016 パープルラビットの捕獲クエスト
「これ! このクエストにするよ」
そう言って俺が選んだのはパープルラビットの捕獲だ。
討伐ではなく、捕獲である。
生死は不問とのことだから、死んだ状態で捕らえてもかまわない。
パープルラビット――。
クエスト票の説明によると、全身が紫のウサギ型モンスターらしい。
警戒心が強く、敵を察知したら即座に逃げ出す。
あらゆる魔法や毒を無効化する特性を持っており、捕獲は極めて困難。
それ故に、コイツの適性ランクはB級だった。
ちなみに戦闘力は皆無で、人間の幼児ですら簡単に倒せるらしい。
(まず間違いなくあのウサギだな)
俺はパープルラビットに心当たりがあった。
シロコダイルを狩りに行く道中でばったり遭遇したあのウサギだ。
「ノブナガ様、恐れ入りますがこのクエストは……」
「もしかしてランクが低すぎるから受けられない?」
俺のランクはF。
低すぎて受けられないと言われても驚かない。
それなら仕方がないので諦める。
「いえ、そんなことはございません。受けることは出来ます」
どうやら違うようだ。
「だったらどうした?」
「このパープルラビットという魔物は、クエスト票にも書いてあります通り、非常に警戒心が強くて逃げ足が速いのです。常人であれば視界に捉えることすら困難と言われています。こちらが気づく前に逃げるので」
「そうなんだ」
たしかにあのウサギは警戒心が凄まじかった。
全力で気配を殺しても、約20メートルの所でバレたくらいだ。
受付嬢の言葉が誇張でなく事実であることは間違いない。
「それなりの手練れの冒険者でさえ、半径50メートルに入るのは難しいです。シロコダイルをソロで倒されたノブナガ様の実力は相当だと思いますが、今回は相性が悪いかと……。強さだけではどうにもならない魔物ですので」
「でも、B級ってことはクリア出来る奴も居るんだよな?」
受付嬢が「居ます」と頷く。
「ただ、このクエストを攻略出来るのはA級以上の方ばかりです。そういった方々でさえ、パーティーを組んで連携して挑んでいます。ですので、ソロで挑むというのはあまりにも厳しいかと」
「ソロでクリアした奴は居ないの?」
「居るには居ますが、S級のビーストテイマーです。そう言えば誰のことかは分かると思いますが、あの方は特別ですので。それにビーストテイマーですから、他のソロとは勝手が違います」
ビーストテイマーが何か分からない。
それに「あの人」と呼ばれるS級野郎の素性も知らなかった。
もしかしたら女かもしれないけれど、とにかく謎だ。
だからといって、そのことをいちいち聞いていては話が逸れる。
仕方がないので、あの人とやらについては考えないことにした。
「だったら俺があの人に次ぐ2人目のソロ攻略者になろう」
「ほ、本当に受けられるのですか?」
「おうよ」
なんだかんだ言っても所詮はウサギ狩りに他ならない。
前世では世界中に棲息している野ウサギを狩ったものだ。
パープルラビットも軽く仕留めてみせるさ。
「今回の特別報酬は生け捕りにより発生します」
「生け捕り? 死にかけでもいいのか?」
「問題ありません。また、特別ボーナスとは反対に、対象の血液量が少なすぎる場合は報酬額が減りますのでご注意ください」
「血が大事というわけか」
「さようでございます。パープルラビットの血液は、加工することによってあらゆる毒を瞬時に治療する万能解毒薬になりますので」
「なるほどね。お高い解毒薬の原材料ってわけだ」
こうして俺はパープルラビットの捕獲クエストを受注した。
「ノブナガの奴、パープルラビットにソロで挑むつもりだ」
「流石に無茶だろ。あのクエストは戦闘能力の問題じゃない」
聞き耳を立てていた冒険者連中がざわつく。
下馬評では、受付嬢と同じように無謀という声が目立った。
それが余計に俺を燃えさせる。
「明後日までには捕獲してやる。見てろよ」
冒険者ギルドを後にする。
パープルラビット捕獲大作戦の始まりだ。




