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その手に幸いを掴んだら  作者: 桐花・改
空章 描かれなかった時間
35/37

修練に明け暮れる日々 その一

連載を再開。不定期でもまた書きます。

主に本編で面倒がって書かなかった部分を。今回はカコリ村での修行編です。

「うひゃあ、大っきい山だねえ。標高はどれくらいあるのかな?」


 都に出ると決心して少しして。僕はハンターズギルドに行き、ライセンスを取得した。これで、合法的に魔獣を狩ったり、出入りが制限されてる区域に入れるようになった。

 そして、ライセンスを取ったその日に、僕はある場所は連れていかれた。

 それがここ。お父さんに連れてこられたのは木々の生い茂る深〜い森。こんな所に連れてきて、いったいどういうつもりなんだろう?


「いいかタルパ。お前にはこれからまずこの山を登頂してもらう。それができなければ、剣術を教えることは出来ん。」

「え?すぐに剣を教えてくれるわけじゃないの?」


 どういう事だ?山越えが剣術となんの関係があるってんだ?昔はハンターだったらしいお父さんの言うことだ、何か理由があるのだろうけど……


「当然だ。剣術を修めるというのはとても辛いものなんだ。それも、幼いお前にはなおさら。だから、まずはこの山を乗り越える事で、強靭な身体と精神を作ってこい!」




 というわけで、僕は今山登りをしています。登り始めてすぐの頃では、まだ少し余裕がありました。


「はぁ…おわっとっとっとっとととととぉ!」


 今はもう、余計なことを喋る余裕はありません。お父さんのこの仕打ちを愚痴る体力すら、この険しい山道では惜しいのです。


『この山の登頂は人間の身体能力ではまず不可能だ。だから、魔力を用いて身体能力を上げて、険しい山道に対応する。そうすれば、魔力のコントロールも学べる上、体力の強化も図れる。一石二鳥とかいうやつだな。でも、今回魔力の使用は認めない。』

『今魔力なしじゃ登れないって言わなかった?』

『お前には人並み外れた強靭な肉体がある。それを存分に活用することができれば、魔力なしでも登れるはずだ。これは、お前の持つ特異体質でしか出来ない修行なんだぞ。』


 登り始めるまでの会話が思い出されます。僕は確かに人よりも頑丈だし、力も強いです。属性は無くとも魔力も豊富で、才能は相当恵まれてる方だといえます。

 でも、でもですよ?まだ七歳になったばかりの子どもにこんな仕打ちは酷くないですか?

 もう今日で挑み始めて半年が経ちます。登っては途中で力つき、お母さんに家まで運ばれて、意識が戻ったら筋トレという毎日を過ごしています。近所の友達と遊ぶ機会もめっきり少なくなり、彼らとの交流も筋トレをしている間だけとなりました。寂しいです。

 寂しさとお父さんへの怒りを胸に、僕は毎日諦めずに頑張っています。もう少し、もう少しなんです。お父さんはゴールとなる木に赤い布を巻いていると言っていました。それはもう見えるところまで来ています。

 僕は視力も高いのでまだだいぶ遠くても見えているのです。あと二百メートルほどでしょうか。とにかく、あと少し。あと少しなんです。


「あっ……………」


 丸太に足をかけ、ゴールの方向まで渡ろうとしたところで僕は足を滑らせ、その下の川に落っこちてしまいました。





 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「………うーーーん…」

「あらタルパちゃん、やっと目が覚めたのね。今日は起きるのが遅いから心配したわよ?」


 僕は自分のベッドの上で目を覚ました。頭がまだガンガンと痛む。あの時足を滑らせた先の川で、僕は川から突き出ていた大岩に思いっきり頭をぶつけた。その衝撃でお守りからお母さんに信号が送られ、回収されたのだ。その時に意識を失って、気づけばこうしてベッドの上。もうこんな生活はたくさんだ。


