042 エピローグ
帰り道は安全だった。
各PTのリーダーが横並びに歩き、その後ろにPTメンバーが続く。
「ノブナガ、お前、冒険者になる前は何していたんだ?」
ザウスが尋ねてきた。
「内緒さ」
日本の老人ホームに居ました、とは言えない。
「マジカルナイツに入らないか? 君なら即1軍だ」
「悪いがクランには興味がないんだ」
フリッツは何度も何度もクランに勧誘してくる。
セントクルスの冒険者ギルドを思い出す。
「だったらグランアットにおいでよ。助けてもらったお礼に気持ち良くしてあげる。流石にそういうのには興味あるでしょ?」
妖艶な笑みで誘ってくるのはイザベラ。
彼女は何食わぬ顔で俺の腰に腕を回してきた。
子分達が「女王様ぁ」と嘆いている。
「興味はあるけど、まずはセントクルスの娼館で楽しむよ」
「あら、残念ね。グランアットに来ることがあったら私を訪ねなさい」
「覚えておくよ」
行きは大違いで、今では俺がグループの中心人物だ。
キングベアをソロで倒したことで、誰もが一目を置いていた。
夕刻、俺達は馬車の待つ場所へ到着した。
それぞれのPTを乗せる4台の馬車が並んでいる。
「よくぞご無事で!」
御者の一人が言う。
俺達は適当な言葉を返し、それぞれの馬車に乗る。
「お前のおかげで死なずに済んだぜ! ありがとな!」
「おう、またどこかでな」
ザウスが御者に命じて馬車を走らせる。
「王都リッツロイヤルへ来た際は、是非ともクラン〈マジカルナイツ〉のマスターと会ってくれ。そうすればきっとクランに興味を持つはずだ。それでは!」
続いてフリッツの馬車が動き出す。
「先に言っておくわね。最優秀賞、おめでとう」
「まだ決まったわけじゃないさ」
「決まったも同然よ。少なくとも私達は貴方に投票するわ」
「はは、ありがとな」
イザベラのPTも発っていく。
「俺達も帰ろうか」
「ゴブー!」
「キュイーン!」
俺は御者に声を掛けて、馬車を動かしてもらった。
◇
数日後。
レイドイベントの最優秀賞が発表されることとなった。
冒険者ギルドには、普段よりも多くの冒険者で溢れかえっている。
「四都市合同レイドイベントの最優秀賞は……!」
ざわざわ、ざわざわ。
ざわざわ、ざわざわ。
ざわざわ、ざわざわ。
「満場一致でノブナガ様に決定しました!」
「「「うおおおおおおおおおおおお!」」」
場が沸き起こる。
皆が俺に駆け寄ってきて、自然と胴上げが始まった。
ついでにゴブイチも巻き込まれて胴上げされている。
「すげぇ!」
「マジカルナイツを差し置いて最優秀賞だ!」
「どうやったんだよ、ノブナガ!」
「やっぱお前はこの街の英雄だよ!」
盛大な祝福ぶりだ。
イベントに参加して良かった。
「最優秀賞の賞金2000万ゴールドは直ちに振り込ませて頂きました」
胴上げが終わると受付嬢が言ってきた。
参加報酬の1000万、攻略報酬の2000万、そして最優秀賞の2000万。
しめて5000万ゴールドの獲得だ。
「さぁ遊ぶぞ!」
リズミカルなステップでギルドを後にする。
ゴブイチとジャックを家に帰らせ、俺自身は大人の通りへ。
行く場所は決まっていた。最高級娼館だ。
「いらっしゃいませ、ご主人様」
「今日は店の娼婦全てを買うぜ! 11時から明日の10時まで貸し切りだ!」
「こ、ここは最高級娼館ですよ!?」
「分かっているさ! 金は5000万あれば余裕で足りるだろう!?」
ドンッ。
俺は冒険者カードを支配人に見せつける。
支配人はカードに刻まれた残高の数字を見て腰を抜かす。
「遊べるよなぁ!?」
「もちろんでございますともーッ!」
全ての部屋を貸し切り、全ての娼館と時間の限り堪能する。
今日だけで4700万を消費してしまったが、悔いは無かった。
巨大なベッドに大の字で寝転ぶ俺。
その上には全裸の美女が大量に侍っている。
(たった1泊2日で凄い体験をしたな)
レイドダンジョンで過ごしたことを思い返す。
初めて見る魔法、初めて見る他人の戦闘、初めて見るレイドボス。
なんとなく参加したイベントだったが、終わってみれば大満足だ。
貴重で楽しい体験だった。
そして今、俺はレイドの報酬を堪能している。
数多の美女を侍らせ、欲求の赴くままに愉しむ。
愉悦。圧倒的なまでの愉悦。
たまらず叫んだ。
「冒険者ってサイコーッ!」
好きなように生きて、好きなように愉しむ。
俺の冒険者生活はまさに順風満帆そのものだ。
ここでいったん完結とさせていただきます。
お読み頂きありがとうございました。




