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006 家で休憩後、クエストを受注する

「ここが俺の家になる……? どういうことだよ」


 この女はもしかして頭がおかしいのか、と不安になった。

 見ず知らずの俺にやたら良くしてくれるのも、改めて考えると変な話だ。

 本人曰く「気に入ったから」とのことだが、流石に気前が良すぎる。


 だが次の瞬間、俺は冷静になった。

 軍でも、サバイバルでも、混乱は命取りと学ぶからだ。

 冷静になって状況を把握し、光の速さで考える。

 その結果、俺が導き出した答えは――。


(別に頭がおかしくてもかまわねぇ! 最高じゃん!)


 ――というものだった。

 なにせ相手はお世辞抜きで容姿に優れた女だ。しかも若い。

 仮にこの女が狂人で、俺が狂った愛の対象でも、困ることはなかった。

 なんなら今すぐにでも裸になってベッドの上で愛を育みたい。


「実はこの街を発つ予定なのよね。だから私が戻るまでの間、この家をノブナガに貸してあげようかと思って。ノブナガは無料で家が手に入ってハッピーだし、私は冒険者ギルドで迷惑を掛けちゃったお詫びが出来てハッピー。お互いにハッピーな良い話じゃない?」


 現実は甘くなかった。

 チョメチョメでもなければ、狂った愛でもなかったのだ。

 クリスはいたって普通の常識人だった。


「ノブナガ? どうしたの? いきなりずっこけて」


「いや、なんでも……」


 我ながら恥ずかしい妄想をしてしまったものだ。

 肉体が若返った時に性欲も復活してしまったらしい。

 もはや心身共に18歳――つまり性欲全開の猿である。


「駄目かな? この家。宿屋より遥かに広いしタダだよ」


「お、お言葉に甘えて借りるとしよう……」


「りょーかい! 私はアイテムを補充したら王都へ行くね。この家のことはノブナガに任せた! たまには掃除してねー! それじゃ!」


 クリスは俺の頬に軽くキスすると、リズミカルな足取りで消えていった。


「なんだこの展開……」


 一人残された俺は、とりあえずベッドに腰を下ろす。

 枕を掴み、匂いを嗅いでみた。

 若い女特有の素晴らしき香りに満ちている。

 この匂いを逃すまいと、思わず全力で吸い込んでしまった。


「……寝るか」


 全裸になってベッドに入る。


(右手ですまんな)


 シコシコ、シコシコ。ふぅ。

 自分で自分を慰めながら眠りに就いた。


 ――……。


 数時間後に目が覚めた。

 服を着てから窓の外を見る。

 まだまだ明るくて、夕方まで余裕があった。


「ギルドに行くか」


 暇だからクエストを受けてみよう。

 近場の敵を狩るクエストなら今からでも問題ないだろう。

 俺は冒険者ギルドに向かった。


 ◇


 ギルドに入るなり注目が集まった。


「あいつだ」


「あれがゴリウスを一瞬で倒したという」


「〈不滅の盾〉と呼ばれるゴリウスさんを一瞬で!?」


「ゴリウスはこの街でも屈指のガーディアンだぞ」


「一瞬で倒すとかありえねぇ。どうせ吹かしでしょ」


 色々な連中が俺の噂をしている。

 会話の内容から、俺の倒した大男がゴリウスだと分かった。

 ガーディアンと呼ばれるクラスで、耐久度に秀でているらしい。

 それ故に「不滅の盾」などと呼ばれているそうだ。

 あれほどあっさり倒れたわりにはたいそうな二つ名である。


(噂するだけか)


 しばらく佇んでいたが、誰も話しかけてこなかった。

 得体の知れない謎のルーキーに警戒している、といったところか。

 俺は周囲の視線を無視して奥の受付へ向かった。


「ようこそ、ノブナガ様」


 シックな制服に身を包む受付嬢が挨拶してくる。

 ギルドには数名の受付嬢が居るけれど、一様に可愛いので驚く。

 間違いなく顔採用だ。素晴らしい。


「クエストを受けたい」


 雑談もなしに本題へ入る。


「それではあちらの掲示板より、クエスト票をお持ち下さい」


 受付嬢がカウンター横の掲示板に手を向ける。

 そこにはクエスト票と呼ばれる紙が大量に貼られていた。

 俺は一瞥してから答える。


「すまないがこの辺のことに疎くてな。近場のクエストを受けたいから、適当に見繕ってはもらえないか?」


「かしこまりました」


 受付嬢はカウンターの下からクエスト票を取りだした。

 それを俺の前に並べ、「こちらになります」と笑顔で頭を下げる。


「ふむ……」


 クエスト票には詳細が書かれていた。

 倒すべき魔物の名前、棲息地、完了時の報酬など。

 更に、容姿の下半分には魔物の絵が描かれている。


「おっ、面白そうなのがあるな。これにしよう」


 俺が選んだのはシロコダイルの討伐クエストだ。

 絵を見る限り、シロコダイルというのはワニの魔物である。


 俺はワニとの戦いが得意だ。

 ここだけの話だが、クロコダイルを乱獲していたことがある。

 数多のワニから皮を剥いでは販売していた。

 その時の記憶が蘇る。


「ノブナガ様、そのクエストは流石に厳しいかと……」


 ところが受付嬢の反応は渋い。


「厳しい?」


「D級のクエストですので……」


 クエスト票の右上隅を指す受付嬢。

 そこには大きく「D」と書かれていた。

 クエストをこなすための適性ランクのようだ。


 冒険者はランク分けされている。

 上から順にS、A、B、C、D、E、F、G。

 俺は新米なのでGランクだ。


 不滅の盾ことゴリウス君はB級らしい。

 あれでB級なのだから、D級など楽勝だろう。

 そう思い、実際に言ってみたところ……。


「クエスト票のランクは4人パーティーを想定したものとなっております」


「つまりD級冒険者が4人で束になってちょうどいいってことか」


「さようでございます。ゴリウス様はたしかにB級ですが、それはパーティーでクエストをこなしているからです。たとえB級の冒険者といえども、D級のクエストをソロでこなすのは危険です。ましてやノブナガ様はG級ですので……」


「よく分かった。だが問題ない。このクエストにするよ、危なくなったら逃げるさ。なぁに、己の分は心得ている。そうでなければニカラグアのジャングルを生き抜くことは出来なかったさ」


 俺の言葉にギルド内がざわつく。


「シロコダイルをソロだと……?」


「アイツはソロになると途端に難しくなる魔物だぞ」


「魔法使いならまだしも、そうでない者がソロなんて無茶だ」


「ところでニカラグアってなんだ?」


 周囲が少し静まると、受付嬢が最終確認をする。


「本当によろしいのですか?」


「よろしいとも」


 俺は大きく頷いた。

 何事も挑戦が大事だ。失敗を恐れてはいけない。


 ワニ退治の時間だ。


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