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二章第2話 馬車での団欒




 ガタガタ小刻みにと揺れる馬車の中、モノは自己嫌悪に陥っていた。


「……馬鹿かよ俺。そりゃ馬車より早い速度で移動できるんだったら、そっちで行けよ、普通に。なんでわざわざ馬車乗ってんだよ! ……ああいや、ほら、景色をゆっくり見たかったんだよな!? うん、それだ!」


 ついに、もはや言っていることが理解不能なものになってきているが、当の本人であるモノは自分を納得させるべく必死である。

 そうやって頭を抱えて「ああああ」と唸るモノを見て、何を思ったか、ナナリンは真剣な顔で呟く。


「もしかしなくてもモノたんってさ、実はめっちゃ可愛い子なんじゃ……」


「――いや、それは今更だろ」


「う〜ん、残念! 確かにそれもそうなんだけど、今のはちょっと意味合いが違うかな〜!! そんな皮肉が通じないところも可愛いっ★」


「…………?」


 可愛いには可愛いという意味しかないだろうに、ナナリンは何を言っているのだろうか。

 モノがナナリンの言葉によく分からないと、首を傾げていると、向かいに座っている黒髪の少年アルファが、おずおずと手を挙げる。


「――盛り上がってるとこすみません。ところであの、皆さんはどうしてアゼルダに?」


「…………」


「あれ、皆さん何故黙るんです? ぼ、僕何か変なこと言っちゃいました!?」


「いやあ、なんというか」


 少年の質問に、一気に場は沈黙。

 モノが黙った理由は、言葉にするのが難しいから。

 どうしてと問われるとモノに起きている状況上、中々に難しいのだが、強いて言うなら、とモノはその問いに答え、


「自分探し、みたいな?」


「へえ、僕より年下でしょうに、なんか難しいこと考えてんですね」


 正確には、元のアインとしての自分の痕跡探しだが。まあ、それはもう文字通りの意味合いで自分探しと言ってしまってもいいだろう。

 加えて、今のモノとしての身体も、一体全体何者なのかさっぱり分からないので、それもついでに知ることが出来れば万々歳だ。


「ナ、ナナリンは、依頼を終えて拠点に帰るみたいな?」


 一方で、ナナリンが黙った理由は単純明快。

 自分に気付かずに出発しちゃった馬車の荷台に隠れてたという、やらかしちまった恥ずかしいエピソードをどう隠そうか考えていたからだ。

 しかし、隠そうとした割には、目があらぬ方を向いていたり、冷や汗がだらだらだったり、唐突に下手な口笛を吹いたりと明らかに、『私、動揺してます!』感が仕草に全面に出ている。


 モノにはわかる。

 こいつ嘘とか隠し事が致命的に下手なタイプだ。

 実際、盗賊としてそれはどうかと思うが、根が良い子なのだろう。


「ど、どうしてそんなに動揺されてるんです? ……はっ! さては怪しい仕事ですか!? 王国の兵士としてそれは見逃せませんよ!」


「いやいやいや! ナナリンそんな怪しいことなんてしてないよ!?」


「なあ、アルファこいつ実は――むぐ、むぐ!」


「あー! あー! モノたんの意地悪! アルファ君も、乙女の秘密を色々、いやらしい手つきで身体を触って探るなんてセクハラで訴えるからね!!」


「え、ええ!? 言い方に語弊がありまくりですし、大半が全く身に覚えがないことなんですが!?」


 出会い頭に恐怖体験を味わされたお返しに、馬鹿な自称いい盗賊とやらの失態をモノがバラそうとすると、その口を必死にナナリンが手で塞ぐ。

 ついでに完全に冤罪だが、セクハラで訴えると言われ理不尽な展開に仰け反るアルファ。

 もうめちゃくちゃである。


 このままでは収拾がつかないので、モノはナナリンを落ち着かせてから、逆にアルファに話題を振ることにする。


「……んで、確か、アルファは王都っていう所から派遣されたんだったっけか?」


「はい、そうなんですが……その感じ、もしかしてモノさん王都を知らないんですか!?」


「ああ、うん。この付近のことよく分かってなくて……しまった、集落から出発する前に聞いとくべきだったか……」


 モノの発言に信じられないという顔をするアルファとナナリン。こういうことは、集落にいた時にケイとか長にでも聞いておくべきだったか、後悔するが完全に後の祭りであるので、仕方ない。


