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020 パープルラビットを納品してみた

 そんなことだろうな、と予想はしていた。

 だが、現実は俺の予想を遥かに超えていた。


「すげぇえええええええええ!」


「マママのマジでパープルラビットをソロで捕らえやがった!」


「それも生け捕りだと!?」


「クエストを受けたのってたしか昨日だろ!? ありえるのか!?」


「ありえん……どうなってんだ……!」


「やべぇよアイツ何者だよ!」


「新米の冒険者でまだFランクって話だぜ」


「俺がFの頃なんざゴブリンを倒すだけで精一杯だったぞ……」


「シロコダイルに続いてパープルラビットまでソロとは……」


「本物……だな……」


「まさに最強のFランクだよ……」


 誰も彼もが俺のことを話している。

 焼けそうな程の熱すぎる視線を俺に飛ばしながら。


(素手でツキノワグマを倒した時よりも凄い扱いだな)


 前世でも何度か注目を浴びたものだ。

 ある時はクロコダイルを乱獲する謎のアジア人として。

 またある時はツキノワグマを素手で倒す超人お爺ちゃんとして。

 しかし、これほどの熱狂ぶりは経験したことがなかった。


「マスター、クランの勧誘しましょうよ、アイツ」


「馬鹿野郎、俺達のクランになんか入ってくれるかよ」


「たしかに……」


 ひっきりなしだったクランの勧誘が止まる。逆に止まる。

 もはや「凄すぎるので声を掛けるだけ無駄」という次元に達していた。

 まだシロコダイルとパープルラビットのクエストしかこなしていないのに。


(クランに入ると何かいいことがあるのかな)


 クランが何かは微かに理解してきている。

 まず間違いなく一緒に活動する組織のことだ。

 それは分かっているが、利点はよく分からなかった。

 ま、大して興味もないしなんだってかまわない。


「パープルラビット、一丁上がり!」


 受付カウンターに到着。

 傷一つない完璧なパープルラビットをカウンターに置く。


「ほ、本当に捕獲されたのですね……凄い……」


 受付嬢がゴクリと唾を飲む。


「無傷の生け捕りだ。これ以上ないだろう」


「た、たた、たしかに。それにしても、どうやって捕まえられたのですか? 傷を負わせずにソロで捕まえるなんて前例がありませんよ。S級ビーストテイマーのあの人でさえ、捕獲したパープルラビットは死んでいたのに……」


「なぁに、罠を張っただけのことさ」


「パープルラビットを罠で!? ありえない!?」


「ありえるからこうして捕まえているのだが」


「だって、パープルラビットはすごい警戒心が強いのですよ。罠なんか設置したらすぐに見破られてしまいます。だから捕獲が難しいんです」


「それは技量の問題だろう。現に俺の罠は看破できなかったようだ」


 この会話が野次馬達をざわつかせる。

 ありえない、凄い、異次元、やばい……そんな単語が飛び交う。


「ほ、報酬の500万ゴールドを口座に振り込ませて頂きました。また、こちらが特別報酬の万能解毒薬となっております」


 受付嬢から菱形の小瓶を渡される。

 中にはワインレッドの液体が入っていた。


「これがパープルラビットの血液で作った解毒薬か」


「はい。1体のパープルラビットから10個しか作れない貴重な解毒薬です。どんな毒でも一瞬で治療できます」


「なるほど、ありがたく頂こう」


 この特別報酬は嬉しい。

 俺のようなソロで活動する人間にとって最も怖いのが毒だから。

 この解毒薬があれば、万が一の時も安心できるだろう。


「それじゃ、またな」


 受付嬢に別れの挨拶をしてから体を翻した。

 俺の後ろに集まっていた人だかりがワサーッと左右に散る。

 そうして出来た俺専用の道を通って、冒険者ギルドを後にした。


「さて、と……」


 冒険者ギルドを出たところで深呼吸。


「ジャック」


「キュイ?」


「お前は先に帰ってろ」


「キュイイイイン!」


 ジャックは従順だ。

 即座に羽ばたき、我が家へ向かって飛んでいく。

 開けっぱなしにしている2階の窓から家に入って休むだろう。


「ここからは大人の時間だ!」


 俺は鼻の下をびよーんと伸ばし、娼館の建ち並ぶ大人の通りに向かった。

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