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最弱とみせかけて最強なスケルトン師匠(元人間)の勇者パーティー教育

作者: HAKI

骸骨や筋肉の図が好きだー!

・・・からのスケルトン話です。

 

挿絵(By みてみん)




「あ~あ。やっちまったなぁ」


 ラスボス魔王のいる魔王城の序盤の序盤。

 広くも狭くもない中途半端な玄関広間。

 俺は目の前の光景を見て、カタカタと顎の骨を鳴らして呟いた。



 目の前には――――

 勇者パーティーが全滅した光景。





 俺は魔物《スケルトン》の姿をしている。

 ………が、元人間である。


 元は魔王城近くの村に住む薬種屋の息子だった。

 ある日、新たな魔法薬の開発実験中にうっかり調合を失敗して死んでしまったらしい。

 あの薬は時間内に使用すれば《死者蘇生》できる超回復チート神薬だった。

 禁忌の神薬を死ぬ前に完成させたかったなぁ。

 あれ使ったら死ななかったかも………いや、そもそも作んなきゃ死ななかったか。


 まぁ、そんな訳で何故か魔物であるスケルトンになった。

 しかも生前の魔力を引き継げたので、ただのスケルトンにしては遥かに強いチート並みの魔力を保持して。

 見かけは最弱のスケルトンなのにな。本当にスケルトンなのかも謎だ。


 そう………俺はどこぞの主人公のように王族や英雄、勇者、ましてや魔王とかでもなく、ただのスケルトンに生まれ変わった。

 いや、生まれ変わったのか、死んで骨だけの魔物になったのかは謎だが、少なくとも意思を持って動けた。

 動く度にカタカタ骨が鳴って五月蝿いがな!


 見かけ最弱スケルトンな俺は、この姿になってから村にいることもできず、村の近くの魔王の森をさ迷い逃げた。

 今の上司にスカウトされてからは魔王城で雇われている。

 もし魔物の姿のまま村の外れにある家にいたら、実家をでて独り暮らししているとは言え、よく遊びにくる幼馴染み辺りに瞬殺されるに違いないからな。

 俺や幼馴染み含む村人は魔王城近くの村に住むだけあって魔王軍が襲ってきても軽く追い返せるくらい強いから見付かったらヤバい。きっと問答無用で消される。


 因みに、俺の持ち場は魔王城の序盤の序盤。

 城の扉から入って直ぐの玄関広間だ。

 魔族の上司は俺が普通のスケルトンより遥かに強い魔力持ちだと知らないから妥当な配置だろう。




 まぁ、そんな事よりも、

 俺の目の前にはボロボロで倒れている勇者パーティーがいる。


 スケルトンにあるまじきチート魔法で倒したのは、何だか無性に勘にさわったイケメン勇者。

 それ以外のメンバーは腹パン、エルボー、膝かっくん&デコピン、首チョップでのした。


 ………あれ?勇者以外には魔法を使わなかったからわりと軽傷だよな。何でこんなにボロボロなんだ?


「うーむ。ここって、フロアボスすらいない腕試しの広間なんだけどなぁ。これじゃあ、俺がラスボスみたいじゃないか」


 コキリと骨を鳴らして首を傾げるしかない。

 勇者にはチート魔法使ったけど、他の奴等は肉弾戦ならぬ骨弾戦しかしていないのだ。

 しかも、今の俺には筋肉がないから、生前よりも遥かにスピードがノロい。

 それにスケルトンは不死者(アンデット)とは言え、急所である核を壊されたら普通に消滅するだろう。恐くて試せないけど。

 今の俺は、はっきり言って人間だった頃より弱い。

 だからこそ村から逃げたのになぁ……


 何度も言うが、俺が担当配置されたここは魔王城の序盤も序盤に位置するスタート地点の玄関広間であり、まだまだこの先にフロアボスや魔族幹部たち、さらには宰相閣下や魔王陛下がいる部屋があるのだ。

