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祭り 1

「祭り?」


「そう、平たく言えばね」


 颯真がラシューレ家の別荘の客間の一室を宛がわれてから、すでに1週間余りが経過している。

 当初は2~3日程度世話になる予定だったが、レリルに付き合ってなにかと日々を過ごしている内、それだけの日数が経ってしまっていた。


 颯真としても、ただいるだけで3食おやつ付きなものだから、あえて別荘を離れるメリットもなく、もともとたいした目的もなかっただけに、ずるずると滞在を引き延ばしていた。

 いわゆるヒモ生活なわけだが、異世界にきたときに人としてのしがらみも捨てた颯真にとっては、さしたる問題とも感じていない。


 颯真がベッドに横になっている隣のソファーには、レリルがだらしなく寝そべっている。

 シービスタの町には特に知人もなく、町の特産やB級グルメもあらかた制覇したレリルは、暇を持て余すと颯真の客室にきては、なにをするわけでもなくソファーを占有してだらけていた。


「へ~、異世界(こっち)にも祭りってあるんだな。なに、出店でも出んの?」


「出店なら南漁港で毎日やってるじゃない。そういったお祭りじゃなくって、どちらかというと神事かな? 元は海の神霊に豊漁と船出の安全を祈願するものだったんだけど」


「その言い方だと、今は違う?」


「今では北と南の対抗戦かな。お互いの代表が競い合い、どちらが優れているかを神霊の前で奉じるような」


「……どこにいった、安全祈願」


 まあ、時代の移り変わりと共にいろいろあって、徐々に変貌していったんだろうが。

 去年が安全祈願で、今年からいきなり対抗戦だったりとは、さすがにないだろう。


「ああ。だからここ数日は、いつにも増してどこも慌しかったんだな」


「殺気立ってたとも言うけどね。北と南の仲の悪さは、正直引くわね。昔、子供の頃、お父様に連れられてきたときにはここまで酷くはなかったと思うんだけど。年々、険悪化してるみたいね。困ったものね」


「どうしてレリルが困るんだ?」


 颯真が真顔で尋ねたので、レリルがソファーから上体を起こして呆れている。


「あのね。私だってこの地を治めるラシューレ子爵家の一員なんだから、ここに滞在している間は、どうしても領主代行ってかたちになっちゃうわけよ。それくらい知っておいてよ」


 忘れていたのはレリルが子爵家という貴族令嬢であったほうだが、颯真は薮蛇なので口にはしなかった。


「もともとのその役目の奴はいなかったのか?」


「まだ北とか南とか明確に区分される以前から、古くから町長を受け継いでいる家系の一族がいてね。お父様はそこの人たちにある程度の権限を与えて、町の運営を任せていたらしいんだけど……そこの兄弟がそれぞれ今の北と南の代表でね。いがみ合っている張本人」


「難儀だなぁ」


「でしょ? ちょっとリジンの屋敷が直るまでの骨休めのつもりだったのに……はぁ、頭痛いわよ」


 レリルはソファーから起き上がると、颯真が寝そべるベッドの端に座る場所を移動してから続けた。


「これはまだ内緒なんだけど」


 とお決まりの前置きをしてから、レリルは説明し始めた。


 近年、発展の一途を辿っていたシービスタだが、町の発展と同義である港の拡張が、地形的なもので限界に達してしまったらしい。

 おかげで昨今は、お互いの支配地域をいかに削り合うかに傾注してきた。

 所属する有力住民の引き抜きや土地の売買の裏工作、風評被害や疑惑捏造などだ。


 一時期はそれらがあまりに酷く、町自体の品位の低下や治安の悪化を招いたため、町の南と北が物理的に隔離されたほどだ。

 それが颯真たちが町で見かけた南北を隔てる壁というわけだ。


 ただし、それ以降も規模は小さくなったももの、いがみ合いや裏工作は横行していた。


 これまでにも、領主であるラシューレ卿には、双方から同じような言い分を綴った文が幾度ともなく送られていたそうだ。



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