031 魔王の庭・リバーサイド
四都市合同レイドイベントの当日。
草木が起き始めたような早朝、俺は街を出てすぐの所に居た。
目の前にはご立派な馬車が待機している。俺の為の馬車だ。
「ふわぁぁぁぁ」
御者の男が眠そうにアクビを連発している。
背後から近づく俺に気づいていないようだ。
「ども」
「うわぁ!」
驚きのあまり馬から転げ落ちる御者。
驚かすつもりがなかったと言えば嘘になるが、これは流石に驚き過ぎた。
俺は「大丈夫かよ」と苦笑いで御者を立たせた。
「お、お待ちしておりました、ノブナガ様」
「もしかして遅刻したかい?」
「いえ、予定時刻よりも早いくらいです」
「そのわりには退屈そうだったが」
「いやぁ、冒険者が時間を守られることは滅多にないので、ノブナガ様が来られるのはもう少し後になるのかとばかり……」
「なるほどね」
御者の案内されて馬に繋げられた客車に乗り込む。
客車は広々としており、大人4人が窮屈せずに入れそうだ。
「ゴブゥ!」「キュイイン!」
ゴブイチとジャックが先に搭乗。
「よいしょっと」
続いて俺も搭乗するのだが、その前にリュックを放り込む。
このリュックは今回の為だけに買った特別品だ。
冒険者用の店で買った頑丈な代物で、中には色々な道具が入っている。
俺にしては珍しくフル装備だ。
「到着まで結構な距離がございます為、途中で何度か休憩をいただきますがご容赦ください!」
「そんなに距離があるのか」
目的地は〈魔王の庭〉なるレイドダンジョンだ。
そこがどこにあるのか、俺は欠片ほども知らない。
もっと言えば、どういった場所なのかも知らなかった。
「休憩時間も含めますと8時間程となります」
「は、はちじかんだと!?」
長すぎる。
俺は早くも帰りたくなった。
「それでは出発します!」
嗚呼、俺達を乗せた馬車が動き出す。
俺は直ちに目を瞑って眠るのだった。
◇
「そろそろかな」
体感で7時間30分ほど眠った。
おそらく実際に寝ていた時間も同程度のはずだ。
大自然で効率良く生き抜く中で、体内時計は鍛えられた。
よって狂いはないはず。
「あとどのくらいで到着しそうかな?」
「ちょうど到着しました!」
「早いな。まだ8時間経ってないだろ」
「今日は馬の機嫌が良くてすいすい進めました!」
「なるほど」
俺は周囲に目を向ける。
ジャックとゴブイチも心地よさそうに眠っていた。
「起きろ、到着したぞ」
「キュイッ!」
サッと起きるジャック。
賢いジャック、流石はハクトウワシ。
「もうちょっとゴブゥ……」
ゴブイチはダメダメ。
クソ雑魚ゴブイチ、流石はゴブリン。
「これでよしっと」
リュックを背負い、客車から出る。
ジャックが俺の肩に乗り、準備は完了。
「ありがとうな、御者さん」
「へい! って、まだゴブリンが寝ていますが……」
「あぁ、そいつは適当に捨てておいてくれ」
「えっ」
「起きたくないようだし、今日をもって追放だ」
ゴブイチの尖った耳がピクッと動く。
「起きるゴブ! 起きたゴブ! 捨てないでゴブゥ!」
客車からすっ飛んでくるゴブイチ。
やれやれ、と俺はため息をついた。
「それではこれにて!」
御者は客車が空なことを確認すると、来た道を引き返す。
「さて、ここが〈魔王の庭〉なるダンジョンか」
振り返ってレイドダンジョンを眺める。
左右に深々と森が生い茂り、遥か前方には薄らと山々が見える。
そして俺達が居るの砂利道は、随分と幅の広い川岸のようだ。
右手には足首が浸かるほどの浅い川が流れている。
川の幅は約10メートルで、川岸の幅はその3倍以上だ。
川を挟んで反対側にある川岸も同じような幅をしている。
川辺ではあるものの、幸いなことに蚊などの虫は見当たらない。
日差しは結構な強さだ。
おそらく気温は40度近くあるだろう。
湿度が低いので鬱陶しくはないが、単純に暑い。
ゴブイチは犬のように舌を出してへたっている。
「正確には〈魔王の庭・リバーサイド〉よ、此処は」
隣から女の声が聞こえる。
振り向くと、そこには他の冒険者連中が立っていた。
PTごとに間隔が空いているので、すぐに3PTが揃っていると分かる。
男だけの5人PT、男1人に女3人のPT、女1人に男3人のPTだ。
先ほどの発言は、おそらく褐色の肌をした女が言ったのだろう。
女が1人しかいないPTの者で、肩に掛かる長さをしたピンクの髪が特徴的。
俺よりやや年上で、目つきのきつさからも気が強そうだ。
ヘソや太ももを露出している服装はクリスを彷彿とさせた。
腰に装備している鉄製の鞭が得物なのだろうか。
「おせーぞ、セントクルス!」
こちらは燃えさかる炎のような赤髪の大男。
黒い首輪のついた女3人を率いている男で、武器は持っていない。
素手で敵と戦うクラスのようだ。たしかクラス名は……モンク。
言葉遣いの荒さは絵に描いたような冒険者だ。
「セントクルスは遠いのだから仕方ないさ」
5人PTの男が言う。
青髪の男で、腰には長剣を装備している。
盾は持っていないようだが、間違いなく剣士だ。
この男のPTは全員が同じ鎧を装備している。
「これでも早く到着したとのことだが、待たせたのならすまないな」
「申し訳ないゴブ!」
「キュイッ、キュイッ!」
素直にペコリと頭を下げる俺達。
この対応によって、赤髪の男も「チッ」と舌打ちするに留まった。
(さて)
頭を上げると同時に、サッと他のPTを品定め。
俺はパッと見るだけで相手の殆ど正確な強さが分かる。
(おいおい、これは……)
品定めの結果、とんでもないことが分かった。
(思っていたよりも質が低いな……)
誰一人として「おっ」と思える強さの人間がいなかったのだ。
セントクルスの冒険者連中よりは強いが、その程度でしかない。
各都市の代表なのだから、最低でもクリスと同レベルを想定していた。
(決して雑魚とは言えないが……うーん……)
こんなメンツで大丈夫なのだろうか、と不安になった。
次の投稿は来年の1月3日となります。
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それでは良いお年を!