 いくら俺がチート魔力持ちでも簡単に倒され過ぎだ。


「魔王城に挑むにしては、勇者パーティー弱くね?まさか、魔王城の周りの魔物ですら苦戦したからボロボロなのか?」


 どうしたもんかと頭蓋骨剥き出しの頭をコリコリとかいて考える。

 びっくりするぐらい弱くても勇者が魔王を倒さないと世界は平和にならない。

 まさか、城のスタート地点にいるスケルトン一体に全滅したとなれば世界は大混乱に陥るだろう。世紀の冗談かってくらい笑えるけど笑い事じゃない。

 このままでは国民から勇者への期待値0どころかマイナスだ。

 それを瞬殺でとか、やらかした感が半端ない。


「う~む。とりあえず……なしだ!回復させてどっかに捨ててこよう!」


 俺は考えることを放棄した。

 無かったことにすれば良いのだ。


 今は魔物とはいえ一応元人間。しかも考え方や心は人間の頃と変わらない。正直上司とか魔王に仲間意識はないし、世界が平和になってくれるならその方が良い。

 魔王城近くの俺が住んでいた村のみんなも強いとは言え、魔王がいない方が良いだろうし……元気かなぁ。


 別に魔王や幹部たちは俺みたいな末端が何してようが気にしない。

 ささっと無かったことにすれば気づかれないはず!

 例え突然俺が消えても「殺られたか」ぐらいにしか思わないだろうし、勇者を逃がした事がバレたらバックレればいいし。


「うん。適当にいけるだろ」


 善は急げだと証拠隠滅―――ではなく、勇者パーティーの治療に取りかかる。


 一番重傷を負った勇者から回復魔法《ヒール》をかけていく。

 魔物でしかも不死者であるスケルトンが何故ヒールを使えるかって?俺も知らん!人間だった頃から使えていたからかな?

 魔法薬使っても良いけど、軽傷なら薬作る方が手間かかるからな。ぶっちゃけ勿体ない。


 この無駄に暑苦しいイケメン勇者は、主人公のテンプレなのか「スケルトン(きみ)には勿体ないが光栄に思うといい!くらえ、我が聖剣!」とかイタいこと叫んでピカピカ光る剣を振ってきたので、俺のスケルトンらしからぬ上級単体魔法でのしてやった。

 喋り方にいらっとしたから瞬殺で。

 過剰防衛?聖剣使う勇者相手だから仕方ないよね。


 勇者の以外は軽傷なので念のため程度にサラッと観察。


 適当に聖女から見る。

 戦闘前から勇者にベッタリ張り付いていて、可愛い子ぶりっこな感じがビッチっぽい気がしたから容赦なく腹パンした。聖職者がビッチって大丈夫かよ。

 パッと見は清楚系な美少女聖女様が「ぐぅほっ!?」とか言っちゃったけど俺は男女差別はしません。男尊女卑は良くない。

 ……俺の姿を見て鼻で笑ったからじゃないよ?


 その次は剣士。

 スカしたナルシスト感を出していて、やたら目立つオーラが勇者より出ていた。勇者が主役じゃないのかよってくらい。

 剣士は俺の嫌いなタイプだ。

 さらさらの髪を指先で弄る姿に何かむしゃくしゃしたのでエルボーで倒した。

 俺には髪の毛どころか皮膚すらないんだぞ!

 ちゃんと「エルボーー!」て叫びながら決めてあげた。

 予告してあげた俺って親切ー。


 更にはタンクだ。

 勇者パーティーの盾職として、前に出て自信満々そうだったから真っ先に後ろに回って膝かっくんからのデコピンで先制攻撃してみた。

 タンクは大柄の筋肉達磨だったから、屈んでもらわないとデコピン届かないしね。

 けっして俺の背が低い訳ではない!

 しかし、重量系とはいえスケルトンのスピードを追えないってヤバくないか……


 最後に魔法使い。

 真っ先にタンクがやられて混乱する勇者パーティーの中で、唯一俺のことをじっと見据えていた。

 しかも、さりげなく詠唱・魔方陣発動させて何かやろうとしてたし、一番隙がなかった。

 この魔法使いは油断ならないと判断し、タンクを倒した勢いのまま全力で背後に移動して首チョップで気絶させた。

 詠唱中は無防備だから対策していない方が悪い。「殺られる前に殺れ」これ俺の教訓。


「勇者以外は大して外傷ないしまとめて《エリア・ヒール》かけるだけで良いかなっと……へ?」


 エリア・ヒールをかける為、一番離れた場所で俯せになっている魔法使いを引き摺ろうとして見たら、


「……マジか!?めっちゃ好みだわ」


 魔法使いは俺好みの気の強そうな美少女だった。

 何だか懐かしいような、ずっと側にいたくなるような魅力がある。

 スケルトンになってから心臓なんて無いはずなのにどこかで鼓動が鳴っている気がする。耳もないけどな。


「あー、魔法使いだけ返すの止めようかな―――でも、勝手にそんなことしてバレたら上司に怒られるかもなぁ。それにスケルトンに拐われるとかどんなホラーだよ。目覚めたら目の前に骸骨とか………」


