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029 ゴブイチの特訓

 ゴブイチに叩き込むのはサバイバル生活に必要な技術だ。

 火を熾して寝床を作ることが出来れば、それだけでも俺は楽になる。

 酷い運動神経のゴブリンにわざわざ戦わせる必要はない。

 そんなわけで、休憩の終了と同時に訓練開始だ。


「まずは火の熾し方だ」


「ゴブは魔法なんか使えないゴブよ!」


「火を熾すのに魔法なんかいらねぇ」


 ひとえに火を熾すといっても、その方法は多岐にわたる。

 木を使った摩擦熱による方法だけでも、すぐに思いつくだけで4種類。

 きりもみ式、まいぎり式、弓ぎり式、火溝式だ。

 今回は木を使った4種類に加え、火打ち石を使った方法も教えておく。


「火種! 火種が出来たゴブ!」


「それをどうするんだった?」


「枯れ葉や枯れ草の中に入れて……息を吹きかけるゴブ!」


 両手に持った枯れ草の塊に、酸素を送るゴブイチ。

 すると、火種の入った枯れ草が盛大に炎を上げた。


「よし、いい感じだ」


 1時間を超す特訓の末、ゴブイチは火を熾せるようになった。

 とはいえまだまだ未熟であり、実戦的なレベルとは言いがたい。

 もっともっと経験を積む必要がある。


「次に道具の作り方だ」


 サバイバル生活において大事なのが道具だ。

 紐や罠、それに槍や弓といった武器も自然にある物から作る。

 道具とは違うが、野営で使う寝床の作り方もここで教えておく。


 道具には色々とあるわけだが、優先すべきは紐と寝床だ。

 頑丈な紐は何にでも使えるし、寝床は野営するなら必要不可欠である。


 逆に武器や罠は後回しにしてかまわない。

 それらは高いクオリティが求められる為、基本的には俺が作る。


「紐が出来たゴブ! 寝床も完成したゴブ!」


「やるじゃないか」


 ゴブイチの成長ぶりは想像していたよりも素晴らしかった。

 手先が器用なのでこういった作業には向いているのだ。


 なによりやる気に満ちていることが大きい。

 自分の意志で反復練習を行う積極性が成長を後押ししている。


「あとは植物の知識だが……これはまぁ大丈夫だろう」


「大丈夫とはどういうことゴブ?」


「お前は既にある程度の知識をもっているからだ。お前が食べられる植物は俺も食べられる。反対も然りだ。一から教えていかなくても、魔物として生きてきた中で、植物の知識は十分に培われているだろうよ」


 前にゴブリンを観察して気づいた。

 ゴブリンの味覚が人間に似ているということに。

 基本的に、人間にとって毒な物はゴブリンにとっても毒だ。


「分かったゴブ! ノブナガ、次はなにを教えてくれるゴブ?」


 俺は「ふっ」と笑い、答えた。


「終わりだ」


「えっ、終わりゴブ?」


「そうだ。お前には必要なことを一通り教えた」


「で、でも、ゴブは火の熾し方と道具の作り方しか教わっていないゴブ」


「それだけで十分なのさ。あとのことは必要になる度に教えていく」


「じゃあ、ゴブはもう一人前ゴブ!?」


「それは違うな。今のお前はまだまだ作業速度が遅い。安全な場所では問題なくとも、過酷なサバイバル生活で物足りないレベルだ。だから今後は何度も何度も練習していく。そうして作業の質と速度の両方を一定水準に達したらようやく一人前になる」


 テクニックの質、数、速度の3つで重視されるのは質と速度だ。

 高レベルの技術を、一秒でも早く使用できることが大事である。


 例えば火を熾す場合。

 100通りの熾し方を知っているだけでは意味がない。

 それらを素早く且つ完璧に使いこなせて、初めて価値が生まれる。


 だからまずは少ないテクニックを確実に育てていく。

 しっかりとモノにしたら、新しい技術に手を伸ばす。


「1週間くらいか」


「ゴブ?」


「キュイイン?」


「ゴブイチが一人前になるまでの練習期間だ。能力を考慮した場合、1週間もあれば俺のアシストが出来るレベルになるだろう」


 これはまた冒険者ギルドに衝撃を与えそうだ。

 そんなことを考え、俺は独りでにニヤけるのだった。


 ◇


 1週間後。

 セントクルス近郊の森にて。


「火が点いたゴブ!」


「2分30秒か、問題ない速度だ」


「するとゴブはついに一人前ゴブか!?」


「おうよ」


「やったあああゴブウウウウウウウ!」


 ハードな特訓を乗り越え、ゴブイチは完全に仕上がっていた。


(よく耐えたものだ。人間だったら音を上げているぞ)


 ゴブイチにとって、この1週間はまさに地獄だったはず。

 なにせ早から晩までひたすらに反復練習をしていたのだ。

 それはもう、数え切れない程に同じ作業を繰り返した。

 何度も、何度も、何度も、何度も、何度も。


 火を熾したら道具を作り、それが出来たらまた火を熾す。

 するのはひたすらにそれだけだ。

 それ以外のことと言えば、睡眠と食事と入浴くらいなもの。


 指導者である俺ですらかなり疲れた。

 だから毎日、夜になると下級=低価格帯の娼館で3時間は遊んだ。

 特訓中は金を稼ぐ手段がない為、中価格帯は控えた。


 最下級=激安帯の娼館には最初の一度しか行っていない。

 もれなくブサイクな上に、サービスが悪かったのでやめた。

 その点、低価格帯の娼館は妥協出来る水準にある。

 スッキリするだけなら低価格帯がちょうどいい。


 ――翌日。


「さて、そろそろお金を稼がないとな」


 今日は久しぶりにクエストを受ける予定だ。

 最高級娼館で遊び倒したり、サキュバスをテイムしたりする為に。

 たくさんのクエストをこなし、果てなき野望を叶えるのだ。


 そう思って冒険者ギルドに足を踏み入れる。

 すると、予想だにしない展開が待っていた。

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