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039 新たな刺客が現れた

 驚いたことが起きた。

 なんと皆は倒したシロコダイルをそのままにしたのだ。


(尻尾を食わないのは分かるが……)


 シロコダイルの皮は高級品だ。

 丁寧に鞣して売れば、それだけで数百万になる。

 1体でそれだけの価値があるのに、今回は12体も居た。

 全て回収すればいったいいくらになっただろうか。

 勿体ないと思えて仕方なかった。


「もうあと少しだ! 気を引き締めていこう!」


 フリッツが早足になる。

 功を焦っているのは誰の目にも明らかだった。

 最優秀賞を取れるかどうかは、彼にとって重要なのだ。

 金銭的な理由ではなく、クラン内のキャリアに影響してくるから。

 流石は1軍から3軍まである大手クランだ。


 フリッツPTに合わせて俺達も早足になる。

 皆は気にしていないようだが、俺は周囲の警戒を絶やさない。

 代わり映えしない道だからこそ、気が緩まないようにしている。


(嫌な気配がするなぁ)


 左右の森ではなく、前方から。

 気配の原因がなんなのかはよく分からなかった。

 おそらくボスだろう、と結論づけておく。


「見えたぞ! キングオーガだ!」


 いよいよ川の最上流に到着した。

 待ちに待ったレイドダンジョンのボスとご対面だ。


 ボスは王冠を被ってマントを着けたひときわ大きなオーガ。

 右手に剣を、左手に盾を持っている。


 それに加えて、3体の武装したオーガもセットだ。

 オーガパーティーである。


「ボスは俺が倒す! 皆はオーガパーティーを頼んだぞ!」


 フリッツはそう言うなりPTを率いて突撃していく。


「ノブナガ、おめぇのせいで焦りまくりだぞ」


 ザウスが呆れたように笑う。


「いやぁ……すまん」


 俺は苦笑いで謝った。

 隣にゴブイチがゴブゴブと笑っている。


「でもまぁ、ザコは私達が引き受けるってので正解かもね」


 そんなわけで、俺達はザコを担当することになった。

 俺、ザウス、イザベラのPTがそれぞれ1体ずつザコを受け持つ。


「サクッと倒して帰ろうや!」


 ザウスの言葉に、俺とイザベラは大きく頷く。

 戦闘開始だ。


 ――……。


 1分後、俺は戦闘を終えていた。

 想像通り、いや、想像以上のあっけなさだ。


「なんつー弱さだ」


 俺はまるで苦労することなくオーガを倒した。

 振り下ろされる棍棒をするりと避け、首筋にナイフを突き立てて終了。


 単独の武装したオーガはE級と言われている。

 D級のシロコダイルより弱いのは当然だが、それでも弱すぎた。


「えっ、もう倒したの!?」


「流石にやるじゃねぇか!」


 イザベラとザウスはまだ戦闘中だ。

 とはいえ、どちらもあと10分あれば勝利するだろう。


「スイッチ! スイッチ! スイッチ!」


 フリッツPTの方は大接戦だ。

 フリッツがしきりに「スイッチ」と叫んでいる。

 どうやらポジション交代の合図らしい。


(面白い戦い方をしているな)


 フリッツPTの戦い方は奇妙だった。

 前衛と後衛に加えて、中衛も導入している。

 3-1-1のフォーメーションだ。


 スイッチと叫ばれる度、前衛と中衛が入れ替わる。

 面白いのはこの中衛だ。なんと休憩している。

 前衛は壁、中衛は休憩、後衛は魔法という役割。


(俺ならサクッと全方位から刺し殺して終わるけどな)


 キングオーガはたしかに強い。

 3メートル超えの巨体でありながら、動きも他とは段違いだ。

 しかし、防御力――皮膚の強度自体は通常のオーガと変わらない。

 フリッツPTの装備している剣なら問題なく貫ける硬さだ。


「どうするよ? 加勢するか?」


「あの連携を乱すと危険な気もするわね」


 戦闘を終えたザウスが隣に来る。

 同じタイミングで反対側の隣にイザベラも。


「うーん……」


 フリッツPTの狙いは分かっている。

 安全性を重視して、じわじわ敵を削っているのだ。

 持久戦で確実に仕留めよう、という考えだ。

 それは悪くない考えだとは思う。だが。


「待てないな」


 このままでは1~2時間は戦い続けているだろう。

 気温40度を超えるクソ暑い中、ボケッと眺め続けるのはごめんだ。


「助太刀しよう」


 俺はリュックから投げナイフを取り出す。

 今回は一本だ。

 狙いを定めて、その時が来るのを待つ。


「――今だ!」


 シュッとナイフを投げる。

 ナイフが敵に届いたのは、敵が剣を薙ぎ払った瞬間だ。

 完全に無防備だった巨人の目にナイフが突き刺さる。


「ヒュー、すげぇな」


「流石としか言えないわね」


 感心するザウスとイザベラ。

 一方、フリッツは気づくのに少し遅れていた。

 で、気づくと怒った。


「コイツは俺達が倒す! 余計なことは――」


「分かってるからさっさとトドメを刺せ! 今がチャンスだぞ!」


 キングオーガは意表を突かれた攻撃によってバランスを崩している。

 これならフリッツPTでも用意に倒せるだろう。


「言われなくても! 行くぞ、お前達!」


「「「「おお!」」」」


 フリッツPTはキングオーガを囲むように展開。

 そして、全方位から剣を突き立て、オーガを仕留めた。


「我々の勝利だ!」


 誇らしげな顔で剣を掲げるフリッツ。

 それに彼のPTメンバーが呼応するが、俺達は違っていた。


「おい、あれは……」


 ザウスが驚愕に満ちた表情で呟く。


「そんな……どうして……」


 イザベラも同様だ。


「なんだ? 戦いは終わった――えっ」


 フリッツも気づいた。


(嫌な気配の正体は……アイツか?)


 当然、俺も気づいている。

 川上の更に奥――山から魔物が下ってきているのだ。

 S級レイドダンジョン〈魔王の住み処〉からの刺客である。

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