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011 シロコダイルの皮をなめしてみた

 シロコダイルの皮を鞣すにあたり、まずは物干し竿を作る。

 三本の竹を門の字に組み、適当な蔓で縛って連結させれば完成だ。

 この物干し竿は焚き火を跨ぐように設置した。


 続いて、皮の裏面に手を加える。

 こびり付いている身をナイフで削ぎ落としていく。

 うっかり皮を破ってしまわないように気をつける。


 こうして準備が整ったら、焚き火に松葉を投入する。

 松葉がない場合は稲わらでも問題ないが、今回は松葉を使った。

 それと同じタイミングで、物干し竿にワニの皮を掛ける。


 燃えた松葉が煙を出して皮に付着していく。

 この煙に含まれている成分が皮に防腐効果を付与し、革にする。

 俗に「燻煙なめし」と呼ばれる鞣し方だ。


 しかし、この場においては、これだけだと不十分である。

 燻煙なめしを行うには、それ専用の立派な設備が必要なのだ。


 そこで俺は別の方法も組み合わせる。


「この木でいいな」


 近くにちょうどいい木を発見。

 かなり太い幹をしており、樹齢の高さがよく分かる。

 人によっては「ご神木」などと言いそうな立派な木だ。


 俺はその木にナイフを軽く刺して、縦に切れ込みを入れた。

 そこに手を掛けると、引っ張り、樹皮をめくっていく。

 さながら大根の皮剥きのように、巨木の表皮を剥いた。


 樹木の皮剥きが終わったら、物干し竿からワニの皮を回収する。

 皮はほんのりと燻煙の香りを含んでいた。


「それにしても上質な皮だぜ」


 先ほど剥いた樹皮の上に、ワニの皮を伸ばす。

 シロコダイルの皮は、クロコダイルより遥かに質が良い。

 数多のクロコダイルを狩ってきたからこそ、そのことがよく分かった。


「出来た!」


 ワニの皮と樹皮の四隅に穴を空け、蔓で結ぶ。

 これにてこの場で行う作業は終了だ。


 あとは街に持ち帰り、この皮をお湯に浸して放置すればいい。

 すると樹皮からタンニンという成分が出て、ワニの皮に付く。

 タンニン鞣しと呼ばれる方法だ。


 余談だが、本来のタンニン鞣しはまるで違う工程で行われる。

 今回の方法はタンニン鞣しと燻煙鞣しを組み合わせた俺のオリジナルだ。


(懐かしいなぁ)


 昔はこうやってクロコダイルの皮をよく鞣したものだ。

 ある時は正規ルートで販売し、またある時は裏ルートで捌いた。

 その時の記憶が蘇ってくる。


「革の完成が楽しみだぜ」


 出来上がった革は武器屋のおっさんに寄付する予定だ。

 まず間違いなく喜ばれるだろう。この革なら使い道はいくらでもある。

 あまりにも質が良すぎるから、寄付をやめようか悩むくらいだ。


 俺は上機嫌で街に戻った。


 ◇


 セントクルスに着くとまずは家に戻った。

 冒険者ギルドよりも家の方が近くにあったからだ。

 浴室の浴槽にお湯を張り、そこに皮を放り込む。


「本当にお湯が出る……不思議だな」


 浴室には蛇口が二つある。

 一つは水で、もう一つは熱湯が出る仕組みだ。


 この熱湯だが、日本だとガスか電気が使われるだろう。

 しかしこの世界では、〈魔法石〉なる物で生み出されている。


 魔法石とは、その名の通り魔法の効果を持つ石のことだ。

 街に供給される火や水などのインフラを一手に引き受ける凄い奴らしい。

 実物を見たことがないので、どんな物なのか想像もつかなかった。


 ただ一つ言えるのは、魔法石のおかげでお風呂を楽しめるってこと。

 俺はサバイバル生活をこよなく愛しているが、同じくらいにお風呂が好きだ。

 戦後の復興期には全国の温泉巡りをしたことがある。


 それはさておき……。


「立派な革になってくれよな」


 浴槽に祈りを捧げる。

 数日後には最高の革が出来上がるはずだ。

 そうなっていることを心から信じて家を後にする。


 その足で冒険者ギルドにやってきた。

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