015 ワシを調教してみた
「どうした? ほれ、飛べ、大空に帰るんだ、ほれ」
「キューイッ」
プイッとそっぽを向くワシ。
更には肩へ移動してちょこんと休んでいる。
「最初はあれだけ敵意に満ちていたというのに……」
すっかり気に入られてしまったものだ。
「仕方あるまい。一緒に過ごすとしようか」
「キュイイイン!」
嬉しそうに頭上を飛び回っている。
老人ホームで過ごしている頃なら「ワシが儂の上を」とか言っていた。
次第に精神まで若返ってきているので分かるが、つまんねぇギャグだ。
「そうなると名前を決めないとな」
名前がないのは不便だ。
適当に呼びやすい名前を付けてやろう。
相応しい名前を考えること約3秒――。
「決めた。お前の名前はジャックだ」
ハクトウワシの名前がジャックに決まった。
名前の由来は特にない。最初に閃いたワードがそれだった。
「一緒に暮らすからには働いてもらうからな、ジャック」
「キュイイイイイイイイイイン!」
ジャックが誇らしげに鳴いた。
◇
翌日からジャックの調教を開始した。
獲物の索敵や攻撃などを覚えさせ、俺の活動を支援させる狙いだ。
調教の始まりは餌付けから。
目的の行動を取らせたら、お礼に餌をやる。
犬や猫などの動物にも当てはまる基本中の基本だ。
「お前はよく食うなぁ」
「キュイーン!」
ジャックことハクトウワシは肉食動物だ。
主食は魚だが、魚以外の肉も問題なく食べることが出来る。
その食欲は凄まじくて、1日にかかる食費は俺とそう違わない。
「よーし、よく出来たぞ!」
「キュイッ!」
鷹や隼を使った鷹狩りは有名だが、鷲を使った鷲狩りは聞いたことがない。
だから調教は難航するかに思われたけれど、実際にはそんなことなかった。
たった数日で、ジャックは完璧に仕上がったのだ。
これは異様な速度である。
例えば鷹狩りに使う鷹を調教する場合、その期間は数ヶ月に及ぶ。
「ジャック、お前って天才だな」
「キュイッ!」
「いや、それとも俺の教え方が天才的なのか?」
「キュィイイイイイ!」
「どちらにせよ、俺達は素晴らしいコンビだ」
「キュィイイイイイイイイイイイ!」
明日はジャックを連れてクエストを受けよう。
そんなことを考えながら、ジャックと森で魚を食べるのだった。
◇
翌日。
朝ご飯を済ませると冒険者ギルドに行った。
シロコダイルのクエスト以来となる訪問だ。
なんだかすごく久しぶりな気がした。
「あ、あいつは……!」
「知らない顔だが有名人なのか?」
「ゴリウスと殴り合いのタイマンで勝った男だよ」
「ああ。ってことは、あいつがシロコダイルをソロでやったっていう」
「そうそう、たしか名前はノブナガだったかな」
数日ぶりの訪問だが、入るなり俺の噂話が始まった。
しかし、前回に比べると落ち着いている。
「君、ノブナガだよね」
知らない男が話しかけてきた。
歳は俺より一回りほど上といったところ。
生え散らかしたヒゲや整えていない眉が不潔感を演出している。
「そうだけど、クランの勧誘ならお断りだぜ?」
先回りして答えておく。
クランが何か未だに分かっていないが、勧誘ラッシュはごめんだ。
「あちゃー、それは残念」
さして残念そうではない様子。
断られることは織り込み済みだったのだろう。
「ところでさ、その肩のワシはどうしたの?」
「ん、川で拾った」
「そうなんだ、川でねぇ――って、ええええ!? 川!?」
そりゃそういう反応になるよな。
俺も逆の立場なら同じように驚いているだろう。
「まぁね。で、用件はそれだけかい? 俺はクエストを受けたいんだが」
「それだけさ。動物を使役するなんて珍しいから気になったんだ。というか、ワシってそこまで躾けられるんだね。やっぱり君は凄いな」
「ありがとうよ。あんたも独特の話しやすいオーラが凄いと思うぜ」
「ハハッ、よく言われるよ。これも何かの縁だし自己紹介しておこう。俺の名は」
「いや、興味ないから結構だ。またどこかであったらよろしく」
男との話を切り上げ、受付カウンターに向かう。
「ちょ、おおおおい!」
背後から聞こえる男の声。
「今日から君の二つ名は〈鷲使い〉だからな! 鷲使いノブナガ!」
男に背を向けたまま左手を挙げて応じる。
俺の中で、彼は「勝手に二つ名を決める人」と認識された。
有象無象の存在からほんの少しだけ格上げだ。
「ようこそ、ノブナガ様」
さて、受付カウンターまでやってきた。
深々と頭を下げる受付嬢に「どうも」と返す。
「近くの森で受けられるクエストをピックアップしてくれ」
「かしこまりました」
受付嬢にクエスト票をまとめてもらう。
「ゴブリンの討伐……興味ねぇ。シロコダイルの討伐……もうやった」
クエスト票を1枚ずつ確認していく。
どうせならジャックの活躍できそうなクエストを受けたいところ。
しかし、なかなかそう都合の良いクエストは見つからない。
却下、却下、却下と続き、そして――。
「おっ、これは!」
最後の最後で最適なクエストを発見した。




