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マザー?

「怯むなっ! 騎士隊は前へ! 魔術士は攻性魔術にて遠隔射撃! 奴を塔から引っ剥がせ!」


「「「応っ!」」」


 指揮官の号令に、凸陣形を組んだ騎士隊が一斉に突っ込む。

 騎士が剣や槍での近接攻撃を加えると、反撃を受ける前に即時離脱し、今度は入れ替わりに魔術士による数多の魔術が叩き込まれる。


 塔の前の広場を、土煙と怒号が支配し、魔術の光が照らし出す。


 巨大スライムは、武器での攻撃に身を削られ、魔術の炎に焼かれているが、形勢不利なのは人間側だろう。

 削り落とされた身体は個別のスライムと化して襲い掛かり、焼かれた部分は驚異的な速度で再生している。


 さながら大怪獣vs防衛隊の様相だ。


(すげーな、おい。こんなもんまで居ようとは)


 さすがは魔境と悪名高き闇昏き森(デ・レシーナ)である。


 颯真は塔の屋上から、呆気に取られて、初めて目にするその本格的な戦闘風景を眺めていた。


 騎士の錬度は高く、宮廷魔術師の魔術は強力無比だ。ただし、相手が悪すぎる。

 ただでも20mを超える巨体に加え、スライムの身体は斬撃や刺突に耐性あり、外部からの物理攻撃には滅法強い。強力な魔術も、体表が緩衝材となり、内部にまで有効打を与えられていない。


 同じスライムである颯真自身、実感しているが、スライムボディは予想以上に防御力が高いのだ。

 炎や熱などの攻撃には弱いが、それもあの巨体の前では、よほどの高出力でないと弱点足り得ない。


(誰だ、スライム最弱だなんて言ったのは)


 それは当初の颯真もであったのだが、気にしない。


 巨大スライムは直接的な攻撃力こそ有していないようだが、あの質量では身体自体が武器のようなものだ。しかも、いったん呑み込まれては消化されてしまう。

 さらには、切り刻まれたり魔術により弾け飛んだ身体の一部は分裂した別個体となるわけだから、攻撃するほど敵の数が倍加していく。当然、そちらも対処する必要があり、人間側も戦いにくそうだ。

 唯一の救いはでかすぎて動きが鈍重なため、逃げようと思えば簡単に逃げられることくらいだろうが、今回は調査対象の塔を守るという防衛戦だけに、それも活かせないとくる。


 ただし、スライムの再生能力にも限界はあるはずだ。スライムがこのまま押し切るのか、それとも人間が引っ繰り返すか。

 現スライム元人間の颯真としては、どちらを応援するか悩みどころではある。


 それにしても――と颯真は思う。

 巨大スライムから分裂する小スライムだが、すごい既視感がある。

 なんというか、ごく最近、ごく身近で。はて。


 しばらく悩んだ末、不意に颯真は閃いた。


(あ。そうか。あれって俺か?)


 攻撃を受けるたびに弾けては増え、再び合体を繰り返すスライムは、颯真の現在の容姿(スライムボディ)と酷似している。


 スライムに雌雄はない。ならば当然生殖行動もなく、増殖分裂によってのみ数を増やす。


 となると、颯真のボディもかつて分裂した分身体の1つであり、分裂する前の元となる個体がいたはずで。


(もしや、あんたが生みの親(マザー)なのか!?)


 まさに魔物の親(モンスターペアレント)

 ファザーでもいいんだけど、とりあえず語感的にマザーで。


 マザーは、身に浴びせられる剣も魔術も意に介せず、ひたすら塔によじ登ろうとしている。

 一見、無意味な行動にも思えるが、塔の頂上から見下ろしている颯真には、ふと気づいたことがあった。


 マザーが目指している先が、塔自体というよりも塔の天辺――もっと正確には、颯真自身のような気がしてならない。


(……もしかして、さっき罠に嵌まっていた(分身体)の危機を察知し、森の奥から助けにきたとか)


 単なる思い付きにしろ、考えられないこともない。

 颯真も自身で分裂して試してみたことだが、分裂しても個々に意識はある。仮に颯真が眼下のマザーの分裂した元一部であったとして、分身体(自分)のピンチに他の分身体(自分)が助けにきても、なんら不思議はないということ。


 それはいい。助けてくれるのなら、願ったり叶ったりだ。現に、マザーのおかげで魔術罠からは脱出できたのだから。

 ただ気がかりな点は、その助けようとする方法だ。


 魔方陣が壊れたのは偶然で、さすがにマザーもそこまで予期するだけの知能はないだろう。

 では、その方法は――となると、単純思考で、最も安全な自分の保護下に戻そうとするのではあるまいか。

 つまりこの場合は、合体吸収するという――


(あれ? それって、まずくねぇ?)


 あの巨大なスライムに吸収され、意識が統合されでもしたら、ちっぽけな1スライムの颯真の自我など薄まって消えかねない。

 自我の喪失、すなわち”死”である。


 悶々とする颯真は、ついつい現状把握を怠っていた。

 軟体化したマザーが、蛇がとぐろを巻くように螺旋を描いて塔頂に至り、颯真の背後まで迫っていたのを。


 突然、日差しが遮られて暗くなる。


(……おや?)


 意識を頭上に向けた颯真が見たものは、投網のように振ってくる、一面の赤いゲル状の物体だった。


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