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姉妹と令嬢 2

 ついでとばかりに颯真たちはそのまま南漁港の町並みを練り歩いてから、別荘に戻ることにした。


 白馬に跨った領主令嬢――これだけ目立てば、一緒にいたアデリー共々、噂にのぼることは請け合いだ。

 アデリーを捜しているであろう者も、ラシューレ領主家のもとで保護されていると知ると安心だろう。

 そう判断してのことである。


 案の定、別荘に帰り着く寸前というときに、一行を訪ねてきた者がいた。

 颯真としては、二度目の再会となる少女、名前はシェリーだ。


 よほど駆けずり回って捜していたのか、彼女はウェーブがかった金髪を汗で顔に貼り付かせながら息を切らしていた。


「しぇりーだー。わーい」


 捜し人のアデリーはお気楽なもので、馬上でやんややんやと喜んでいた。

 反省の色は見られない。


(こりゃ常習だな、きっと。シェリーも哀れな)


 颯真にとっては本日二度目だが、この感じでは二度で済んでいるとも思えない。


「あ、お姉さんですか? よかった。この子、南で迷子になってたみたいで」


 レリルはアデリーを馬上からひょいと抱き上げ、地面に降ろす。


 その途端、タックルするかのようにアデリーはシェリーに抱きついた。


「まったくこの子ったら……」


 荒れた息を整えつつも、シェリーは小さく吐息を漏らし、慈しむようにアデリーの頭を撫でていた。


「お世話をお掛けしました。ミス・ラシュレー。以前にお会いしたのは王都での侯爵家での晩餐会でしたかしら? お久しぶりですね」


「はえ?」


 突然親しげに声をかけられ、レリルは素っ頓狂な声を上げた後――いきなり顔色を変えて、その場に片膝を付いた。


「これは気づきもせずに、とんだご無礼を! 申し訳ありません、シェリーゼル殿下!」


「やめてください、公式な場でもないのですから。私のことは、この場ではシェリーとお呼びください」


 シェリーは柔らかい表情でレリルの肩に手を添え、立ち上がらせる。


「いえ、そのような……畏れ多いです、姫殿下」


「殿下も止めてくださいね。今回はあくまで私人として、姉妹共々避暑に来ているだけです。こちらこそ、貴家の領地にご厄介になっている身。そのように畏まられても困るわ」


 シェリーはお茶目にウィンクした。


「は、はぁ」


 返事はしつつも、レリルはがちがちに緊張したままだ。


 普段のだらけた様子でもなく、毅然とした貴族の表面(おもてづら)でもなく、慣れたふうに使い分けているレリルにしては珍しい姿だった。


(殿下、ってことは偉いんかな、もしかして。いいところのお嬢ちゃんのような気はしてたけど)


 訊いてみたいところだが、まさかこの場で擬態を解くわけにもいくまい。

 颯真は大人しく、現状を見守ることにした。


「……姉妹?」


 かなり遅れて、レリルがシェリーの台詞の単語に反応する。


「……あの。ということは、こちらは妹君のアデリエール様ですか……? 第四王女の……?」


 おそるおそるといったふうに、レリルはシェリーの腰に巻きつくアデリーを見下ろした。


「貴女は初めてでしたわね。そう、妹のアデリエールです。アデリー、と呼んでやってください」


「あでりーはあでりーだよー!」


 アデリーが元気に両手を挙げる。


(すでにちゃん付けで呼んじゃってましたけど!)


 卒倒しそうになるレリルの心の叫びが聞こえるかのようだった。


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