 いかん。受け入れてもらえる気がしない。


 俺の地位は玄関広間担当の最弱スケルトン。

 うっかり勇者パーティーの魔法使いを囲ってるのが見つかり、魔王や幹部の方々に何か言われたら逆らえなさそうだ。

 誤魔化す為に捕虜として魔法使いをいたぶってるフリとかしたくないしな。

 最悪バトっても俺ならチート魔法+不死者の身体で幹部に余裕で勝てるけどね。魔王とは良い勝負になるだろうけど、聖剣ないと倒せないし良くてドローか………リスクが高すぎるな。


 そもそも、この魔法使いの性格もわかんないしな。

 これで性格ドブスだったら捕まえ損だ。

 ハイリスク&ノーリターンはわりに合わない。


「せめて、人間だった時に会いたかったな……」


 俺は魔法で勇者パーティーを城の外へ運び門を閉めた。

 勿論、周りに魔物が出て襲われないように魔法で障壁も張ってあげた。

 直ぐに目覚めるだろうから、近くの村に帰って反省でもしてくれ。




 一週間後。


「ぜ、前回は油断したが、今日はそうもいかないぞ!」


 どうやらスケルトン一体に瞬殺されたのが余程恥ずかしかったらしい。

 入ってくるなり顔を真っ赤に怒らせた勇者が俺を指差してきた。人を指差しちゃいけませんって、お母さんに習わなかったのかな。


「ケタケタ!性懲りもなく来たな、勇者ども。魔王城の序盤も序盤、腕試しの玄関広間へようこそ。先ずは最弱魔物のスケルトンである俺が相手になろう!」


 俺は上からのお達しで決まり文句を言う。恥ずかしい台詞だ。

 でも、低すぎる身分の俺がチート魔法を使うから、最弱なのは見た目だけの詐欺だよなぁとか思う。

 因みに、声帯がないのに喋る事には誰も突っ込まない。

 聞かれても俺も知らんからな!


「あっ、ああ。さ、最弱に負けたとか。―――くっ、覚悟しろ、スケルトン!」


 悔しそうな勇者。

 掛け声とともに勇者パーティーが再度勝負を挑んで来た。


 今度はバラけずまとまって俺の方へ攻めてくる。

 前回は調子に乗ったタンクが前に出て隙だらけだったからな。魔法使いが後方に取り残されてたし。

 経験から学ぶ事は大事だ。

 まぁ、まさかスケルトンに負けるとは思わないから仕方ないか。


 俺は戦闘中、勇者達の攻撃を交わしたり反撃しながら、魔法使いをチラ見していた。

 タンクのでかい身体が邪魔で魔法使いがよく見えないから横にぶっ飛ばし、一番素早い剣士の頭を踏みつけジャンプして距離を取る。

 前回の戦闘の様子から魔法使いが一番油断できないし、可愛いから高確率で彼女の方を見してしまう。目玉無いけどね!


「おい!よそ見せずに俺を見ろ、スケルトン!」


 勇者は俺がよそ見して適当にあしらっていると思ったようだ。事実だけど目玉無いのによく気付いたな。

 と言うか「俺を見ろ」って、恥ずかしい奴。無駄にイケメンなお前を見てもいらっとするだけだ。

 俺が本気出したら瞬殺なのにどうしろと言うんだ。ドMなのか?

