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023 ビーストテイマーのススメ

 大人の通りを散策した後、冒険者ギルドへやってきた。


「がっつり稼ぐぞ、ジャック!」


「キュイイイイイイイイイン!」


 俺は労働意欲に満ちている。

 数百万ぽっちの所持金では物足りないからだ。


(駄目だ……! 今の所持金では……!

 数百万ぽっちの端金では……! 駄目……!

 心ゆくまで遊ぶことが出来ない……! 最高級娼館で……!)


 最高級クラスの娼館の料金を見てぶっとんだ。

 なんと1時間で100万前後もしやがった。

 今の手持ちだと、時間を忘れて遊ぶことが出来ない。


 娼館の価格帯は5段階に分かれている。

 上から順に最高級、高級、中級、下級、最下級だ。

 昨日、俺が利用した店は中級。中価格帯とも言われている。


 中級の店ですら、六本木の高級店レベルのクオリティだった。

 だったら最高級の店に行ったらどうなっちまうんだ、と思うのは自然の摂理。

 で、実際に値段を確認しに行ったところ、絶望してしまったわけだ。


 だから今日も働く。

 しゃかりきに働き、稼いで稼いで稼ぎまくる。

 そして最高級店で朝から晩まで遊び倒してやるのだ。


「鷲使いノブナガだ……!」


「あれが……鷲使い……!」


「肩の鷲はC級冒険者に匹敵する強さらしいぜ」


「それってサイクロプスと同じくらい強いってことだぞ」


「やべぇ……!」


 ギルドに入ると俺の噂が始まる。いつものことだ。

 いつの間にやら〈鷲使い〉の二つ名が浸透していた。

 心なしかジャックがドヤ顔をしているように見える。


「おいっす、鷲使いノブナガ!」


 皆が遠巻きに俺を見る中、一人の男が話しかけてきた。

 俺に「鷲使い」の二つ名を勝手に命名した男だ。


「昨日の今日でえらく浸透させたな、その二つ名」


「君の鷲は目立つからなぁ!」


「キューイン!」


 ジャックが嬉しそうに鳴く。


「それで、今日は何の用だ?」


「皆を代表して質問させてもらおうと思ってなぁ」


「質問?」


「どうして魔物を使役しないんだ?」


「ほう、魔物って使役できるのか」


「えっ、そこから!? 知らなかった感じ? マジ?」


「うん、マジ」


 驚く男。

 周囲の連中も衝撃を受けている。

 魔物が使役出来ることは知っていて当然の常識らしい。


「すると今までビーストテイマーが何か知らずにいたわけか」


「だな。この際だから言うけど、受付嬢との会話では知らずに合わせていた」


 男が声を上げて笑う。


「ビーストテイマーってのは、魔物を使役するクラスのことだ。〈テイミングタクト〉と呼ばれる専用の魔法道具でだな――」


「これのことか?」


 スッとタクトを取り出す。

 先ほど武器屋のおっさんから貰ったものだ。


「そうそう、それのこと――って、なんで持ってるんだよ! テイマーのことを知らないのにタクトは持ってるっておかしくねぇか!?」


「ん、貰った」


「貰った!? そんなたけぇのをくれるってどうなってんだよ!」


 テイミングタクトが高級品であると知る。

 具体的な相場は知らないが、興味ないので気にしない。


「それで、このタクトはどう使うんだ?」


「そいつで魔物の頭を叩くと〈テイミング〉って魔法が発動するんだ。で、〈テイミング〉が成功すると、その魔物は自分に絶対服従のペットとなる。動物と違って何の躾けをするまでもなく従順だ」


「ほう、なかなか便利そうだな」


「かなり便利さ。魔物を使役することのデメリットといえば、食費が増えることくらいだ。それは鷲を飼っているなら分かるだろ?」


「まぁな。それじゃあ、どうしてここの連中は魔物を使役しないんだ? このテイミングタクトって、そんなに高いのか?」


 男は「そんなことないさ」と首を横に振る。


「高いと言っても200万前後だ。買おうと思えば俺だって買える。それでも買わないのは使いこなせないからさ。〈テイミング〉を成功させるには、対象となる魔物を屈服させる必要があるんだ」


「屈服って……ざっくり言うとボコボコにすればいいわけか?」


「そういうこと。ま、ボコボコでなくても屈服していればかまわない。例えば君が昨日捕獲したパープルラビットは、おそらくだが捕獲した時点で屈服しているはず」


「なるほど」


「当然だが、魔物を屈服させるのに仲間の力を頼るのは御法度だ。仲間に協力してぶちのめしたからって相手は屈服しないだろ?」


「うむ」


「で、この屈服させる行為――君が言うところのボコボコにするのは難しい。これは魔物に限った話じゃないが、殺さない程度に寸止め出来るのは相手との実力差がよほどある場合に限るだろ」


「だな」


「君はソロでシロコダイルを狩れる程の人間だから問題ないだろうが、大半の人間はそれほど強くない。そうなると、現実的に〈テイミング〉で成功できそうな魔物はゴブリンくらいなもの。だが、知っての通りゴブリンは弱い。一丁前なのは食欲くらいさ」


「そういうことか」


 事情を把握した。


「そんなわけで、俺達は気になっていたんだ。君がどうして魔物をテイムしないのかってね。シロコダイルを倒せる程の腕前なら、そこそこの魔物をテイムできるだろう。しかし、そもそもビーストテイマーを知らなかったのなら仕方ないな」


 俺は何も答えず、静かに考えていた。


(ビーストテイマーか、悪くないな)


 俺はビーストテイマーに興味を抱いていた。

 完全に従順な魔物をペットに出来るのはありがたい。

 なにをするにしても、仲間の数は多い方が助かるもの。

 それにペットが仲間なら、行動方針で揉めることはない。


「その顔は『今から魔物のテイムに行こうかな』と思っているな?」


 男がニヤリと笑う。

 たしかに俺はそんなことを思っていた。


「テイムするなら相手をよく選んだほうがいいぜ」


「どういうことだ?」


「テイマーがペットに出来る魔物の数には上限があるんだ」


「上限?」


「条件は冒険者ランクによって異なる。GからEは1体、DからBは2体。で、Aは3体のSは4体までだ。君は今Fランクだろ? だから1体しかテイムできない」


「なるほど」


「しかもこのペットにした数のカウントは、ペットが死んでもリセットされないんだ」


「つまり、テイムしたペットが死んでも新たにテイムできないわけか。今の俺はFランクだから」


「そういうことさ」


「悩むな……。なにかいいペットを知らないか? 俺と同じく人型で手先が器用な奴か、または脚の速い馬みたいな奴がいいんだが」


 尋ねると、男は「知ってるぜ」と怪しげな笑みを浮かべた。

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