6話 従者は振り回されるのが常
「ふぁ〜〜〜………やぁっとついたぁ………」
神獣との戦いから四日、漸くお家に着いた。暖房が効いているのか、外とは比べ物にならないほど暖かくて快適だ。一刻も早く帰るために帰路を不眠不休で走破したので、その疲労も相まって凄まじい眠気が襲ってきた。
「あらタルパちゃん、帰ってきたのね。お帰りなさい。サバイバルの中で、何か掴めたかしら?」
「もちろんさ、だから帰ってきたんだよ…ふわぁ……おかーさん、僕、今動く気力ないから部屋まで連れてって…」
(………あらあら、タルパちゃんったら、こんなところで寝ちゃったわ。仕方ないわねぇ、ここはママが運んであげますか。)
タルパをベッドまで運んであげる為、母は魔弾を発動した。魔弾『対象移動』。その名の通り、着弾したものを術者の思い描いた場所へ飛ばす魔弾だ。これを使い、タルパを彼女の部屋のベッドに送った。そして自分もタルパの部屋に入り、布団をかけてあげる。娘の満足そうな寝顔を見て、母は満足そうな顔で出て行った。
(ふふふ、気持ちよさそうにしちゃって。よっぽど疲れたのね。ま、パパが帰ってくるまではゆっくりとお休みなさい。)
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「ふわぁ〜〜………よく寝た………」
「おう、やっと起きてきたか。待ちくたびれたぞ。」
「あ、おとーさんおかえり。僕どれくらいの時間寝てたの?」
「丸一日。それより、俺の出した課題は達成できたのか?できてないのに戻ってきたのだったら…まーた地獄のサバイバル生活をさせてやるぞ?」
その一言で目が醒める。あぁ、そうだ忘れてた。ちゃんと伝えないとな、『戦うこと』。それに対する僕なりの答えを。堂々と胸はって答えればいい。
「僕にとって戦う事とは、『自分以外の全てを犠牲としてでも、生きる事』だ。相手がこちらを狙うなら、自分だって抵抗する。そうしなければいけない状況なら、僕は絶対に躊躇わない。戦いとは、僕が危険を払いのけて生きる為の手段だ。」
これが、僕の答え。他の誰の命をないがしろにしてでも、自分が生きる事。さぁ、これでお父さんは納得してくれるかな?
「………なるほど。それがお前の答えか。合格だ。まぁ、こうして戻ってきた時点で基本合格にするつもりだったがな。」
「………え?」
「考えてみろ。あの森は低ランクのハンターなら先ず生きては出られないと言われるほどの危険地帯だぞ?お前はそこから生還したんだ、ならば、襲いくる魔獣を討伐する経験も出来たはずだ。生還することができれば、何かしらの答えは自分の中で出ているだろうと思っていた。だから、お前の答えがなんだろうと合格を出すつもりだったんだ。」
「………へぇ。そうか、あんたはそういうやつだったなぁ。娘をそんな危険地帯に平気で遅れるようなひどいやつだったなぁ。」
怒りの力というのは凄まじい。相手が誰だろうと負ける気がしなくなるくらい力が湧いてくるのだから。
「………ど、どうした?すごい殺気だぞ?」
「一度しばかれろ!このクソ親父がぁ!」
「あふぅん!」
抜刀された魂具の一撃(峰打ち)を食らい、父は倒れた。非常識野郎に一撃食らわせられて、とてもスッキリした。魂への攻撃はしてないし、峰打ちだしまぁ生きてるでしょ。多分。
「あぁ疲れた。おかーさん、僕温泉行ってくるから、まだご飯はいいや。三人で先食べといてよ。」
「はいはい。しっかり疲れを癒してくるのよー?」
「へーい、いってきまーす」
自分は魔獣と相対しても問題なく討伐できることがわかった。これなら、成人までのあと数ヶ月の間の修行で実力だけは一人前になれるだろう。
「ふーんふんふーん♪おっふろーおっふろー♪」
まぁ、まずは温泉だ。しばらくは休んでやる。
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同刻。
ゲルバーグ王国の王宮で、フランキスカ=ノベルとその姉のマナ=ノベルが二人で何かコソコソと話をしていた。広い厨房には今は二人以外誰もいない。フランキスカの音を遮断する魔弾に守られているので会話が漏れることもない、万全の状態での密会だ。
「姉さん、少しお話があるのだけど。」
「なぁに?フラン。私は姫様だけに気を配れば良いあなたと違って忙しいのだけど。」
会うなり嫌味を言ってくる。こうなるのはストレスがたまっている時だけだ、きっと『精礼祭』来賓の多さのせいで、他のメイドは仕事が大いに増えているのだろう。確かに、姫様の世話役で他の仕事をする必要のない私には関係ないことだ。
「その姫様のことでのお話よ。…いや、お話というよりは泣き言ね。どうしても一人じゃ達成できそうにないワガママを聞いちゃって。それで姉さんには協力をして欲しいの。」
「へぇ、あの姫様がワガママをねぇ。確かに、普段そういうことを言わない分叶えるのは大変そうね。で、どんな内容なの?もしあんまりくだらない内容だと、協力する気は無くなっちゃうわよ?」
「はいはい、分かっているわ。ちゃんと説明するからそれを聞いて判断して。あと、この話をするのはあなたにだけだからね、姉さん。他言無用、わざわざ他人に聞かれるのを防いでいるのもその為なんだから。もしこの話を他人に漏らせば姉さんは処分されるでしょうね。」
「あらあら、怖いことを言うのね。」
というわけで、話した。
姫様の前世のこと。自分が姫様から聞いたことを全て包み隠さずに。
「………なるほど、ね。良いじゃないの!世界の垣根を超えて、命を超えて繋がった愛!あぁ、なんてロマンチックなんでしょう!」
「ロマンチック………ねぇ。私はとてもそうは思えないけど。で、協力する気になった?」
「勿論よ。誰にも言えないのに私には伝えたということは、私の力が必要なのよね?なら、私が最善を尽くして姫様の恋を叶えてあげるわ!この『ハンターメイド』マナ=ノベルがね!」
「相変わらずかっこ悪い口上ね。でも、心強いわ。姉さんなら可能でしょう。」
「けど、1つ心配事があるのよね。それがちょっと気にかかるんだけど………」
「心配事?いったい何が…」
心配事とは?この若くして城の正規のメイドになり、ハンターとしても活躍する優秀な姉でもそんな心配事があるのか。
「姫様はその男の今の姿を知らないんでしょう?前世での姿は知っていても、恥ずかしくてバレたくないから話したがらない。ハンターズギルドに依頼して私が受注した仲間を募るとして、そんな中身の不明瞭な依頼引き受けてもらえるかしらね?」
「……………………あ」