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017 パープルラビットを観察してみた

 森に着くとジャックに索敵を開始させた。

 捕まえようにも、まずは居場所を特定せねば始まらない。


 ジャックことハクトウワシの視力は最強だ。

 人間のそれとは比較にならない。

 なんと1キロ先の敵すらも見つけられる。


「キュイッ!」


 そんなジャックがパープルラビットを発見したようだ。

 同じ場所を旋回しながら鳴いている。

 この下にパープルラビットが居るよ、と俺に知らせていた。


「やれ」


 俺は掲げた右手を振り下ろし、攻撃の合図を出す。

 ジャックは直ちに急降下して、数十メートル先の森に消えた。


「これは一瞬で終わってしまうかもな」


 ジャックに限らないが、ワシの降下速度は異様に速い。

 最高速度は時速100キロを優に超えている。

 これぞまさしく目にも止まらぬ速さというものだ。


「キュイッ」


 だが、ジャックは狩りに失敗した。

 鉤爪とクチバシの両方を空にしたまま空へ上がっていく。

 それから申し訳なさそうに俺のもとへ戻ってきた。


「もう少し見渡しの良い場所だったら余裕だったのにな」


 ジャックを慰める。

 その言葉に偽りはなく、本心からそう思っていた。

 木々が邪魔でジャックは本領を発揮しきれていなかったのだ。


「ま、何回かやれば成功するだろう」


 俺は大して気にしていなかった。

 サバイバルにおいて、狩りの失敗など日常茶飯事だからだ。


 失敗の繰り返し――トライアンドエラーの上に成功がある。

 俺の成功率が高いのも、それだけの失敗をしてきたからに他ならない。


「とはいえ、これマジか……」


 予想外にもジャックの狩りは1度も成功しなかった。

 朝から昼にかけて20回近く挑戦したが、結果は全て失敗だ。

 惜しいと呼べるような場面すらなく、まさに完敗だった。


「キュィィィ……」


「そう落ち込むなって」


 パープルラビットの捕獲を中断して昼休憩に入る。

 今日の昼ご飯は魚だ。


「一筋縄ではいかないようだな」


 串焼きにした川魚を頬張る。

 この魚はジャックが捕まえてくれたものだ。

 脂がのっていて美味い。


 ジャックは俺の隣で魚を食べている。

 俺と違って焼いてはおらず、生のままだ。

 心なしか元気がないように思えた。

 パープルラビットの捕獲に失敗したからだろう。


「流石は逃げ足だけでB級まで登り詰めた存在だぜ」


 侮っていなかった、と言えば嘘になる。

 しかし、ジャックの――ワシの力なら大丈夫と思っていた。


「メシを食ったら作業再開だ。ジャック、午後は俺の周囲を旋回して敵の警戒を頼む。パープルラビットを探す必要はない」


「キュイッ!?」


「お前の実力に失望したわけじゃない。相手の評価を改めただけだ」


 焼き魚を尻尾まで食べきると、ジャックを右肩に載せて立ち上がる。


「ここから先は俺の仕事だ」


 ◇


 シロコダイルの時と同様、今回も観察から始めよう。

 ジャックが狩りに失敗した場所を、一つずつ調べていくことにした。


 サバイバルの基本は観察にある。

 事件現場を調べる捜査官のように、徹底的に情報を探っていく。

 すると、何かしらの手がかりが見えてくるものだ。


「あったあった」


 パープルラビットが食事していた形跡を発見。

 主に樹皮や草木の芽を食べているようだ。

 これは一般的な野ウサギと全く同じである。


「すると違いは活動時間くらいかな?」


 野ウサギは主に夜行性だ。

 昼は隠れるようにして休み、夜になると行動を起こす。

 しかし、パープルラビットは昼から元気に動き回っている。

 明らかに昼行性――野ウサギとは決定的に異なっていた。


「これは……!」


 続いて糞を発見した。

 齧り付いた樹皮と同じ木の根っこ付近にある。

 土や雑草でカモフラージュして見えづらくしてあった。


「ただの綺麗好きか、それとも……」


 野ウサギの糞には大きく2種類の分かれている。

 その違いを見分けるには、適当な小枝で糞をつつけばいい。

 硬いウンコはただの糞だが、もしも軟らかいウンコであれば……。


「ビンゴ! 盲腸便だ!」


 隠されていたウンコは軟らかい――つまり盲腸便だ。


 盲腸便とは、ウサギが自分で食う為に排泄した糞のこと。

 この糞は、ウサギにとって貴重な栄養源になっている。

 吸収しきれなかった栄養がぎっしりと詰まっているからだ。


「わざわざ盲腸便を隠しているということは……」


 まず間違いなく、パープルラビットは此処へ戻ってくる。

 そうでなければ貴重な栄養もといウンコを隠す必要はない。


「ここにも――あっ、ここにも――こっちにもあるじゃないか」


 その後もパープルラビットの盲腸便を次々と発見した。

 どれもジャックが見つけた時に居た木の根元に隠してあった。


「把握した」


 パープルラビットの動きは捉えた。

 基本的には、事前に決めた幾つかの場所で食事をしている。

 そして敵を察知したら、そそくさと別のポイントへ逃げるわけだ。


 これまで発見した地点を結ぶと綺麗な円になる。

 おそらく円の中央には、パープルラビットの寝床があるはずだ。


「ジャック、あっちにパープルラビットがいないか調べてくれ」


「キュイン!」


 ジャックが俺の指示した方向へ飛んでいく。

 ほどなくして「発見したぞ」という合図をよこしてきた。


 やはり、敵は同じポイントを転々としているだけに他ならない。

 これでパープルラビットの行動パターンを完全に掴んだ。


 しかし、問題はここからだ。

 今のままでは捕まえることが出来ない。

 ワシの攻撃を軽やかに凌げる相手を人の手で捕まえるのは困難だ。


「動きを先読みして待ち構えるか、それとも夜まで待って寝込みを襲うか」


 どちらの作戦も気乗りしない。

 失敗したら間違いなく行動範囲を変えられるからだ。

 そうなったら、また新たに行動パターンを調べる必要が生じる。


「すると……第3の選択をするしかないな」


 冷静に検討した結果、俺は最善の一手を導き出した。


【お知らせ】

私がノクターンで連載している

『異世界ゆるっとサバイバル生活』の書籍化が決定いたしました。

発売日は2020年の2月以降を予定しております。

詳細は12月16日の活動報告に書いていますので、是非……☆

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