 一応勇者パーティーはこの一週間で多少なりとも強くなっていたが、まだまだ幹部や魔王に勝てないレベルだ。当然俺にも勝てない。


「くらえ!」


 勇者がピカピカ光る聖剣をぶん回してくるのをチョロチョロ避けてヘイトを溜めてみる。

 短気な勇者様は大変お怒りで顔が真っ赤だ。どんどん動きが単調で雑になっているので、冷静な方がまだ強いかもしれない。


「くっ、真面目に戦え!」


「あ~、うん。すまん」


 ちょっと悪いと思ったので、本来スケルトンでは使えないレベルの闇属性最上級魔法《闇の終焉(ダーク・エンド)》を無詠唱で発動してあげた。

 これくらい回避できないと魔王戦では使い物にならない。


 結果―――――

 勇者パーティーは全滅した。


「………うん。どんまい!」


 一応死んでないか確認。

 聖女と魔法使いが咄嗟に魔法障壁を張ったのだろう。

 今回勇者パーティーはバラけず纏まっていたから、俺がぶっ飛ばしたタンクもギリギリ障壁内に入っていたらしい。全員外傷は少なく気を失っているだけだった。

 少し安心した俺はすぐにエリア・ヒールをかける。


「ふむ。前回よりは善戦かな」


 また上司にバレる前に魔法で運んで門の外へ捨てておく。

 次はもう少し強くなってから来て欲しいものだ。


「はぁ、世界の平和はいつになるやら………」


 呼吸してないのにため息を吐いてカタカタと顎を鳴らし呟く。


 俺は考えた。

 流石に二回目の勇者パーティーとの戦闘で考えざる得なかったともいう。

 このまま放っといて勇者パーティーは魔王を倒せるレベルまで強くなれるのだろうか、と。

 俺がただのスケルトン………魔王より強かったとしても、こんなにあっさり負ける今の勇者パーティーでは、先に進めてあげてもすぐに死んでしまうだろう。

 そうなれば、聖剣で魔王を倒す者がいなくなり世界が混沌に包まれてしまう。


「不味い。どう考えても不味いよな」


 そこで閃いた!


「俺が勇者パーティーをさりげなく教育すればいいんじゃないか!」




 それから一ヶ月。


 勇者パーティーが攻めてきては俺が返り討ちにする繰り返し。

 その都度、さりげなく個々やパーティーのアドバイスをし、わかりやすく弱点を口で指摘しながら実際に攻撃。挑発しながらスキルアップの動作等を引き出す。

 俺は敵だから、超スパルタ指導をしても勇者パーティーは本気で応戦してくれる。良い関係だ。


 こうして勇者パーティー全員が、俺との戦闘を通してみるみるうちに強くなった。


 今は幹部ぐらいならば余裕で倒せるレベル。

 魔王に挑むには少しだけ厳しいかな。幹部戦にたどり着くまででもっとレベルは上がるから、その頃には魔王も倒せるレベルになるだろう。


 しかも最近上司に聞いたところによると、魔王や幹部達が勇者パーティーが魔王城に攻めてこないのを不思議がり始めてしまったらしい。

 勇者パーティーが近くの村に出入りしているのは、外で暴れる魔族の情報収集により把握していたみたいだからな。

 だるだる適当と見せかけてやるな。


 勇者パーティーは攻めてこない訳ではない。

 ただ、玄関広間から先に進めずにいるだけです!


 そろそろ魔王や幹部達に、俺が足止めしつつ教育しているのがバレるのも時間の問題だろう。

 面倒な事になりそうだ。


 一ヶ月前より勇者パーティーは強い。

 そろそろ先に進めてあげたい。

 きっと、俺を倒すより聖剣で魔王を倒す方が簡単だろう。


「でもな、もう一歩足りないんだよ。最近俺に馴れたのか緊張感とかがな……うーん。後少しだけ強くなったら先に進めてもいいかなぁ」


 無謀に挑ませてうっかり死なれては困る。

 聖剣の使い手を失ったら誰も魔王を倒せない。聖剣じゃないと死なないからな。

 世界が平和にならないし、俺の可愛い魔法使いに何かあったら困る。うん、私情だな。


「やはり、次で最後にするか……はぁ、魔法使い可愛かったなぁ。けど、もう会えないのか。一ヶ月見てた感じ性格も良さそうなんだよな。やっぱり拐っとけば……いかんいかん!全力で拒否される未来しか浮かばんぞ……」


 俺は玄関広間脇にある自室でカラカラ転がりながら考えていた。

 体の骨組みを崩しては組み直し考えに没頭する。知恵の輪とかみたいでちょっと楽しい。

 次、勇者パーティーとの戦闘のデキが良ければ、ここ通してあげよう。いや、駄目でも仕上げるしかない!

