見れば、同じように気絶している男達が周囲には沢山、転がっていた。

 白目を剥く男達の身に纏う服装には覚えがある。

 ――『アゼルダ騎士団』だ。


「――――はぁ」


 少女は短く、苛立たしげにため息を吐く。

 吐いて、サイドテールの髪と、身に纏ったゴシックドレスを靡かせながら、こちらを振り向く少女。


「なんの用かしら。今、とても()()()()()から…………って、モノ?」


 『騎士団』の応援とでも思ったのか、眉間に皺を寄せた少女はモノの姿を確認するなり、驚いた表情をする。

 モノはその気づきを受け、半身を隠していた木から前へと出て、



「――よう、エリュテイア……少し、話をしようぜ。急ぎではあるけど、茶も出してくれていいからさ」



 少女――エリュテイアに、何時ぞやの茶会の続きを促した。




 幾度の『突発的テレポーテーション』を乗り越え、幾度も人の優しさに触れ、一回り成長したモノ。

 

 だいぶかかったけど、かっこいいモノちゃん(くん?)のターン、開始!!!

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