二章第4話 一旦の別れと新たな出会い
ちょっと短めになったけど、キリがいいんだ、すまん!
また明日からはいつもの文字数だからよろしく!!
「なるほど……図書館か」
アルファと別れた後、モノは顎に手を当て、思考を巡らせていた。
図書館といえば、本の集まるところ、言わずもがな知識の詰まりに詰まった場所である。
色んな人が残した役に立つ情報から、誰が知りたいんだよそんなこと、と言いたくなる実用性皆無のマイナー知識まで。
なるほど確かに、そこならば望んでいる物も得られるかもしれない。
「行ってくる? きゃはっ★ それならナナリンはその間に知り合いの宿で話を通してくるよ〜?」
「ああ、ありがとう。……じゃ、一旦ナナリンともお別れってことで」
「はいは〜い。簡単だけど宿までの地図渡しとくから後でちゃんときてね〜、連れて行きたいところがあるから……きゃはっ★ ちなみに図書館はあっち! 調べたいことわかるといいね! バイバ〜イっ★」
「ん。また宿で」
勢いよく手を振りながら、嵐の如く過ぎ去っていく蜜柑色のツインテールを揺らした少女を見送った後、モノは再び、脳を思考に集中させる。
「…………ほんとに成り行きとはいえ騒がしくて飽きなかったな……何はともあれ、『アゼルダ図書館』はあっちって言ってたか?」
モノは別れる寸前にナナリンが「あっち」と指さしていた方向を、木陰から少し移動して見やる。
「あー、絶対あれだよな。なんか屋根にでっかい本乗ってるし」
視界の先にはグレーの石材で作られた民家の建ち並ぶ街並みに混じって、突起の多い厳ついフォルムに、屋根の上にどういう原理で動いているのか、自動的にページが捲られている物凄い大きさの本が乗っかった建物。
そのいかにもな建物の姿を見て、モノは苦笑する。
「あのオブジェクトも、まあ、魔法なんだろうな。私には縁もゆかりも無い物っていうか……あ〜魔法使いてえ」
こう指を鳴らすだけで、敵がバンッと消えるような強力な魔法が使ってみたい。
この世界にはありとあらゆる所に魔法が溢れていて、例えば、この街の灯りも光魔法が編み込まれた物だし、料理をする際のキッチンの炎なんかも、調節可能な魔法陣に魔力を込めることによって起こす仕組みだ。
全てが魔法で成り立つ世界。
そんな世界で、『魔力無し』として生まれたモノは、そりゃあ苦労するし、馬鹿にされるわけで。
今でこそ、『最終兵器』(?)とやらの力が使えるからいいものの、美少女として蘇るまでは本当に滅茶苦茶大変だった。なにしろ、普通の生活が出来ないわけだから。
「まあ、今でも魔力無しなのは変わらないから、その点は一応バレないように気をつけないとな……また、ああやって……ダメだ、嫌な事思い出した」
向けられていた侮蔑の視線、理不尽な暴力。
それら、村での嫌な出来事を思い出し、一瞬だがあの時の心の痛みや身体の痛みを感じ、ブルブルと自分の身体を抱きながらモノは震え上がった。
もうこれ以上は、と首を振り、沈んでいきそうになっていた思考を無理矢理停止、切り替える。
「とにかく図書館、行ってみるか」
村でのことは思い出したくは無いが、唯一の味方だった筈の妹が、自分を殺した真意だけは確かめたいので、結局は村のことを調べなければならない訳で。
故に今は図書館に行くしかない。
当然と言えば当然の結論を脳内でだしたモノは、そのままゆっくりと、特徴的な屋根を目印に、図書館へと向かって歩き出した。
※※※※※※※※※※
商店街と比べ、人通りがまるで少なく、物静かな雰囲気が漂ってくる通りにその図書館は存在していた。
ツルッとした質感の綺麗な石畳の階段を登り、変な太陽の様な紋章が入った壁を前にしたモノ。
