028 ゴブイチの能力測定
どうにかセントクルスまで戻ってこられた。
辺りが真っ暗になった中、大衆酒場で晩ご飯を食べる。
「お前らいったいどんな胃袋してんだよ」
「美味しいゴブゥ!」
「キュイイイイン!」
ゴブイチの食欲は相当なものだった。
なんとジャックや俺と同程度の食事量なのだ。
俺は一般的な成人男性よりもよく食べる。
強靱な肉体を作るには、大量のエネルギーが必要だからだ。
その俺と同程度の食事量なのだから、こいつらの食欲は凄まじい。
「今日はもう遅いから仕方ないが、明日からは働いてもらうぞ。ウチでは働かざる者食うべからずだ。働けないカスなら餓死させるから覚悟しとけ」
「ひぃぃぃぃぃ! が、頑張るゴブ!」
テイムしてしまった以上、ゴブイチにも働いてもらう。
なにせこいつは男の夢であるサキュバスの代わりなのだから。
ゴブイチの能力は未知数だ。
現段階で分かっているのは、運動神経が絶望的ってこと。
あと、身体能力も腕力を除いて小中学生レベルしかない。
腕力だけは、それなりに鍛えた成人男性と同じくらいだ。
(ま、最悪の場合は荷物持ちにすればいいか)
ゴブイチにはああ言ったが、実際に餓死させるつもりはない。
貴重な解毒薬を使ってまで命を助けたわけだからな。
それにコイツが死んでも、今の俺ではサキュバスをテイム出来ない。
もう終わったのだ、サキュバスの話は。終わったのだ……。
テイム可能枠が2匹になったら、今度こそサキュバスをテイムしよう。
その為にも早くD級に昇格しないとな、と心に誓いながら帰宅した。
◇
翌日。
朝食を済ませると直ちに作業開始だ。
「今回はお前の能力を調べさせてもらう」
ゴブイチに言った。
「ゴブの能力ゴブか?」
「そうだ。既に把握している運動神経や身体能力も含めて、あらゆる能力を調べる。その上で、お前に最適な役割を検討していく」
適材適所という言葉がある。
ゴブイチの場合、ゴブリンなので戦闘は不向きだ。
だから、基本的には別の方向で役に立たせる道を模索する。
誰しも何かしらの得意分野はもっているものだ。
「よーし、まずは木登りからいってみようか!」
近くの森にやってきて、ゴブイチの能力測定を開始した。
………………。
…………。
……。
昼になり、一通りの測定が終了した。
森の中にある舗装された道のすぐ傍で昼休憩を行う。
焚き火を囲む俺達。
今日の昼ご飯は様々な川魚の塩焼きと森に自生している果物だ。
魚はジャックが、果物はゴブイチが調達した。
「ゴブイチ、お前の能力についておおよそ把握できた」
「ふっふっふ、ゴブリンだからって侮られると困るゴブ!」
ドヤ顔を浮かべるゴブイチ。
俺は「侮っていないさ」と苦笑い。
「お前の能力はほぼほぼ俺の想定通りだったよ」
「つまり最高だったということゴブか!?」
「いいや、有り体に言えばクソ雑魚ってことだ」
「なんだってゴブゥウウウウ!」
ゴブイチの能力に大した異常性は見当たらなかった。
運動神経……ゴミ。
身体能力……腕力以外微妙。腕力のみそこそこ。
戦闘能力……論外
器用さ……それなりに良い
物覚え……酷すぎるほどではないが、良いとも言えない。
やる気……とんでもなく高い。
しいて何かを評価するとすれば、意欲的な点だろう。
今のモチベーションを維持できるなら、最終的には役に立つ。
「酷い言いようゴブ! ノブナガは優しくないゴブ!」
「優しいよ。正直なだけさ」
「ぐぬぬ……。じゃ、じゃあ、ゴブとジャックならどっちが優れているゴブ?」
「キュイッ!?」
いきなり自分の名を出されて驚くジャック。
そのクチバシには魚の血がべっとりと付着していた。
ジャックだけは生のまま食べている。
「決まっているだろ」
「さすがにジャックには負けないゴブよね!」
「いや、ジャックの方が遙かに優秀だ」
「キュイイイイイイイイイン!」
ジャックが嬉しそうに羽を広げる。
ゴブイチは「どうしてゴブ!?」と食い下がる。
「ジャックは万能だからな。命令すれば単独で食料を調達できる。戦闘面では周辺の警戒や上空からの監視などなど幅広く役に立つ。それに俺よりも遥かに速く移動できるから、全力で走っても問題ない。どの点に目を向けてもお前より上だぞ」
「ゴ、ゴブッ……」
ゴブイチがガクッと項垂れる。
「だが安心しろ」
「ゴブ!?」
「お前を今の無能なまま終わらせるつもりはない」
「どういうことゴブ!?」
「幸いにもお前はやる気に満ちている。それに手先は器用だし、物覚えもぎりぎり及第点を与えられるレベルだ。だから、俺の活動を支援できるような技術を叩き込んでやる」
「つまり、ゴブを鍛えてくれるゴブか!?」
「そういうことだ。お前を鍛えて俺の右腕に仕上げる。今のお前は『やはりゴブリンだな』と言われても仕方のないへっぽこだ。しかし、俺が鍛えることで、誰もが口を揃えてこう言うようになるだろう。『こんなゴブリン見たことねぇ!』ってな」
おそらく俺以外の全ての冒険者にとって、ゴブリンは無能なペットだ。
貴重なペット枠は消費する。戦闘ではまるで役に立たない。
かといって、サキュバスのようにご主人様を悦ばせることも無理。
うっかりテイムしようものなら、しばらくは後悔を引きずるだろう。
しかし、俺にとっては違っていた。
俺にとって、ゴブリンは有能なペットだ。
無能でも普通でもない。有能なのだ。
喩えるならゴブリンはダイヤモンドの原石である。
今はどんよりしていても、磨けば盛大に輝くだろう。
俺の脳内には、既にゴブイチを輝かせる為のプランが存在していた。




