ソロ集団
颯真は獲物を求め、塔を飛び出して、薄暗い森の中をずりずり徘徊していた。
もちろん道なんて便利なものはないが、歩行しているわけではないスライムには関係ない。草むらだろと茂みだろうと倒木だろうとお構い無しで乗り越えてゆく。
どこも似たような景色で、普通ならすぐに迷ってしまいそうではあるが、道中、ついでに足元の有機物を溶解吸収しながら移動しているため、颯真の通った後には見事に道ができていた。
(まさにあれだ。僕の前に道はない、僕の後ろに道はできる、ってね)
誰だったか偉い人が言っていた気がする。
意味合い的には大きな勘違いもいいところだが、気をよくしている颯真には関係ない。
これまでに颯真は、手始めとして野生のリスや野ネズミなどを捕食してみた。
結果から述べると、擬態(変態と言うとアレなので、あえて擬態と言っておこう)は可能だった。
ただし、一工夫必要だった。
最初、颯真は、体長1mもの巨大リスにでもなるのかと思ったが、どうも、自分より体積が小さなものには擬態できないらしい。
分裂を繰り返し、4分裂にして体積がリスと同じくらいになって、ようやく擬態できた。
ちなみに、4分裂したすべての個体でリスに擬態できた。
生き写しのリス4兄弟の完成だ。
ただ、分裂を繰り返すと、意識の統合というか、各個別に分裂した意識が薄れていく感がある。思考能力が希薄になってくるような。
あまり調子に乗って繰り返すと、元に戻る思考すらなくなり、危険な気がする。
分裂数の限界は4として、颯真は納得することにした。
(野球チームやサッカーチームが作れるまで分裂できたら面白いのに)
個人でチーム対戦し、観客もすべて自分。ぼっち祭り。
颯真は実際にその光景を想像してみて――すぐにやめた。そんなに大量の自分なんて、生理的嫌悪感がある。
続く検証としては、だったら自分より大きな生物への擬態は可能かということだろう。
颯真のスライムボディは縦横1mばかりの半球体。
先ほどの大フクロウは、体積としてはほぼ同じくらいだっただろう。それだと擬態が可能なのは実証済み。
では、どうするか。実際に襲って吸収し、試してみるのが手っ取り早いのは、颯真にだって重々わかってはいる。
問題としては、それだけの体躯を持つ生物となると、それなりに凶暴だろうということだ。
なにせ、颯真の最大の問題は、今はスライムだということ。
ゲームでは、冒険に出たばかりの勇者にもあっさり狩られる最弱敵。戦闘のチュートリアル用でしかない魔物だ。
この闇昏き森は、不穏な名前通りに危険な生物しかいない。
小型種ならともかく、中型種以上は生存競争に勝ち残っただけはある兵揃い。
草食動物であっても、大人しく狩られてくれるような柔な生き物などいやしない。
しかも、魔獣や魔物と呼ばれる生物は、魔力を持って生まれた変異体で、高い知識に異常な運動能力、特殊能力を備え、中には魔法(!)を使える個体もいるらしい。
以上、例の謎の知識からの引用でした。
それをいうと、颯真のスライムも立派な魔物に分類されるわけだが、生物のレベルとしては、魔物どころか一般の獣含めて最弱クラスだろう。軽く一撃死も大いにありえる。
有効手としては、狩った獲物に擬態して、それより少し強力な獲物を倒し、さらにそれに擬態して――の繰り返しになるか。自力わらしべ長者を狙うしかない。
(まず、その1頭めをどう仕留めるかが難題なんだけど……)
スライムの身には、悩ましい問題だった。
スライムの独り奮闘がしばらく続きます。