 国民からの期待もあるだろうから、勇者パーティーに残された時間は有限だ。


「……うん。こんなもんかな」


 俺は決意した。





 数時間後。


「今日こそ倒してみせるぞ、スケルトン師匠!」


 決意したら早々に勇者パーティーがやって来た。

 そして、何故か師匠にランクアップされていた。

 一ヶ月間さりげなく戦闘教育を行っていたのがわかったのだろうか。敵に馴れ馴れしいな。


「クロス様、本人の前で呼んでは駄目ですよ!?一応敵なんですから!私達が裏で貧相なスケルトンを師匠なんて呼んでるのを誰かに聞かれたら不味いですし……」


「あっ、ごめん。セイラ、つい……」


 慌てたように聖女が遮るが、勇者の声が大きすぎてばっちり聞こえていた。お前も裏で呼んでるんか!?

 勇者はクロス、聖女はセイラという名前らしい。

 今までクロス以外は掛け声か俺に悪態つくぐらいしか喋ってくれなかったからな。


 しかし一応って……俺の姿はスケルトンだし、普通に魔物なんだけどな。

 まぁ、俺みたいに元人間で親切に教育してやる魔物なんぞはそうそういないだろう。

 後、貧相言うなや!ビッチ聖女。

 決めた。今日は最後だしセイラを集中的にしごいてやる。


 スカしたナルシスト剣士は前髪を弄りながら剣を抜き、こちらに剣先を向ける。

 敵の前で前髪気にするなら切っちまえ。刈るぞ!

 筋肉達磨みたいなタンクは、構えた盾の陰で携帯飯食ってた。

 おいっ、俺が殺さないからって、油断しすぎだろ!?見えてんぞ!!


 ………今日で最後にできるか?……いや、するんだ!!


「みんな、ふざけてる場合じゃないから!スケルトンさんが私達を殺さず成長させてくれているからって油断したら駄目!もう一ヶ月経ってしまったのに……いつまでも玄関広間から進めないなんて、国民や陛下に知れたら大変だよ」


 俺の可愛い魔法使いが怒っていた。

 けしからん!全くもって彼女の言う通りだ。

 スケルトンさんって呼び方可愛いなぁ……じゃなくて、アイツら負け越してるのにふざけすぎだろ。

 これでは先に進めてあげる計画が頓挫してしまう。させねぇぞ!


 話を進める為に、ここ一ヶ月ずっと言ってる台詞を言い放つ。


「ケタケタ!性懲りもなく来たな、勇者ども。魔王城の序盤も序盤、腕試しの玄関広間へようこそ。先ずは最弱魔物のスケルトンである俺が相手になろう!」


 ……うん。

 先ずはとか言って一ヶ月。普通に言うのが恥ずかしい。

 言わなくて済むように誰か台詞遮ってくれないかな……

 俺の羞恥心………世界の平和の為にも、勇者パーティーの教育を仕上げるんだ!


