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王女様

 察するに、アデリーが第四王女ということは、シェリーはそれ以上の第一ないし第三番目の王女。

 そして王女というからには、この国の王族というわけだ。


 いくらレリルも貴族の一員とはいえ、父が子爵の令嬢と、王家の血族とでは身分が違いすぎる。

 知らずに素の自分で接していたレリルが蒼白になるのも、想像がつくというものだ。


 そんなレリルの気持ちを知ってか知らずか、シェリーは颯真のたてがみを撫でていた。


「またお会いしましたね、そーま。元気にしていましたか? とても素晴らしい馬だと思っていましたが、貴女の馬だったのですね、ミス・ラシュレー」


「え、ええ? でも実は颯真は――って、うわっ、危なっ!」


 レリルがなにか言いかけようとしたので、颯真は即座にレリルの足を踏んで黙らせようとしたが、横っ飛びでかわされた。


 レリルの爪先のあった場所に深々と蹄の跡が刻まれている。颯真にしてみればちょっとしたジェスチャーのつもりだったのだが、今の馬としての重量を考慮してしなかった。


「バカ颯真! あんた、なに考えてるのよ! 私の足を粉砕する気!?」


 レリルが堪らず颯真の馬耳を引っ張ってがなり立てる。


「ひぃん! ぶひひぃんひぃん!」(うっせ! 余計なこと言うな!)


 ネーアのときのこともある。さらっと擬態のことをバラされて、厄介ごとが増えるのもいただけない。誤魔化そうとフォローするのも大変なのだ。

 しかも、今回の相手は国の王族。もし、正体が魔物(スライム)と暴露でもしたら、退治は必至――追っ手が国家規模など考えるだけでもおぞましい。


 普段お気楽な颯真でも、それくらいはわかるというものだ。


「あらあら、仲がよろしいのですね」


 馬と本気で言い争うレリルを見て、シェリーは引くわけでもなく、口元を上品に押さえてくすくすと笑っていた。


 姫殿下の御前だったことを思い出し、途端にレリルも居住まいを正す。


「きょ、恐縮です。シェリー様」


 レリルは16歳で、シェリーは12歳。

 ふたり共に小柄な部類に入るが、年齢にそった成長度合いで、身長差はそれなりにある。


 ただ身分の違いからか、後ろ手に頭を押さえながらぺこぺこするレリルと、それを見上げて微笑ましそうにするシェリーは、さながら不意に廊下で遭遇した新人教師と校長との間柄みたいに見える。


 日頃、お目にかかれないレリルの殊勝な態度に、颯真も思わずにやけてしまう。


 ま、それはそれとして――


 王女に対して不敬かな、とはちょっぴり思いつつも、颯真はシェリーの襟首を咥えて引っ張った。


「あら。なにかしら、そーま?」


「ぶぃん、ひひぃん?」(あれ、いいの?)


 遥か前方を顎でしゃくってみせる。


 颯真たちが来た道――町へと戻る緩やかな下りの傾斜を、なにかを追いかけて元気いっぱいに走り去ってゆく幼女の姿があった。


「え? あら、アデリー?」


 シェリーが横を振り向くと、つい今しがたまで隣にいたはずの彼女の妹が忽然と消えていた。

 咄嗟の判断が追いつかず、シェリーは前方と隣とを何度も見直している。


 その間にも、前方の影は小さくなり、町の向こうへと消えていった。


「あああ、アデリー!? またなのぉ? あなたって子は!」


 さすがのシェリーもわなわなと震えていた。


「慌しくてごめんなさいね、ミス・ラシュレー。これで失礼させていただくわ!」


 シェリーは後ろ髪をリボンで結わえると、言うが早いかスカートの裾を抓まんで駆け出していた。

 なんとも忙しない王族である。



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