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悩むふたり

 今日は、レリルがそれぞれの代表の言い分を個別に確認したいということで、颯真を伴って町に繰り出していた。

 もっとも、毎日のようにふたりで町に出歩いていたので、今さら感はすごかったが。


 目的地は、町の南北に位置する代表たちの屋敷である。

 事情を聞きたいなら、貴族なんだから別荘に呼び出せばいいんじゃないかと颯真は思うが、彼女にはそういった考えはないらしい。

 融和的と褒めるべきか、非効率と責めるべきか、微妙なところではある。

 ただそれは、個人の主義主張(ポリシー)に関することなので、余人が口を出す問題でもない。

 問題は――


 並行するレリルを、颯真はちらりと窺う。


 今日のレリルは普段と違い、公人として隠密に行動している自覚があるのか、目元を覆う仮面を付けていたりする。

 当然、そんな酔狂な成りで、港町を歩くものなどいない。かなり目立つ。ってか、怪しさ満載だ。


 いつもの白で統一した上下の男装に、腰には刺突剣(レイピア)、遠目にも目立つ長い白金色の髪(プラチナブロンド)を隠しもしないので、目元程度を覆っても、それが誰かはモロわかりだったが、本人は正体を伏せているつもりらしい。


 むしろ、普段が領主家の者だと知られていないと思っていたことに颯真は驚きだった。

 ここ最近の熱心な活動(食べ歩き)により、噂も含めると多分、シービスタの人口の過半数以上には彼女のことが知れ渡っている。


 道すがら、いつも贔屓にしている食べ物関連の店のおっちゃんおばちゃんから、サービスだなにかと食べ物を渡されていた。

 そして、どういうわけか、いつものごとく普通に笑顔で受け取っている。


 少なくとも受け取っちゃダメでしょう。

 身分を隠しているつもりなら、少しは自重しようよ。


 などと、突っ込みたくなる颯真だったが、幸せそうに食べ物を頬張るレリルを見ていると、言う気も失せた。

 まあ、その食べ物を分けてもらって共に歩き食いする颯真には、言える立場にもなかったが。


 そんなこんなで半日を費やし、ふたりは南北の代表者の屋敷を訪問した。


 事前情報通り、代表者たちは兄弟で、しかも双子だった。

 背格好や顔立ちは言うに及ばず、屋敷の立地や建築模様、屋内に据えられた調度品の傾向、立ち振る舞いや考え方に至るまで、ふたりはまったくの似た者同士だった。

 これでいがみ合っているのだから、自己嫌悪といえなくもない。


 そして、今回の祭りに関してのことだったが、お互いの主張も同じだった。

 長々と愚痴を聞かされたが、要約すると「あちらが悪く、こちらは悪くない」「歩み寄ろうとしてもあちらは聞く気もない」「もはや堪忍袋の緒も切れた」と、こんなところだ。

 最も厄介なことは、今回の祭りの敗者が勝者に従うことには合意しているものの、両者共に負けることを微塵も考えていないことだ。


 これはもう、勝敗いかんにかかわらず、揉めそうな気配が今からふつふつと感じられてならない。


 帰り道、さすがのレリルも思い悩み、串焼きを齧りつつ、頭を抱えている。

 いっそ、領主権限で今年の祭りは中止!とでもすると楽なのだろうが、それではただの問題の先送りだ。暴動すら起きかねない。


 厄介ごとに早く解放されたい颯真も、その隣で珍しく頭を悩ませる。


 それにしても、両者の長年積もりに積もったものがあったとはいえ、行動が性急すぎる気はする。

 祭りで白黒つけようと突然言い出したのも、ここ1週間ばかしのことらしい。

 レリルの町への訪問が切欠になったといはいえ、レリルがシービスタに最初にやってきたのは、さらにその数日前だ。


 レリルの話では、シービスタ到着初日、代表者たちの父親である現町長にしらばく滞在することを伝えたところ、その晩には一度、町長と息子の代表者たちが揃って挨拶にきたという。

 そのときに話の流れで、もうすぐ開催される祭りの話題には触れたものの、祭りで決着がどうこうという話は欠片もなかったそうだ。


 となるとこの話は、それからつい数日の間に、ふって湧いて出た話ということになる。


 それほどの決定的ななにかが突発的に起こったか、それとも誰かに煽られたか唆されたか。

 双方が打ち合わせたでもなく同時期に言い出したことを顧みると、後者の線が濃いような気がする。


 ただそうすると意図が見えない。町の者なら長年の因縁に決着を、と考えたと思わないでもないが、負けた際のリスクも考慮するとどうだろうか。

 仮に、第三者がかかわっているとなると、なんらかのメリットがあるのだろうが――颯真には、レリルが苦悩するくらいのことしか思いつかない。それをメリットと考えるのも、いかがなものだが。


 そこらへんの謎を上手いこと紐解き、解決に導けば――両者の致命的な衝突という事態は避けられるかもしれない。


 颯真とレリル、ふたり共にその認識には至っているのだが、そこから先に進めない。

 お互いに考えることが苦手なタイプだけに、お先は結構真っ暗だった。


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