「いくぞ、スケルトン師匠!!」


 クロスの掛け声とともに勇者パーティーが戦闘開始した。


 当たり前だがチート魔力を持っている俺にはまだ勝てず、徐々に苦戦していく勇者パーティー。

 やはりまだ魔王戦に挑むには惜しいデキだ。あと一歩がなぁ。

 勇者パーティーの進捗具合を見て、そろそろいいだろうとクロスに話かける。


「勇者クロス。もう気付いているんだろ?自分達は弱い、と。そして、俺が何故お前達を生かしているのかも」


 ここ一ヶ月ほど魔王城で俺と戦闘を繰り返しているのだ。

 普通に感づいているだろう。

 さっきも師匠とか言ってたしね。


「―――くっ、だが、俺達は強くなってきている!今日こそは、」


 わかっているけど弱いって言われるのはツラいよね。

 俺に勝てるのはいつか、そう思うと勇者として情けないし、世間からどんな目で見られるか。

 一ヶ月も進めないとなると精神的にも焦ってくる頃だろう。


 もう結構勇者パーティーはボロボロだ。

 セイラを有言実行で厳しくしごいたので、意識はあるだろうが既にヨロヨロと隅で倒れている。

 回復職がダウンしたまま戦い続ければ、いつも通り全滅するのも時間の問題だろう。


「うん。そろそろ先に進みたいよな。今日で最後にしよう」


 俺の言葉にクロスの動きが止まり訝しげに見てくる。

 その様子から、他のメンバーも警戒を解かずに動きを止めた。

 魔法使いも俺を怪訝そうに見てきたのでちょっとドキドキしてきた。

 皮膚があったら顔が赤くなるところだが、骨だけだからセーフ!ナイスポーカーフェイスならぬボーンフェイス。


「……今日で、最後に?」


 クロスが眉間に皺を刻み俺を見ている。

 ただの復唱なのに俺より重要な台詞を言ったっぽくていらっとする。イケメンめ。


「先程、貴方が何故私達を生かしているのか、と問いましたね。魔王を倒させる為なのでしょう?」


 セイラがヨロヨロと立ち上がり、俺に向かって口を開いた。


「そうだ。ビッチ聖女セイラ」


「ビッ!?失礼ですよ!?何なんですか、スケルトンのくせにやたら強いですし。魔物のはずなのに何故私達に協力を、」


「喧しい!クロスばかり気にかけ周りが見えていないからお前は隙が生まれ、チームワークも崩れるんだ。以前から言ってるだろ」


 さすがに元人間であったことはカミングアウトしない。

 研究期間に放り込まれ人体実験ならぬ骨体実験されたら大変だし嫌だ。逃げるのも人間相手だと攻撃しづらいし、村のみんなぐらい強かったらあっさり捕まってしまう。


「なっ!?そんなこと……」


「そうだな。セイラはもっと僕の補助もすべきだ!!」


 スカしたナルシスト剣士が前髪を払いながら俺に便乗してきた。マジで前髪切っちまえ。


 さて、最後だからぶっちゃけて教育させてもらおう。


「お前もだ、ナルシスト剣士。目立つのは囮に持って来いだが、タイミングをもっと合わせろ。お前ら実力は付いてきたが、まだチームワークが良くない。先ずはそこの魔法使いなしでもう一回挑んで来い」


「な、ナルシ、って―――」


「私抜きで?」


 そう言うと、魔法使いが俺を真っ直ぐに見てきた。絶句してる剣士は無視だ。

 ヤバい。ドキドキする!

 恥ずかしいくらい顔が赤く……ならないな!

 ナイス・スケルトンボーンフェイス!

 イエス!セーーーフ!


「、ごっくん――おいっ、イリン無しだと遠距離攻撃がいないじゃねぇか!」


 タンクが五月蝿い。しかも、また何か食ってたのか。

 だが、でかした。魔法使いはイリンと言うのか、やっと名前を知ることができた。

 因みにタンクはバルト、剣士はスカイというらしい。


「幹部達なら問題ないが、魔王を倒せるのは勇者の聖剣だけだ。その為には前衛のチームワークで勇者の活路を開かねばならん。勿論、後衛の補助が上手くいかなければ勝てないだろうがな。まずは魔法使いイリン抜きで前衛男三人とセイラの補助魔法だけでかかってきてみろ。………まぁ、俺は敵だからな。信用できないのなら構わずに俺を倒せばいい」


 さりげなくイリンを名前で呼んでみる。

 ちらっとイリンを見ると眉をひそめていた。

 ヤバい。馴れ馴れしく名前呼んだのキモいとか思われてたらどうしよう!


「……わかった。私はスケルトンさんを信じる!」


「「イリン!?」」


 うおっ!?マジか!

 俺を信じてくれるとか、かなり嬉しいんですけど。


「クロス達だってわかってるでしょ?師匠って呼んでるんだから」


「……ああ。悔しいが師匠のお陰でここまで強くなれたからな」


「否定できませんね。何故協力的なのか理由はわかりませんが」


 この一ヶ月。俺のさりげない教育で勇者パーティー全員が効率良く成長できたことから、ある程度は俺の事を信用してくれるようになったようだ。

 やって良かった……これなら仕上げられそうだ。

 師匠とかちょっと照れるけど。


「では、イリンは俺の後ろでチームの動きを客観的に見てみるといい!仲間の目線と敵の目線、両方の意見を取り入れて改善していけば俺だって倒せるようになるぞ!」


 偉そうに指示を出して照れ隠ししてみる。

 俺に言われた通りに後ろに立つイリンの姿が何とも言えず可愛い。

 よし!流れ弾がイリンに飛ばないように気を付けよう。


 その後前衛のチームワークを鍛え、後衛の補助のタイミングの訓練、イリンを加えて魔王戦でのシュミュレーションを行った。勿論、俺が魔王役ですよ。

 全力で戦わせ、疲れたりダウンしたら無理矢理回復させるという地獄のエンドレスバトル。倒れては復活するゾンビパーティーのようだ。これらを何時間か行った結果、かなり勇者パーティーのチームワークが良くなった。

