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その手に幸いを掴んだら  作者: 桐花・改
1章 旅立ちの日まで
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1話 魂より紡がれる力

 タルパは今日も、庭で父親に剣の稽古をつけてもらっていた。日が昇ってから今までずっと剣を振り続けたせいでヘトヘト。もう剣筋はすっかり鈍ってしまっている。


「ほらどうした、腰が入ってないぞ!こんなんじゃ魔物はおろか薪だって斬れやしないぞ!」

「はあっ………!とう!」

「よし、その調子だ!」


 巽がタルパ=パーツドという女の子に転生して今年で七年。日本語が意識に染み付いているせいでこの世界の言葉の習得が遅れてしまったが、なんとか家族や近所の人達と円滑にコミュニケーションを取れるようになった。そもそも三年前から遅れはもうない。今はむしろ、自分が最優秀といっても過言ではない。

 この世界では前世のように理不尽に虐げられることもなく過ごせている。そんな普通の生活が、タルパにはたまらなく嬉しかった。

 この生活に懸念があるとすれば、一緒に転生した響華がまだ影も形もつかめないことくらいか。


(大丈夫………!響華ちゃんもきっとこの世界にいるはずだから………!)


 そうだ、きっと問題無い。そう自分に言い聞かせていると、脳天を木剣の一撃が襲った。頭蓋骨に響く鈍い衝撃が全身に伝わり、激痛が走る。


「いーーーっだああああああああ!!!!??」

「またお前は、何か別の考え事をしていたな?けしからん、剣を振っているときはそれに関すること以外考えるなと言っただろう!」

「うぅぅぅ………ごめんなさぁい…………」

「お前は魔力に属性が無くただでさえ他属性より不利なのだから、こうして魔法以外のことを極めねば一流のハンターにはなれんぞ!」

「はいぃ………」

「まぁ流石に今のは響いただろう。今日はここまでにしておくか。明日に備えてゆっくり休め。」


 こうして稽古を切り上げて、父親は家の中に帰っていった。残って庭にへなんと座り、空を仰いでタルパはひとりごちた。


「はぁ…全然ダメだ…………何度やっても全然上達しないや………」


 この世界に転生して、はや七年。分かったこと、感じたことはたくさんあった。

 まず文明が化学ではなく魔法によって発達した事。化学的なレベルは前世の世界の近代辺りだろうか?ラジオとかクーラーは存在してるのを確認したが、(電気ではなく魔法で動く)車とかは無いようだ。

 次に魔法。体内に存在する「魔力」を使っていろんな前世でまず否定されるような事象を起こせる。手先から炎を出したり、水を出したり、植物を成長させたりいろんなことができる。

 ただし、そうして使える魔法は魔力の「属性」によって決まっているそう。僕の魔力には属性が無いから魔法で火を吹いたり水を出したり土を出したりすることはできない。なんか、損した気分だ。

 後、魔法に必要な魔力は心臓で生成されてるそう。心臓が鼓動するたびに魔力は生成され、貯められていく。生まれてこの方一度も魔法を使ったことがない!って人なら、貯めた魔力を全解放することですごい力になるんだそう。僕の魔力は多い方で、回復も早い方なんだって。

 後は、僕の容姿。女の子になっちゃったことは分かってたけど、鏡を見て驚いたよ。とっても可愛らしいんだ。まるで、響華ちゃんを幼くしたみたいな容姿に赤いメッシュが入った感じ。周りの男子たちによくモテる、僕にはもったいないくらいの素敵な容姿だ。


「はぁ………このままじゃ、いつまで経っても響華ちゃんを迎えに行けないよ………村を出るならせめてランク3くらいの実力は無いと生き延びることもできないってのに………」


 ハンター。行商人や軍の関係者以外で唯一、国外への出入りが許される職業。この世界での成人である10歳になるまでにはその資格を取っておきたいのに、僕には才能がないのかちっとも修行が進まない。


「魔弾もすごい威力を出せるようになったし、魔力の精密なコントロールも板についてきたんだけどなぁ………もっと、強くならなくちゃ………よし、自主特訓しよう!」


 こうして決意して、すぐにある場所へ向かった。そこは、僕にとってかなり馴染みの深い場所だ。家からもほど近く、15分もあれば辿り着く。


「ふう、着いた。ここ誰も人がこないから自主練するのに便利なんだよなぁ。」


 あたりは崖と森しか無く、動物も寄り付かないので一人で修行するにはもってこいの場所だ。かつて魔法を伸ばすための特訓をしていた頃は、ずっとここに通い詰めていたものだ。


「いぃ………よっと!」


 靴を脱いで足に魔力を集中し、崖を垂直に登る。全身に魔力を通すことで身体能力が強化されるが、足の指の力だけで体を支えられるようにするのはかなりキツイ。僕のかなり多い方の魔力を持ってしてもこれまで一度も登りきれたことはない。必ずどこかで落ちて、体を打つんだ。


「よい………しよっと!あ、あれ?登れた!初めて登れた!僕成長してる!」


 やった!今までできなかったことができるようになるのはいつだって変わらず嬉しいことだ。登りきった崖に座って休憩する。吹きつける風が気持ちいい。


「僕はこのままじゃダメだ。剣術は成長が遅いし、魔法も属性が無いから上手く活用できない。なら、どうすればいい?」


 考えろ。タルパとして過ごした7年間だけでなく、山下巽として生きた21年間も全て合わせて。僕はこれまで、何を思って生きてきた?何故、生きるために足掻いたんだ?答えはーーーーーーーーーー



「……………あぁ、そうだ。僕は死にたくなかったんだ。死ぬのが怖かったんだ。だから生きるために、意地汚く足掻いたんだ。死にたくないって、響華ちゃんとの約束を果たしたいって。なら、僕にふさわしい能力はーーーーーーーーーー」


 そこまで言って、立ち上がり、崖下から身を放りだした。空を仰ぎながらみるみるうちに落下していく。そして、ドシン、と大きな音を立てて地面に打ち付けられた。


「ーーーーーーーーーーこれだ。」


 危機から自身を守る防御の力。如何なる状況でも自身に傷などつけさせない圧倒的な防御力。………今回は纏う魔力が足りなかったか、少しダメージを受けてしまったが。

 しかし、打ち付けられたことで体についた傷は、起き上がるまでにもうすっかり完治している。それに、衝撃による痛みも殆どない。


「………よし、ちゃんと回復してる。これが、僕の力。生きる為の、命を繋ぎ止める為の力。」


 方向性は決まった。後は、父との修業の中でこのスタイルを伸ばすのだ。


「………響華ちゃん。必ず、会いにいくからね。」


 もう一度決意と拳を固め、タルパは赤みがかる空の下を駆けた。今はまだ遠いけど、目指す先には確実に近づけている。そう信じていた。

山下巽/タルパ

巽時代

とても醜い子として産まれた。戸籍も与えられず、親兄弟からも邪険にされ、大怪我を負わされ入院した病院で響華に出会うまでは1人も味方のいない状態だった。その後戸籍を手に入れ、猛勉強をして幸せになれるように努力をするが、殺人の容疑で逮捕。そのまま死刑が決まり、控訴もできず、死刑は執行され、生涯を終えた。その後、閻魔の裁きから逃れるために転生。タルパという女の子に生まれ変わった。


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