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町に着いてはみたものの

 闇昏き森(デ・レシーナ)を越えてしばらく進んだ先に、その町はあった。


 颯真の脳内さん情報によると、町の名前はリジン。

 国境近くの辺境にある町で、人口は1000人ほど。元々は隣国との道中における宿村として作られたのが発端らしい。


 颯真はフクロウ形態で町を上空から眺めてみた。

 いかにも中世ファンタジーといったレンガと石造りの建物が並び、石畳の道が続いている。

 町の周囲は壁で覆われ、壁の内側は多くの人々でごった返していた。

 辺境という割には、商業が盛んなようで、商店が軒先まで商品を陳列し、路肩でも行商人が敷物の上に商品をこれでもかと広げて商いを行なっている。

 大勢の商人に、それ以上の買い物客、町は大いに賑わいの様相を見せていた。


 颯真はこっそりと目立たない路地裏の物陰に舞い降りた。

 路地に転がっていた樽に着地してから――颯真は向かいの窓ガラスに映る自分の姿を見て、ふと気づいた。


(あー……もしかしなくても、これ悪目立ちするか?)


 今の颯真は大フクロウだ。

 森の中では自然でも、町中では目立ちすぎる気がする。

 かといって、スライム姿はもっとダメだろう。所詮は魔物。大騒ぎになるに違いない。

 他の獣姿も論外だ。下手に驚かせて、害獣として追い立てられでもしたら堪らない。


(ってか、町に来る前に気づこうよ、俺……)


 どうも颯真自身、異世界の人里ということで浮かれていたらしい。

 

 颯真はスライム形態に戻り、ダメ元でスライムの流体形を駆使して、見た目だけでも人型に近づけてみた。

 粘土を弄る感覚だが、必死こいてやってみた結果――完成したのは、ただのぬめっとしたム○クの叫びっぽい物体だった。窓ガラスに反射している、赤く透けて揺れている奇妙な人型が、なんともホラー風味。


(いっそ、そこいらの道行く人を吸収してみるか……?)


 颯真はそんなことも思ったが、今はスライムとはいえ、ただそれだけのことで人間を殺めるのには抵抗がある。

 それに、町の人間への擬態は、身体の知り合いにでも会った日には、正体を見破られてしまう恐れもある。

 町の人間を殺めた魔物なんて、許されはしないだろう。


(ああくそ。この間まで人間だったんだから、どうにかなれないものかな……)


 颯真が窓の前で項垂れながらうんうん唸っていると、その窓が突然開いた。


 両開きの窓から顔を覗かせたのは、幼い顔立ちの少女だった。

 ばっちりと目が合う。

 少女はきょとんとした顔をしている。


(し、しまった~! 見つかった!)


 窓ガラスに映る姿ばかりを気にしていたため、窓の向こうのことをすっかり失念していた。


 窓があるということは、部屋があるということ。だったら、部屋の主もいるわけで。

 自分のところの窓の前に挙動不審な影があれば、そりゃあ確認してみるよね!


 フクロウだったらまだマシだったかもしれないが、今はぷるんぷるんの赤い半透明の不思議物体(スライム状態)

 どんな年端もいかない子供でも、いや子供だからか、こんなものを目の前にしたら泣き叫ぶこと必至だろう。


 焦りすぎた颯真は咄嗟に逃げるという選択肢が浮かばず、その場に棒立ちになってしまった。



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