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019 パープルラビットを捕獲してみた

 翌日。

 昼前になってから、俺は罠の確認に向かった。


 道中でジャックと会話を楽しむ。

 ジャックは「キュイン」鳴くだけだが、それでも会話が成立していた。


「この世界はペットに優しくて助かるな」


「キュイーン!」


 どこの施設でもペットの同伴が認められている。

 衛生面に関する基準が緩いとも言えるが、俺にはありがたかった。

 おかげで、街で行う食事の全てがジャックと一緒だ。


「ゴッブゥ!」


 森の中を進んでいるとゴブリンが現れた。


 ゴブリンが俺とジャックを見て驚いている。

 どうやら相手からしても偶然の出会いだったようだ。


「ゴブッ!」


 ファイティングポーズをとるゴブリン。

 俺がその気ならとっくの昔に戦闘は終了している。

 まだ開始すらしていないのは、その気がないからだ。


「キュイイイイ!」


 ゴブリンのファイティングポーズに呼応するジャック。

 翼を羽ばたかせて浮上し、俺の頭上で威嚇の咆哮を放つ。


「よせ」


 俺は右手を軽く挙げて、ジャックの動きを止めた。

 それからゴブリンに向かって言う。


「俺は無益な殺生を好まない」


「ゴブ?」


 首を傾げるゴブリン。

 魔物に人の言葉が伝わるわけもない。


「失せろ」


「……ゴブッ」


 気持ちが伝わったようだ。

 ゴブリンは臨戦態勢を維持したまま後退していく。

 じわり、じわり、じわり、と後ずさる。


「ゴブォ!」


 で、後ろの木に激突して怯んだ。

 後頭部を強打したみたいでうずくまっている。


「この間抜けめ」


 俺はゴブリンを鼻で笑うと、そのまま横を通り過ぎた。

 それからしばらくして、いよいよ目的地が見えてくる。


「おっ、作動している」


 昨日仕掛けた吊り上げ式の罠が発動している。

 何かしらの獲物が掛かっているはずだが、この位置からは見えない。

 太い木の幹がいやらしく立ち塞がり視界を遮っている。


「来い、来い来い、パープルラビット、来い!」


 駆け足で罠へ向かう。

 視界を遮る木を迂回し、罠を確認した結果――。


「来たぁあああああああああああ!」


 パープルラビットが掛かっていた。

 情けなく吊り上げられ、宙ぶらりんになっている。

 罠結びの輪っかが前肢のすぐ下――人だと腋の辺りで締まっていた。


「クゥゥゥ! クゥゥゥ!」


 パープルラビットが唸るように鳴いている。

 しかし、逃げるような素振りは見られなかった。

 もはやどうにもならない、と諦めたのだろう。


「さて、お持ち帰りするとしようか」


 パープルラビットを罠から切り離す際も注意は怠らない。

 まず、コートの内ポケットから事前に買っておいた紐を取り出す。

 その紐で四肢を縛り上げてから、罠の紐を切った。

 こうすれば、仮に意表を突かれても逃げられずに済む。


「これでよし」


 パープルラビットの首根っこを掴みながら歩きだす。


(これでB級か)


 パープルラビットはかなりの曲者だった。

 なにせハクトウワシであるジャックの攻撃を避けられるのだから。

 それでも、人類の叡智である罠を使えば楽勝だった。

 この程度でB級なら、A級やS級も大差ないかもな。


「それにしてもコイツ……」


 パープルラビットを見ていて思う。


「どんな味なんだろう」


 ひとたび気になると食べたくてたまらない。

 ジュルリと舌を舐めずり、どうしようか頭を抱える。


「食いたい食いたい食いたい……!」


 沸き上がる衝動が半端ない。

 今回は食べて、次に捕獲したのを納品すればいいか。

 そんな都合の良いことばかり考えてしまう。

 だが――。


「いや、駄目だ」


 悩みに悩んだ挙げ句、食べないことにした。

 サバイバリストの衝動を抑えてくれたのは性欲だ。

 食欲を上回る性欲。それが若さというもの。


「早くコイツを納品して娼館に行こう」


 もう迷わない。

 俺は駆け足で冒険者ギルドに向かった。

 サクッと報酬を頂いたら娼館に行って愉しむぜ。

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