 これなら油断しなければ魔王相手でも大丈夫だろう。


「うん。免許皆伝だな」


「「えっ?」」


 突然戦闘を終わらせ、ヒールで全員回復させる。

 ついでに俺お手製のHP・MP回復魔法薬を授けた。売ると高いから超レアだぞ。


「これは、魔法薬?」


「ああ。餞別だ。じゃあ、魔王を倒してくると良い!」


 俺は魔法を使って驚く勇者パーティーの前から姿を消した。


 もう、魔物である俺はここに必要ない。


 消える瞬間イリンに呼び止められた気がしたけど、次の瞬間には幻だったかのように俺の視界は切り替わった。






 数週間後。


 世間は魔王が勇者パーティーに倒されたニュースで湧いていた。

 世界中、どこの国の都市や町もお祭り騒ぎだ。


 俺はフードを深く被り、骨のみで構成された顔や身体を隠して検問の要らない小さな町を出入りして情報を見聞きした。

 お祭り騒ぎで気の緩んでいる人々の目を掻い潜る。

 ついでに薬種屋のない町の商店に採取した薬草やお手製の薬を持ち込む定期契約をしておいた。


 自ら魔王城を出たとはいえ、魔王が倒され魔王城がなくなり魔物である俺は帰る場所を失った。まぁ、勇者パーティー育てた時点で裏切り者だしな。

 村に戻ることはできないし、スケルトンである姿を晒して生活はできない。


 俺は人間に紛れてひっそりと暮らせないかと模索していた。

 この身体は骨だけで構成されているので食事や睡眠がいらないし、老廃物が出ることもないのでたまに水洗いして土やホコリを落とすだけで清潔は保てる。

 しかし中身が人間だった頃の考えに引っ張られているので、森や廃墟などで魔物として暮らすのはキツいものがあるのだ。


 先ずは仕事。

 次は住処が欲しいな。


「お、もう薬の納品できるのか?」


 商店に顔を出すと、見慣れた狸のようなおっさんが対応してくれる。いい薬を納品するなら怪しい奴でも取引してくれるという、俺にとってはありがたい商人だ。


「ああ。最近お祭り騒ぎで浮かれてんのか怪我人が多いみたいだからな。追加注文分の納品だ。需要が多くて助かるよ」


「いやいや、こっちこそ。仕事が早くて助かるぜ。ケルンの薬は品質が良いんでよく売れるしな」


 俺は今、人間だったころの名である「ケルン」と名乗っている。

 骨だけとはいえ人型の魔物で良かった。

 骨に布を巻きつけ、厚手の服やローブのフードを被れば姿を誤魔化せるし、顔は薬剤で焼け爛れた事にして仮面を着けていられるからな。


「また足りなくなったら言ってくれ」


「おうっ、また頼むぞ!」


 納品が済んだので商店から離れ、人混みの中でケタケタと笑いを噛み殺す。

 こんなところに魔物がいるなど誰も思わないだろうなぁ。


 うっかり人にぶつかってしまわないように気を付けながら、この後はどうしようかなと考える。

 その辺の魔物でも狩って金を稼ごうか………


「ケルンさん!」


 突然、後ろから声をかけられて普通に振り向いてしまう。

 俺はこの声を知っていた。


 ―――――だが、ここにいるばすもない人物だ。


 今頃有名になりすぎて王都で引っ張りだこだろう。こんな田舎の村をふらふらしているはずがない。


「何でここに……ってか、俺の名前、」


 振り向いた先には、勇者パーティーの可愛い魔法使いイリンが立っていた。相変わらず可愛い。

 しかも俺を真っ直ぐに見る瞳は嬉しそうだ。何故?


 おかしい。イリンの幻覚が見える。幻覚の魔法にかかった気配はないのに。


「かなり探したよ。貴方のお陰で魔王を倒せたから………ありがとう」


 また喋った。可愛い。

 ・・・おかしい。幻覚じゃないのか?


