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030 四都市合同レイドイベント

 冒険者ギルドに入るなり騒がれるのはいつものことだ。

 しかしその日の雰囲気は、いつもとはなんだか異なっていた。


「来たぞ! ノブナガだ!」


「ついにサキュバスを……って、あれ、ゴブリン!?」


「まさかノブナガの奴、ゴブリンをテイムしたっていうのか!?」


「な、何があったんだ……!?」


 ゴブイチに気づくと、冒険者連中はいつもと同じ反応を見せる。

 だがそれは束の間のことで、次の瞬間には異なる反応を見せた。


「頼むぞ! ノブナガ!」


「セントクルスの代表はお前しかいねぇ!」


「もしかすると、お前なら最優秀賞を獲得できるかもしれねぇ!」


「セントクルスの英雄になってくれ!」


 どうやら皆は俺に何かを期待している。

 それが何なのか、俺にはまるで見当が付かない。


(あの素晴らしき情報通に訊けば何か……って、いねぇ)


 こんな時に限って、あの情報通がいない。

 仕方ない、受付嬢にでも訊くとしよう。


「ゴブ達、有名人ゴブ!? ノブナガは凄いゴブ!?」


「キュイイイイン!」


「気にするな、行くぞ」


 俺は静かに受付カウンターへ向かった。


「頼りにしているだの街の代表だの言われているのだが何か知らないか?」


 カウンターに着くなり受付嬢に尋ねる。


「ちょうどそのことでお話がございます」


 受付嬢が答えた。

 どうやら俺の登場はナイスタイミングだったようだ。


「来週の四都市合同レイドイベントで、ノブナガ様がセントクルス代表に選ばれました」


 出たよ、意味不明な話。


「四都市合同レイドイベントってなんだ?」


「えっ、ご存知ないのですか?」


「恥ずかしながら無知でな」


 このやり取りに周囲の冒険者が沸き上がる。

 レイドイベントを知らないとは流石だぜノブナガ、と誰かが叫んだ。

 周囲や受付嬢の反応を見る限り、このイベントは知っていて当然らしい。


「で、では、レイドイベントについて簡単に説明させていただきます」


「よろしく頼む」


「レイドイベントというのはですね――」


 簡単にと言いつつ、受付嬢は詳細に教えてくれた。


 レイドとは、複数のPT(パーティー)でチームを組んで攻略に取り組むことを指す。

 参加するPTの数はまちまちだが、基本的には3~6PTが協力するとのこと。

 ちなみに1PTは3~6人が基本なので、最大で約35人のチームが出来上がる。

 かなりの大人数だ。


 レイドの対象となるエリアは、冒険者ギルドが指定した場所に限る。

 このエリアのことを「レイドダンジョン」と呼ぶ。

 驚くことにサキュバスの棲息している大空洞もレイドダンジョンだ。


 そして最後に、皆が熱狂している四都市合同レイドイベント。

 これはその名の通りのものだ。

 セントクルスを含む四都市の代表PTでレイドダンジョンに挑む。

 代表PTの選び方は、その街を拠点とする冒険者の投票で決まる。


「でも俺、投票なんてしてないぞ」


「ノブナガ様はこの街でこなしたクエストの数が少ないので、投票権を与えられておりません」


「そんな奴が代表でいいのかよ……」


「何の問題もございません」


 受付嬢曰く、俺は獲得票数はぶっちぎりの1位だったらしい。

 俺に投票する理由は色々あって、大きく分けると次の3つになる。


 1つ、シロコダイルとパープルラビットの依頼をソロ攻略した手腕。

 2つ、セントクルスの代表予定だったゴリウスを倒した謎の戦闘力。

 3つ、ゴリウス以前に代表予定だったクリスが街を出たので消去法。


「他所の街の奴等と仲良く大自然に挑むのか」


 気乗りしない話だ。

 そもそもイベント、というのが気にくわない。

 まるで遊び感覚で行われているようでならないからだ。


「もちろん、代表の座を断ることも出来ます。その際は獲得票数が2位だったPTにお願いします。ただ、代表の座を受けられた時点で参加報酬が発生するということもあって、断る方は滅多にいません。ここ数年でお断りされたのは、前年と前々年だけですね。理由は『お祭り気分で戦いの場へ出たくない』とのことでした」


「ほう」


 お祭り気分で戦いの場へ出たくない、か。

 俺と気が合いそうな素晴らしい理由である。


「その前年と前々年の1位って?」


「クリス様でございます」


「やっぱり」


 そんなことだろうな、と思った。

 あまり知らないが、彼女なら言いそうだ。


「それでノブナガ様、いかがなされますか?」


 俺は二つ返事で答えた。


「参加しよう」


「本当ですか!?」


 驚く受付嬢。

 周囲の連中がざわついている。


「俺が承諾するのはそんなに意外か?」


「こういうイベントごとはお嫌いなのかな、と……」


「たしかに嫌いだが、たまには悪くないと思ってな」


 このセントクルスという街にはなんだかんだ世話になっている。

 だから恩返しをする為にも、皆の期待に応えることを決めた。


「参加する以上は可能な限り頑張るが、最優秀賞は期待するなよ」


 これは受付嬢だけでなく、周囲の冒険者達にも言っていた。


 レイドイベントの終了後、参加者投票で一番の優秀者を決定する。

 俺はソロで参加するので、身内からの投票で票数を稼ぐことが出来ない。

 その上、戦闘スタイルが基本的には不意打ちと地味なのも微妙な点だ。

 常識的に考えて、最優秀賞に選ばれる可能性は皆無に等しかった。


「大丈夫さ! お前で無理なら他の奴でも無理さ!」


「違いねぇ! だからって手を抜くんじゃねぇぞ!」


 ギルド内が温かい歓声に包まれた。


「ノブナガ様の口座に、参稼報酬の1000万ゴールドを振り込ませていただきました」


「そんなにも貰えるのか」


 この後はクエストを受けるつもりだったが、予定変更だ。

 イベントで足手まといにならぬよう、自己研鑽に時間を割くとしよう。


「無事にレイドダンジョンを攻略されますと、攻略報酬で2000万ゴールドをお支払いいたします。最優秀賞に選ばれますと、追加報酬として更に2000万ゴールド――参加報酬も含めますと最大で5000万ゴールドを得ることが可能です」


「5000万……!」


 それだけあれば最高級娼館でも遊び放題だ。


「頑張ろうな、お前達」


「キュイイイイイン!」


「ゴブゥウウウウ!」


 ――それから1週間後。

 四都市合同レイドイベントの日がやってきた。

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