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宮廷魔術師 1

「あー、食った食った。とりあえずは落ち着いた」


 量的には5人分余りをぺろりと平らげ、颯真は独りごちた。


(ただ、やっぱり人間形態でも味は感じられないのなー)


 食べること自体に充足感はある。しかし、もともと味という概念がないスライムならまだしも、味覚を識っている颯真には物足りない。


 今後の課題だな、と颯真は心に誓っていた。


「じゃあ、そろそろ謝礼をよろしく」


 応接ソファーに持たれかけ、颯真はレリルに手を差し出した。


「これだけ好き放題に飲み食いしておいて、さらに謝礼を要求する豪胆さにも呆れるわね。まあ約束だからいいけど」


 レリルが侍女を呼ぼうとドアに歩み寄ろうとした直前に、応接室のドアがノックされた。


「お嬢さま、よろしいでしょうか」


「はーい。なにかな?」


 ドアが開き、メイド服姿の侍女が入室してくる。

 メイドはいったん客人である颯真に会釈してから、レリルに向き直った。


「宮廷魔術師団の方々がご挨拶にうかがわれております。いかがいたしましょう?」


「う~ん、そっか。だったら貴賓室のほうにお通ししておいて。すぐに行くから」


「――その必要はございません。失礼いたします」


 レリルの言葉尻に被るように男の声がして、ドア前のメイドを押し退けて、一組の男女が入室してきた。


 全身を覆う純白の外套(ローブ)の胸元には、天秤を模した紋章の金刺繍。

 そのローブこそ、国内選りすぐりの術士である宮廷魔術師の証であることは、颯真も脳内さん情報から理解していた。


 先頭の宮廷魔術師は男性で、こちらのほうが上役なのだろう、背後の女性宮廷魔術師は畏まって控えている。


 男性のほうは、頭でっかちに思われがちな宮廷魔術師にしては大柄で、体型からもローブに隠された体躯は鍛え上げられており、威圧感がある。

 年の頃は40手前といったところの壮年で、厳つい容貌の上、眼光も鋭い。

 宮廷魔術師といえば、貴族に匹敵するほどの名声と権力がある。そもそも、貴族は生来魔力が高い傾向があるため、貴族から宮廷魔術師になることも多い。

 この男性にもどこか気品があり、身なりも正しい。几帳面な性格なのは、一糸乱れず整えられた髪型からも見て取れる。

 ただ、この男性にしてみれば、気品というより気位が高いといったふうだったが。

 そのため、町で会った3バカが文字通りチンピラなら、こちらは893の若頭といったところか。


 その背後の女性の宮廷魔術師といえば――颯真にしてみると、こちらのほうが脅威だった。

 金髪緑眼で、童顔ということを抜きにしても、レリルと同い年の16際くらいだろう。繊細な金糸の長髪を、一房の三つ編みにして、肩口越しに手前に下げている。純白のローブと金髪が相まって、ひじょうに美しく趣がある。

 あどけない顔立ちに気弱そうな表情を浮かべているのは、上司らしき男性と一緒だからだろうか。

 だが、それらいっさい含めて、驚愕の事実の前にはどうでもいいことだった。

 少女のローブ姿――その胸元が、異様なほどに内から押し上げられ、ローブのシルエットも歪になっている。少女の顔の輪郭からも、太っているふうではない。


 ということは、その下には、もしや同族(スライム)が2体も潜んでいるということか――


 少女の胸元を凝視しながら、思わず握り拳でソファーから立ち上がった颯真。

 その後頭部が、レリルの手にしたスリッパで、小気味いい音を響かせて(はた)かれたのだった。


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