「あ、ああ、おめでとう。無事で良かったよ。礼を言う為に俺を探してたのか?」


「それもあるけど……私が貴方に会いたくて。貴方の幼馴染みにも探すのを手伝ってもらったの。魔王城攻略の時にお世話になった近くの村で知り合って貴方の話を聞いたから。会えたら連れ戻してくれって」


 俺に会いたくて!?聞き間違いか?

 都合のいい話過ぎて怖いんだけど。罠じゃないよな・・・

 しかも幼馴染みに手伝ってもらったのかよ。

 いや、でも罠じゃなかったとしても俺は帰れないぞ。魔物の姿だとその幼馴染みに殺られるだろうからな。

 それとも、イリン達が俺がスケルトンになったと知らせてくれたのか?


「アイツと俺の話を?」


「うん。……ある日、新たな魔法薬の制作中に突然失踪した薬種屋の息子で《神薬の賢者ケルン》。まさか魔王城で出会ったスケルトンさんと同じ人物だとは思わなくて最初は気付かなかったけど。………通りで強いはずだよ」


 そんな通り名あったなぁ。

 村の外で魔法薬のデキを確かめるために旅してばらまいた時に勝手につけられた名前だから普段気にしたことなかったわ。

 普通それと魔王城にいたスケルトンが一致する訳がない。


「むしろ、よく気付いたな」


「消える前、常識はずれなレア魔法薬を配っておいて?」


 あーー、うん。渡したわ。魔王戦で死んでほしくなかったし。

 でも、俺が作ったとは限らないよな?


 イリンにじとっとした目で見られた。何で?


「ケルンさん。私は昔、疫病で見捨てられた村で貴方に助けてもらってから、ずーーーっと貴方に会いたくて探してた。貴方の薬に助けられたお礼が言いたくて。因みに、魔法薬について調べまくったから、ケルンさんの桁違いのレア魔法薬を間違えたりしないよ!だから貴方が消えてからも、売られてる薬をたどってきたの」


「えぇっ!?」


 まさか、昔会っていたとは……人間だった頃は魔法薬開発に夢中で周りが見えてなかったからなぁ。旅した時に行った村のどこかにイリンがいたのか。

 だから魔王城でイリンの顔見た時懐かしい気がしたのか?

 くそっ、スケルトンになる前に惚れて告白してたら違う未来もあったのかな……


「元々貴方の住む魔王城の近くの村に弱い者はたどり着けない。周りに生息する魔物が強すぎるもの。だから勇者パーティーに誘われるくらい強くなって会いに行ったのに行方不明。……まさか魔物のスケルトンとして魔王城にいるなんて……何回か戦闘して、途中からまさかと思っていたら、勝手に私達の成長に満足して消えちゃうし」


「な、何か、ごめん?」


「謝ったら駄目………これで許すんだから」


 骸骨顔を隠す仮面が剥がされてフードごと顔を引っ張られた。

 そのままイリンの顔が近付き、俺の剥き出しの歯に柔らかい唇があたる。


 ………柔らかい?


 骨に当たっても感触はわからないはず。

 って言うか、


「今のは、キッ――――!?」


「えへへっ、やっと骨じゃない顔が見れた!やっぱり、王子様は姫君の真実の愛のキスで呪いが解けるんだね。神級魔法薬制作の失敗で魔物になって、キスで人間に戻るなんておとぎ話みたい」


 イリンがほっぺたを赤くして笑ってるのがメッチャ可愛い。

 俺は王子ってがらじゃないけどイリンは姫だな。

 真実の愛かぁ~


「て、……は?」


 骨じゃない、顔?……真実の、愛?


 ペタペタと自分の顔を触ったら、そこには久しく感じなかった皮膚の弾力と生物の温度があった。



「え、ぇえええええっーーーーーーー!?!?」





読んでいただきありがとうございます!


名前を3文字にしたい病により名付け。


実は、神薬の完成度の高さに危機感を懐いた神が天罰としてケルンを魔物スケルトンへ。

この後ケルンは完全に人間に戻れてなくて、神薬の開発研究をしつつイリンや幼馴染み達と神に喧嘩を売り、神をねじ伏せて人間に戻るという裏設定があったりなかったり。


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