036 レイドダンジョンで寝てみた
「一時的に解除を」
「はい! 女王様!」
イザベラが〈絶対防壁〉を解除させて近づいてくる。
「今からこの骨格に葉っぱを被せるのよね?」
「そうだけど」
イザベラは「ふーん」と言い、子分に「土を」と命令する。
先ほどの〈絶対防壁〉を発動していた者とは違う子分が応じた。
何やら魔法を詠唱し始め、そして――。
「うおっ!?」
なんと俺達の作った寝床に魔法を発動したのだ。
骨格であるオコティーヨの茎を、土がカッポリと覆った。
「これで葉っぱを被せる必要はなくなったんじゃない?」
ここでようやくイザベラの意図が分かった。
「もしかして寝床作りを手伝ってくれたのか?」
「面白い物を見せてくれたお礼をしただけよ、気にしないで」
「面白い物って……茎で作った寝床の骨格か?」
「そうよ。急な雨宿りに使えそうなテクニックだし参考になったわ」
「なるほど。なんにせよ助かったよ、ありがとうな」
イザベラが手伝ってくれたおかげで、寝床が完成した。
しかも、当初予定していた葉っぱの屋根よりも中が温かい。
高密度な土が外気を防いでいるのだ。
これは非常に助かる。
なにせ現在の気温は15度を下回ろうとしているのだ。
昼の尋常ならざる暑さとは打って変わって冷え込んでいる。
昼夜の寒暖差が激しい。
「ご立派な寝床は結構なことだが、〈絶対防壁〉がなけりゃ危険なことに変わりはねぇ。明日起きた時にお前達が食われていないことを祈ってるぜ」
そう云うと、ザウスは寝袋に入った。
彼の寝袋は複数人が入れるタイプで、3人の女奴隷もそれに入る。
「本当に大丈夫なのか?」
再三の確認をしてくるのはフリッツだ。
「問題ないさ」
「だが、ザウスの言う通り危険だぞ。リバーサイドは比較的安全とはいえ、森の魔物が下ってくる可能性もある。そうなったら俺達は無事でも、お前だけは食われるぞ」
「弱肉強食の世界で死ねるなら本望さ」
俺は俺らしく死にたい。
動けない程に老衰してベッドで眠るように死ぬなんざ二度とゴメンだ。
「ならばもう何も言わないよ」
フリッツは鎧を脱ぐと、寝袋に入り目を瞑った。
彼のPTはそれぞれ単独の寝袋を使っている。
流石に野郎5人で一緒の寝袋に入るのはまずいわな。
瞬く間に俺とイザベラ以外のPTが眠りに就く。
どいつもこいつも驚く程に安心してやがる。
とてもダンジョンの中に居るとは思えない。
〈絶対防壁〉は実に便利な魔法だ。
最大の利点は寝ながらでも発動出来ること。
術者が熟睡していようと、その効果は持続している。
魔力が切れるか任意で解除しない限り続く仕組みのようだ。
「あんたはまだ眠らないのかい?」
イザベラに話しかける。
彼女のPTは俺達と同じで火を焚いていた。
燃料となる木材を燃やす、という点では完全に同じだ。
ただ、火の熾し方については違っていた。
こちらは火打ち石を使い、あちらは魔法を使っている。
「私達は晩ご飯を食べるからね。貴方達もそうなんじゃない?」
「だな」
俺はリュックの中から筒状の容器を取り出した。
これも冒険者用の道具屋で買った代物だ。
ステンレスのような断熱効果の高い素材で作られている。
中に氷を入れると数日は小さな冷蔵庫として使える……らしい。
「よしよし店の謳い文句は嘘じゃなかったようだ」
容器の蓋を開けると、中には新鮮な鶏肉が入っていた。
生の状態でぶつ切りにして、竹の串に刺してある。
肉は腐っておらず、一緒に入れた氷も溶けていなかった。
これなら問題なく食べられる。
「さて食おうか」
容器から串を取り出す。
串の数は6本で、これを俺達は2本ずつ分ける。
「ゴブが焼くゴブー!」
ゴブイチが4本の串を焚き火に放り込む。
俺と自身の分だ。
ジャックはいつも通り生のまま食べる。
「ほらよ、ジャック」
「キュイイイイン!」
俺は生の鶏肉が刺さった串を持ち、ジャックに近づける。
ジャックは串に刺さった肉を1個ずつ器用にクチバシで取っていく。
「ワシを完全に手なずけているわね」
「ジャックはお利口だからな。あんたの子分と同じさ」
イザベラが「ふふっ」と上品に笑う。
俺達が串焼きを堪能している頃、彼女らも串焼きを食べていた。
肉の保存に使っている筒状の容器も全く同じ物だ。
この筒に保存して持ち歩くのは冒険の基本なのだろう。
「食った食った」
「美味しかったゴブー!」
「キュイイイン」
食べ終わると、あとは睡眠だ。
「それじゃ、おやすみ」
イザベラも眠りに就く。
彼女のPTは1人用と多人数用の寝袋を使い分けている。
イザベラだけ1人用で、あとの野郎3人は同じ寝袋だ。
「ゴブ達も寝るゴブ!」
「キュイン!」
「ああ、そうだな」
最後に俺達の就寝。
寝床に入り、オコティーヨの茎をカットして並べた床の上に寝転ぶ。
「どうしてゴブ達は寝袋を使わないゴブ?」
「魔物や動物が奇襲して来た時に即応する為さ」
俺のリュックには寝袋が入っていない。
その代わりに毛布が入っており、それを掛け布団として使う。
ゴブイチ、ジャックと仲良く一緒になって毛布に入った。
「おやすみゴブー!」
「キュイイイ!」
「おやすみ」
こうして俺達も眠りに就く。
ゴブイチは間抜け面を浮かべてスヤスヤ。
俺とジャックは寝ながらも最低限の警戒を絶やさない。
焚き火の炎が土の壁を反射して、寝床内を温める。
ポカポカして気持ち良かった。




