表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/42

032 自己紹介で驚かせてみた

 皆が集まったのでいざレイドダンジョンへ。

 ――と、その前に。


「とりあえず皆で自己紹介しようか」


 青髪の男が提案する。

 俺は真っ当な提案だと思ったが、残り2PTは難色を示した。


「そんなもんイラネーだろ、街の名前で呼び合えばいいんだよ。いや、そうなると俺はアクアリーネって呼ばれるのか。なんだか女みてぇな呼び名だな」


「どうせ名前なんて呼び合わないでしょ。各々が勝手にやるだけなんだから。自己紹介する意味なんてないわ」


 ピンク髪の女が言うことには一理ある。

 各PTが連携することなく戦うのなら、自己紹介は必要ない。

 俺は連携して戦うと思っていたから、真っ当な提案だと思ったのだ。


「名前も知らない者達と共に戦うことなど出来ない。このイベントが終わるまで、俺達はチームなんだ。チームならメンバーの名前を知っておくべきだろう」


 青髪の男も譲らない。

 このままでは時間を浪費してしまう。

 やれやれ。


「だったら間をとってリーダーだけ自己紹介するとしよう。それなら4人で済むし時間もかからない。それに覚えるのも楽だ」


「そうね、それならかまわないわ」


「俺も賛成だ」


 難色を示していた2人が同意する。

 しかし、今度は青髪の男が首を横に振った。


「チームなのだから皆の名前をだな――」


 鬱陶しいから言葉を遮る。


「文句があるなら多数決で決めるかい?」


「なっ……」


「こっちの2人は譲歩したんだ。あんたも譲歩しなよ」


「ぐぐっ……」


 歯を食いしばる青髪の男。


「言うじゃねぇか、セントクルス! 気に入った!」


 赤髪の男が豪快に笑う。

 ピンク髪の女も妖艶な笑みを浮かべている。


「し、仕方ない。だったら各リーダーが自己紹介するってことで……」


 ようやく話が一段落すると、青髪の男から自己紹介が始まった。


「俺はフリッツ。王都リッツロイヤルから来た。王国で最強の誇り高きクラン〈マジックナイツ〉の3軍1位PTを率いている。冒険者ランクはB級。よろしく頼む」


 周囲の反応は平然としている。

 どうやら最初から大手クランのPTだと知っていたようだ。

 フリッツ達が着ている鎧がクランの証なのだろう。


「次は俺だ」


 赤髪の男が手を挙げる。


「俺の名はザウス。水の都アクアリーネの代表でA級だ。そこのお坊ちゃんのような有名クランには所属していねぇが、『ハードパンチャー』つう上等な通り名がある」


「へぇ、貴方があのハードパンチャーだったのね」


「その名は王都にも聞こえている。あと俺はお坊ちゃんじゃない」


 ここでも周囲との反応に差が生じる。

 俺だけがハードパンチャーと聞いてもピンッと来なかった。


(この男がA級……信じられないな)


 ザウスの冒険者ランクに違和感を覚えた。

 俺が見たところ、彼の強さはフリッツと同程度だ。

 もしかするとフリッツのほうが強いかもしれない。

 つまりゴリウスに毛が生えた程度であり、クリスより遥かに弱い。

 冒険者のことはよく知らないが、とてもA級には思えなかった。


「この流れだと次は私が名乗るべきね」とピンク髪の女。


「別に俺から先に名乗ってもいいけど」


「いや、貴方はどう見てもトリでしょ」


 流石にこの発言は理解できる。

 この場において、俺だけが明らかに異質だからだ。

 唯一のソロで、その上、ペットはゴブリンとワシときた。

 しかも他の連中より若い。周りが25前後と思しき中、俺は18歳。

 間違いなく皆が興味を持っているのは俺の素性だ。


「ま、それもそうか」


 素直に3番手を譲る。


「砂の都グランアットから来たC級のイザベラよ」


 イザベラの紹介は前の男2人よりも短かった。

 必要な情報だけを話して手短に済ませる点に好印象を抱く。

 この女とは仲良くなりたいと思った。


「やっぱりあんたが『砂の女王』か」


 イザベラの自己紹介にフリッツが反応する。


「その名前ならアクアリーネにも轟いている。噂以上にイイ女だな。是非とも夜のお相手をお願いしたいものだねぇ」


 下卑た笑いを浮かべながら舌を舐めずるザウス。

 イザベラは気にも留めていないようで、「ふん」と鼻で流した。


「さて坊や、最後に貴方のことを教えてちょうだい」


 イザベラが言うと、皆の視線が俺に集まった。

 付近の森で草木の揺れる音が聞こえる程の静寂さに包まれる。

 そんな中、俺は自己紹介を始めた。


「セントクルスから来たノブナガだ。冒険者ランクはF」


「「「えっ」」」


 全員がカチコチに固まる。

 今までは呼吸していたが、今では呼吸すらしていない。

 窒息死する前にもう一度言ってあげよう。


「冒険者ランクはF」


「「「…………」」」


 場が凍ったまま動かない。


「……本当に?」


 最初に自然解凍が済んだのはイザベラだ。


「本当だよ、ほら」


 懐から冒険者カードを取り出して見せる。


「本当ね……」


「なん……だと……」


「マジでFじゃねぇかよ……」


 ぴゅーるるーと風が吹いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