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一章第1話 可愛いは力なり




「――ん……ここは…………?」


 目覚めたアインの視界にまず入るのは、記憶にない黄土色の石材で出来た天井。天井、というのもどうやら自分は仰向けに寝転がっている状態のようで。


「よいしょ。……?」


 ゆっくりと上体を起こすアインは様々な不審と違和感を覚える。まずこの場所、何かの遺跡の中だろうか。苔や植物の蔓が生い茂る壁や天井は、とてもじゃないが最近人の手が加えられたとは思えない。

 当然浮かぶのは何故自分が、こんな場所に横たわっていたのかという疑問。

 しかし、それ以上に、アインは自分の身体に対して不思議に思わざるを得ない。


「確かに俺は死んだ……はずだ。誕生日に、妹に毒を飲まされ――――」


 と、一番近い記憶を辿っていく途中で、アインは気づく。


「……あれ。俺こんなに声高かったか?」


 喉の不調。別に痛むとかそういうのでは無く、自分から発せられる声が、自分の物では無いような感覚を覚えたのだ。掠れている訳でもなく『ノイズ』が混じった訳でもなく、むしろ綺麗な鈴のような音色だ。


 その自分が自分ではない感覚は、声だけに収まらなかった。アインは次に自分の身体に視線を下ろし、衝撃の光景に目を見開く。


「は? え!? 肌白っ!? というか細っ!!」


 茶色いボロ布を纏っただけの身体。その身体の肌が高級な陶器のように白い。そして、筋肉質でゴツゴツとしていた腕や脚も、細くしなやかに少し丸みを持った物へと変化していた。

 突然の自分の身体の変化に、思考が付いていかず、絶叫するアイン。


「いやいやいや、ありえないだろ!? 何だこの肌と手と脚!! それにこれって……いやいや、まさか!!」


 極めつけには、胸部に小ぶりだが柔らかな感触が二つ。自身の変容に、恐怖を抱きながら、いても立ってもいられなくなったアインは、雨漏りしたのか広間の隅に出来た水溜まりへと駆け寄っていく。

 その際に、以前との歩幅の違いで躓き転びそうになるが、そんなことはお構い無しだ。


 幸いにも、日の光が差し込んでいたお陰で、その水溜まりには、天井の様子がよく反射していた。

 アインは自分の身体の変化を確かめるべく、恐る恐る覗き込む。するとそこには――、


「なん、だよこれ……一体、どうなってるんだ……」


 紫の宝石のように綺麗な瞳、長いまつ毛に、絹のように白く美しく足の付け根のラインまで伸びた髪。ほんのりと紅潮した可愛らしい頬、歳は十三くらいだろうか。――――絶世の美少女が困惑した表情でこちらを覗き込んでいた。



※※※※※※※※※※

 


「――誕生日に妹に殺されて、目が覚めたら美少女でした!! ……いや誰が信じるんだよ、自分で言ってて訳わかんなすぎるだろ……」


 状況を整理し、改めて有り得ない、と首を左右に振るアイン。

 生活の殆どが隅から隅まで『魔法』で成り立っているこの世界。

 そんな世界で『魔力』を持たない『魔力無し』として生まれたアインは、村で落ちこぼれとして疎まれ、蔑まれてきた。

 自分がどれ程周りの迷惑になっているのか、必要とされていないかを分かっていたアインは、割と他人の神経に触れないように頑張ってきたはずだった。

 のだが、遂にツケが回ってきたのか、実の妹に寄りにもよって誕生日に毒殺される始末だ。


 それに加えて、今の状況である。

 最早、理解の範疇をとうに越えている。故に、アインは自分の身に起きたことに対する思考は諦めようとしていた。


「あーやめだ。考えるだけ無駄。……ま、悪い気はしないしな。可愛いし」


 半ば強引にポジティブな方向へと感情を捻じ曲げながら、アインは悪ノリで水溜まりを覗き込みながら顔の前に右手でピースを作り、ポーズをとる。


「ほんとに人形みたいだな…………っと、いつまで経ってもここに居ても埒が明かないし、外に出てみるか」


 一人で水溜まりに向かってポージングし、ブツブツと独り言を呟くという完全に頭がおかしな人の構図が出来上がってしまったところで、アインはふと、この場所が何処なのかということが気になり始める。


「身体の変化に驚いてそれどころじゃなかったけど、普通にここが何処なのか分からないしな。……ってあれ? この状況、普通に不味くない?」

 

 ようやく今の状況が危ないという実感が湧き始めるアイン。


「せめて近くに人が居れば良いんだけど……ってダメだ、この格好、この身体で人に会ったら色々と危なすぎる」


 茶色いボロ布を纏っただけの美少女がフラフラと歩く光景を想像すると、それだけでなかなかの犯罪臭だ。それに、


「この身体でも魔力みたいなのは感じない。身体が変わったからといって魔法が使えるようになるとかそういう話でも無さそうだ。はは、なるほど」


 驚くべき発見だ。魔法が使えるかどうかは身体ではなく魂に関係しているらしい。まあそれを知ったからといって誰も信じてくれないだろうから完全に意味の無いものだが。

 そして、そこまでいってアインは一つの結論に至る。


 筋力は落ち、背は縮み、魔力も依然として使えない。なるほど。



「…………完全に弱体化じゃねえか!!!」

 



 『可愛い』はステータスなので実質プラマイゼロ(?)だと思う。


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