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怨敵追跡

 食い物の恨みは恐ろしい。

 重ねて、せっかく見つけた秘湯を汚した罪は重い。

 ここはもう、連中には自ら食料になって詫びてもらうしかないだろう。


 かつてないほどに颯真は燃えていた。


 双頭魔狼(ツインズフェンリル)の群れはすでに立ち去った後だが、なにせあの巨体だ。地面の土を跳ね上げ、茂みを蹴散らして通った跡が、しっかりと行き先を告げてくれている。


 山の自然は結構深く、頭上の木々の枝葉で覆い隠され、上空から痕跡を辿るのは難しい。

 颯真はフクロウではなく、狼形態に擬態し、身軽な身体を利用して後を追った。


 ただ、相手と同じような狼姿でも、倍以上とサイズが違いすぎる分、追いつくのが難しそうだ。

 ここらは人が入った形跡がない大自然だけに、道なき道は草木も伸び放題で、いたるところの障害物に不意な高低差と、やたらと立体機動が必要で駆けにくい。


 周囲が木々で覆われているだけに、先ほど猿の1匹でも取り込んでいなかったのが悔やまれる。

 猿形態なら、枝葉を伝って樹上からの追跡も可能だったろうに。


 ない物ねだりをしても仕方なく、颯真は慣れない狼での四足走行を駆使して、山を駆けた。


 30分ほども移動すると、木々が途切れて、山の中腹の原っぱのような場所に出た。

 その中央付近に巨大な岩石が積み重なってできた岩場があり、そこに目的の魔獣の巨体が見える。ここが連中の住処らしい。


 温泉で襲ってきたときには5体ほどはいたはずだが、今は1体しか見えない。


 その1体は、どうやらお食事中のようだった。

 メニューは先ほど颯真から奪ったばかりのアレだ。再び食い物の恨みが再燃する。


(さーて。見つけたはいいけど、どうやって狩ろうか……)


 正直なところ颯真は、追うことに夢中になりすぎて、実際の戦闘方法については完全な考えなし(ノープラン)だった。

 双頭魔狼(ツインズフェンリル)自体、秘境や洞窟の奥深くといった人里離れた場所で棲息しているため、さすがの脳内さんでも情報に乏しい。

 ただし戦闘能力はかなりのもので、危険度としてはあの放電針鼠(スパークラット)よりも上位にランクインしているようだ。


 単純に考えても、3mオーバーの巨体に加え、頭が二つもある分、そこいらの魔獣よりは強そうだ。

 今も、片方の頭で食事しながらも、もう片方は周囲の警戒をしていて、目立った隙がない。見かけはキモいが、頭がふたつあるというのも便利なものだ。


 なんにせよ、1体きりな今がチャンスであることには違いない。


(う~ん。セオリー通り地の利、つーか空の利? 制空権を活かしてみるかな)


 原っぱには邪魔な木々もなく開けている。

 颯真は上空からの奇襲攻撃を敢行してみることにした。


 以前、(マイホーム)に侵入するときに用いた手段だが、実戦で試してみるにはいい機会だった。


 作戦はこうだ。

 まずフクロウ形態で敵の頭上高くまで上昇し、そこでスライムに戻る。

 スカイダイビングしながら落下地点を調整し、そのままスライムボディで覆い被さり、一息に押し包んで即消化。


(名付けて、フライムボディプレス! これだ!)


 まさに、シンプル・イズ・ベスト。

 スライムとフライをかけているのは内緒だ。

 よもや魔獣も、上空から攻撃されるとは思うまい。


 さっそく颯真はフクロウとなって数十mの上空に舞い上がった。

 二度目なので、空中でのボディコントロールにも自信がある。


(では自由落下~。ゴー)


 空中でぽよんとスライムに戻る。

 途端に重力に引かれ、スライムボディが落下を始めた。


 狙いを定める颯真の視界の真下で、双頭魔狼(ツインズフェンリル)の鼻先がひくひく動く。


(おやぁ?)


 その直後、2つの頭が同時に真上に持ち上げられ――落下してくる颯真のスライムボディを捉えていた。


(げ。しまった。狼も鼻がいいんだっけか!?)


 スライムになってから嗅覚を失っていた颯真は、そんな単純なことも失念していた。


 こうなれば、咬み付かれるより先にスライムボディで覆ってしまうしかない――颯真は覚悟を決めた。


 しかし、まだ到達までは距離があるというのに、双頭魔狼(ツインズフェンリル)の双頭が同時に大きく(あぎと)を開く。

 何事かと颯真が注視すると、双頭魔狼(ツインズフェンリル)の赤く濡れた口元に、猿の血以外の紅さが見えた気がした。


 ――双頭魔狼(ツインズフェンリル)の特殊能力、火炎ブレスである。

 双頭から発射された二筋の火炎放射が、颯真の舞う空中を紅く彩った。


(火ぃ――!? 火だけはダメー!)


 颯真は即座に空中で方向転換――風圧で平べったくなった身体を器用に動かして、グライダーの要領で滑空し、原っぱから離れた茂みのほうへ命からがら逃げ出した。


(焦ったー! マジ焦ったー! 火だけは勘弁、冗談じゃない!)


 スライムの本能的なものか、颯真の火への恐怖は異常なほどだ。

 木の天辺に引っ掛かった体勢で、颯真はどうにか一息ついていた。


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