032 自己紹介で驚かせてみた
皆が集まったのでいざレイドダンジョンへ。
――と、その前に。
「とりあえず皆で自己紹介しようか」
青髪の男が提案する。
俺は真っ当な提案だと思ったが、残り2PTは難色を示した。
「そんなもんイラネーだろ、街の名前で呼び合えばいいんだよ。いや、そうなると俺はアクアリーネって呼ばれるのか。なんだか女みてぇな呼び名だな」
「どうせ名前なんて呼び合わないでしょ。各々が勝手にやるだけなんだから。自己紹介する意味なんてないわ」
ピンク髪の女が言うことには一理ある。
各PTが連携することなく戦うのなら、自己紹介は必要ない。
俺は連携して戦うと思っていたから、真っ当な提案だと思ったのだ。
「名前も知らない者達と共に戦うことなど出来ない。このイベントが終わるまで、俺達はチームなんだ。チームならメンバーの名前を知っておくべきだろう」
青髪の男も譲らない。
このままでは時間を浪費してしまう。
やれやれ。
「だったら間をとってリーダーだけ自己紹介するとしよう。それなら4人で済むし時間もかからない。それに覚えるのも楽だ」
「そうね、それならかまわないわ」
「俺も賛成だ」
難色を示していた2人が同意する。
しかし、今度は青髪の男が首を横に振った。
「チームなのだから皆の名前をだな――」
鬱陶しいから言葉を遮る。
「文句があるなら多数決で決めるかい?」
「なっ……」
「こっちの2人は譲歩したんだ。あんたも譲歩しなよ」
「ぐぐっ……」
歯を食いしばる青髪の男。
「言うじゃねぇか、セントクルス! 気に入った!」
赤髪の男が豪快に笑う。
ピンク髪の女も妖艶な笑みを浮かべている。
「し、仕方ない。だったら各リーダーが自己紹介するってことで……」
ようやく話が一段落すると、青髪の男から自己紹介が始まった。
「俺はフリッツ。王都リッツロイヤルから来た。王国で最強の誇り高きクラン〈マジックナイツ〉の3軍1位PTを率いている。冒険者ランクはB級。よろしく頼む」
周囲の反応は平然としている。
どうやら最初から大手クランのPTだと知っていたようだ。
フリッツ達が着ている鎧がクランの証なのだろう。
「次は俺だ」
赤髪の男が手を挙げる。
「俺の名はザウス。水の都アクアリーネの代表でA級だ。そこのお坊ちゃんのような有名クランには所属していねぇが、『ハードパンチャー』つう上等な通り名がある」
「へぇ、貴方があのハードパンチャーだったのね」
「その名は王都にも聞こえている。あと俺はお坊ちゃんじゃない」
ここでも周囲との反応に差が生じる。
俺だけがハードパンチャーと聞いてもピンッと来なかった。
(この男がA級……信じられないな)
ザウスの冒険者ランクに違和感を覚えた。
俺が見たところ、彼の強さはフリッツと同程度だ。
もしかするとフリッツのほうが強いかもしれない。
つまりゴリウスに毛が生えた程度であり、クリスより遥かに弱い。
冒険者のことはよく知らないが、とてもA級には思えなかった。
「この流れだと次は私が名乗るべきね」とピンク髪の女。
「別に俺から先に名乗ってもいいけど」
「いや、貴方はどう見てもトリでしょ」
流石にこの発言は理解できる。
この場において、俺だけが明らかに異質だからだ。
唯一のソロで、その上、ペットはゴブリンとワシときた。
しかも他の連中より若い。周りが25前後と思しき中、俺は18歳。
間違いなく皆が興味を持っているのは俺の素性だ。
「ま、それもそうか」
素直に3番手を譲る。
「砂の都グランアットから来たC級のイザベラよ」
イザベラの紹介は前の男2人よりも短かった。
必要な情報だけを話して手短に済ませる点に好印象を抱く。
この女とは仲良くなりたいと思った。
「やっぱりあんたが『砂の女王』か」
イザベラの自己紹介にフリッツが反応する。
「その名前ならアクアリーネにも轟いている。噂以上にイイ女だな。是非とも夜のお相手をお願いしたいものだねぇ」
下卑た笑いを浮かべながら舌を舐めずるザウス。
イザベラは気にも留めていないようで、「ふん」と鼻で流した。
「さて坊や、最後に貴方のことを教えてちょうだい」
イザベラが言うと、皆の視線が俺に集まった。
付近の森で草木の揺れる音が聞こえる程の静寂さに包まれる。
そんな中、俺は自己紹介を始めた。
「セントクルスから来たノブナガだ。冒険者ランクはF」
「「「えっ」」」
全員がカチコチに固まる。
今までは呼吸していたが、今では呼吸すらしていない。
窒息死する前にもう一度言ってあげよう。
「冒険者ランクはF」
「「「…………」」」
場が凍ったまま動かない。
「……本当に?」
最初に自然解凍が済んだのはイザベラだ。
「本当だよ、ほら」
懐から冒険者カードを取り出して見せる。
「本当ね……」
「なん……だと……」
「マジでFじゃねぇかよ……」
ぴゅーるるーと風が吹いた。