それからキョロキョロと辺りを見渡し、その壁に触れ、力いっぱいに押してから、やはり不安になって声を漏らす。
「……入り口ここであってるよな? 全然開きそうに無いんだが。さては合言葉系か? よーし、『開けゴマ』! 『山』、『川』! ……『開けんかい! 借りたら返す、社会のルールや』!」
先程から入口の扉であろう壁を一生懸命押してみたり、色々と策を練っているのだが、非力な少女の力では足りないのかその壁はビクともしない。
だからといってこれの他に、入口の様な物は周りには無いため、途方に暮れているわけである。
「んんんっ!! やっぱりダメだ。『色の力』を使ったら加減できなくて壊れちゃいそうだしな……うーん……誰か呼んでくるか」
念の為、再度、押してみるが、やはり一ミリも動く気配すら見せない壁。
一瞬だけ『最終兵器』を発動させてみようかとも思ったが、まだあの力には謎が多いのと、加減が出来そうにないので、流石にやめておく。
暫くして、モノが単独での試行錯誤を諦め、一度人を呼ぶ為にこの場を後にしようと、石畳の階段へと振り返る。
その背中に、
『――なんだ、図書館に入りたいのか?』
「うわあっ! だ、誰……と、とと――ぎゃふっ!」
突如、背後から投げかけられた声。
それに驚いたモノはそのまま足を踏み外し――回転する視界、ガクンガクンという衝撃と共に、石畳の階段を転げ落ちてしまう。
「いってて……おい! 下手したら死ぬぞ今の! 一体、何の声だ!?」
転げ落ちている途中で腰を打ったのか、痛い。なんなら、身体の節々が地味に痛い。
あまり段差の無い階段だったから良かったものの、もしかしたら大怪我の可能性もある。
涙目になって腰を擦りながら、起き上がるモノは、声のした方を見て、怪訝な表情を浮かべる。
するとそこに、またもや、今度は申し訳なさそうにした声が響き、
『……そ、そんなに驚くとは……これはすまなかったな』
「まただ、何処から聞こえてるんだ? 直接脳内に語りかける系は、もう間に合ってるんだが!?」
脳内に語りかける系、と言って思い浮かべるのは、『最終兵器』の力を行使する時に聞こえる感情のない声。
もうそれだけでお腹いっぱいだし、盛大なキャラ被りなのでやめて頂きたい。本当にキャラと呼べるかどうかはかなり怪しいが。
そんなモノの抗議に、
『――ここだよ、ここ』
ここだよ、と自分の存在を誇示するように、モノの視界に突然と現れるのは、木で出来た鳥を模した玩具。
「と、鳥? いや、玩具が喋ってる!? なんで!?」
「――はは、そこまでいいリアクションをしてくれると。製作者冥利に尽きるというものだね」
目の前を、木でできた翼で器用にパタパタと飛び交うその鳥の玩具に、モノがどうしたらいいか分からずたじろいでいると、不意に、先程までその鳥の玩具から聞こえていた女の声が、石畳の階段の上から響いた。
響いたその声に、モノが視界にチラつく鬱陶しい鳥模型から、声のした方へと視線を移すと、そこには見知らぬ少女の姿。
「あ、あんたは……」
背はモノよりも低く、派手なマゼンタの前髪を大きく二つに分け、もみあげを細長く束ね、お腹の辺りまで伸ばした、白衣をまとった、どこか外見年齢とは裏腹に貫禄というものを佇まいの中に見せる少女。
独特な存在感を放つ、その少女は、呆然とするモノを見下ろし、ニヤリと笑い、
「――ようこそ、『何の変哲もないただの図書館』へ。歓迎するよ……白く美しい、特別な匂いのする少女さん♪」
頭に被った博士帽を押さえながら、来訪者を迎え入れるのだった。
出会い頭に特別な匂いとかなんとかって変態かよ。