「……はあ。じゃあそんなモノさんの為に一応説明しときますと、まず前提としてここは『レイリア王国』というこの大陸一の規模を誇る王国の領土内です」


「『レイリア王国』……」


「それで、レイリア王国の中でも、王族の住むレイリア城のある王都の次に広い街が、今向かってる『アゼルダ』という場所なんです、わかりますか?」


「な、なんとなくは……ってちょっと待てよ、つまり一番広い王都から二番手の街に派遣されたってことは、それってアルファお前……左遷じゃね?」


 レイリアという王国の領地内であるということは理解したし、今向かっているアゼルダがこの王国内で王都の次に大きな街だということも把握した。

 のだが、そこでモノは気づいてしまう。アルファは昇進のチャンスなどと言っていたが、一番の街から二番の街へ担当を変えられるというのは、既に降格しているのではなかろうか。


 しかし、モノのそんな考えとは裏腹にアルファは「ちっちっち」とかなりウザめのドヤ顔で胸を張り、


「確かにそれだけ聞いたら左遷のように聞こえるかもしれません、けど、今の僕には極秘の任務があるのです!! まあ、もちろんその内容は言えませんが!」


「極秘の任務なら、まずそういう任務があるってことも言っちゃ不味い気がするんだが!? 秘密を知ってしまったからには生かしちゃおけん! みたいな展開はさすがに勘弁してくれよ……」


「いやいや、僕はレイリア王国の兵士……正義の象徴みたいな身分ですよ? 万が一にもそんな展開は起きませんって!」


「なんか不安だな……」


 いわゆる『フラグ』というものの匂いが、プンプン漂ってくるのだが、まあ今は気の所為ということにしておこう。

 でもって、何やらこれまでの会話の流れで、何処にそんなポイントがあったのか不明だが、徐々にテンションの上がってきていたアルファが、急に馬車の中で立ち上がる。


「僕には、英雄になるという夢があるんです! こんな所で立ち止まってなど居れません!!」


「きゃはっ、この人〜なんか語り出しててキモイんですけど〜っ★ どうでもいいし、それに英雄目指してる人がスライムなんかに手も足も出ずにやられそうになってていいの〜? きゃはっ★」


「うっ…………!!」


 何が彼の気分をそこまで高揚させたのか分からないが、突然、自分の夢を恥ずかしげもなく語り出すアルファ。もしかしたらこいつも案外やべーやつなのかもしれない。

 それに対して思いっきり正論を叩きつけるナナリンの反応はとても冷たく、モノは思わず苦笑してしまう。


「……僕、いざ敵を目の前にすると怖くなって腰が引けてしまって、剣が振れなくなってしまうんですよ……やっぱ僕、英雄向いてませんかね!?」


「なにその兵士としての致命的な欠点」


 なにその兵士としての致命的な欠点。

 いやもう、それしか言いようがない。戦うのが仕事の兵士が剣を触れないなんて、もはや英雄とかそういう次元じゃない話なんだが。


「英雄以前に、兵士そのものが向いてないだろ……」


「きゃはっ★ 臭すぎるから、早く現実見ろって感じだよね〜っ!」


「あの、ナナリンさんさっきから僕に対する当たり強くないですか……?」


 さっきからちょくちょく言葉のナイフをアルファに容赦なく突きつけるナナリンに、モノもゾッとしたものを感じながらも、その意見には同意だった。

 割と本気で現実見た方がいいと思う。


「え〜、ナナリン別にいつも通りだよ? あ、でもモノたんは特別! こんな可愛い子初めてっ! もうめっちゃ好き! ナナリンは〜()()()()()()()なのです、きゃはっ★」


「おわっ! ええい、抱きつくな暑苦しい!!」


「きゃーん、ツンツンなモノたんも可愛い〜っ★」


「この僕との扱いの差! いっそ清々しいですね!!」


 急に飛びかかり、抱きついてきたナナリンを手で払いながらも、身体に感じる柔らかな感触と女子特有のいい匂いがして、少しドキッとしてしまうモノ。

 その一方で、自分との扱いの差を目の前で見せびらかされた、アルファは叫喚する。


 一人静かな移動のはずだったが、いつの間にやらワイワイと騒いでいる。そんな楽しい(?)馬車でのひととき。しかし、そんなひとときももう終わりが近づいてきていた。


「――お客様! もう着きますよ!」


 馭者の声にモノは窓から顔を出し、前方を覗き込む。するとそこには、立ち並ぶレンガ等の石材で作られた大小様々な建物の数々に、市場だろうか。人のいきいきとした活気が満ち溢れていて――、


 それは『太陽の街』アゼルダ。

 次なる舞台が、次なる出会いが、次なる事件がモノを待ち構えていた。



 

 ということで前回から今回と続き、新キャラクター、モノたん可愛い〜★ な、ナナリンと、臆病兵士のアルファです。


 何を隠そう、この二人のキャラめっちゃ気に入ってます。

 今後、二人もいっぱい活躍するから楽しみにしててね!


 Twitterもアカウントありますので、気軽に絡んできて下さい!

 (絡んでくるの待ちのコミュ障)


 TwitterID→@ionoritoki

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