「おかーさん、今何時?」

「落日四時。いつもより二時間ぐらい起きるのが遅かったわね。」


 四時かぁ。今日は一番長く進めた分、疲労が大きかったんだろうな。


「薪はまだ残ってる?」

「頼める?」

「はーい。」


 もう残ってなかったか。なら、今日の特訓は薪割りで終わりにしよう。うちには火属性の魔力を持っている人がいないから、こうして薪を使わないといけない。面倒だけど、修行になる分まだマシだ。

 薪用の木を十束ほど用意した。これを斧でバカスカ割っていくのだが、なかなか難しい。腰を入れないと刃がちゃんと通らないし、狙いを間違えたらヘンテコな切り口になって使いづらくなるし、普通では鍛えにくい背中の筋肉も鍛えられる。

 パカン、パカン、パカン。一定のリズムで、軽快に薪割りを繰り返していく。流石に十束は多かったか。ミスなくいけたけれど、もう日が暮れている。兄さんが薪は運んでくれたし、僕はお風呂に行ってこよう。


「ただいま。僕はお風呂に行ってくるから、ご飯は後ででいいよ!」

「はいはい。しっかり体を休めてくるのよ!」


 ここの大衆浴場はなんと温泉となっている。露天風呂ではないけど別に景色は良くないから、そこはどうでもいい。重要なのは温泉というところだ。

 効能は腰痛、貧血、高血圧、肩こり、頭痛、筋肉痛、リウマチに効くというもの。効果が盛りだくさんなのが嬉しい。特に腰痛と筋肉痛に効くのが最高だ。


「おばちゃん、はい。50セルね。」

「いらっしゃい、タルパちゃん。今日は随分と遅かったねぇ。今ならお風呂は独占状態だよ。」

「え、ほんと!いやぁ、ラッキー!」


 服を脱いで、身体を洗って、お風呂に飛び込………まずに、そっと入る。お風呂はいいものだ。湯船につかったときの、一日の疲れがどっと溢れて、さぁっと抜けていくような感覚がたまらない。


「あ〜、気持ちぇぇ………」


 こんな気の抜けた声が出るのも当然だ。

 のぼせる前に湯船は出る。寝間着に着替えて番台のおばちゃんから牛乳を買う。瓶に詰められた冷え冷えの牛乳を腰に手を当てて一気に飲み干せば、お風呂の締めはバッチリだ。コレが温泉の締めにバッチリなんだよなぁ………

 しかも、おばちゃんの気に入られてるならお風呂代と牛乳代は半額になる。まぁ、これは大体みんな適用されてるから僕だけ特別というわけじゃないけど。


「ただいま〜。おかーさん、今日のご飯なにー?」

「これよ。お皿が洗えないからさっさと食べちゃいなさい。ゆっくり食べたいなら、皿洗いは自分でお願いね。」

「はーい。」


 今日はイノシシ肉の味噌にんにく炒めとお味噌汁、それに大盛りのお米だ。お米や味噌は前世を思い起こさせるので少々苦手だったけど、美味しいものに罪はないと悟ってから普通に食べられるようになった。

 僕は味噌汁もおかずだと思っているので、味噌汁だけでご飯を二杯は食べられる。今日はいつもより疲れたから食べる量も多くなった。イノシシ炒めを一回、味噌汁を一回、ご飯を六回お代わりして、お皿を洗って晩ご飯を終えた。

 ご飯の後は虫歯にならないよう歯を磨く。瓶詰や歯を磨くという概念が存在しているのはちょっと驚いたけど、ラジオとかある世界だしまぁあるのかな?と納得している。というか、この世界結構身嗜みには気をつけている人が多い。汚い人はあんまり見ない。


「タルパ、明日もどうせ早いんだろ?もうそろそろ寝たらどうだ?」

「そうする………兄ちゃん、おやすみ…」

「おやすみ。風邪引くなよ。」


 落日十時。

 自分の部屋に戻ると吸い込まれるようにベッドの中に入る。毎日お母さんが干してくれるおかげで、いつもふかふかの布団。とても気持ちが良くて飛び込むと眠気を倍加させちゃう困り者………


「ふわぁ………あしたこそは…登頂してやる…」

設定:お金

単位はセル。

1セル、5セル、10セル、100セル、の硬貨と1000セル、5000セル、10000セルの紙幣がある。

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