6話 殺意に目覚めて
しばらく歩く。商店街の喧騒に耳を傾けると色々な話が聞こえてくる。流石は時間があるだけが取り柄のおばさん共。聞こえてくるのは大概誰かがあんなことになったとか、悪い事ばかり。本当に、噂や誹謗中傷の好きな奴らだ。
「ねぇねぇ、聞いた?二丁目の中村さんとこの息子さん、山下さんとこの次女と結婚したそうよ?」
「あら、あの家の娘さんと!?確かに『例外』除いてあのお家は美人さん揃いだけどねぇ、死刑になったアレのいる家と結婚なんてねぇ………」
「こらこら、やめなさいって!アレは冤罪で終わったでしょ!もう山下さん家がかわいそうだからその話題はあげちゃダメよ!」
「ごめんごめん!そうだったわね、忘れてたわ!」
「冤罪………もう、終わってたのか。」
日本ではもう、もう僕の冤罪は晴らされていたようだ。十年間で街の景色はだいぶ変わっている。一体どのような経緯で、僕の冤罪が晴らされたのか。気になるな。少し、調べてみるか。
どこで分かるかな?
商店街を出ると、すぐに見つかった。
ニュースがやっていたんだ。僕が死刑になった時の事件の判決が、十年経って覆ったと。
画面いっぱいにあの弁護士が映ってる。僕の弁護をしたあいつだ。思い出した。僕のことはたいそう嫌ってたけど、正義感が強くて冤罪を晴らそうと躍起になって働いてくれたんだ。それでも、僕は結局ダメだったけど。
画面の向こうで奴は泣いていた。嬉し泣きだ。ストロボで眩く照らされる奴の顔は涙でぐちょぐちょになっていたが、口角が上がっているのを隠せていない。
『悔しかった、無実の罪で一人の命が失われることが許せなかった。彼はもう戻ってこない。冤罪を晴らせても、これは私の自己満足であって、あの世の彼は満足しないかもしれない。でも、彼の名誉を回復することができて、本当に良かった。』
だと。
会見の画面から街中インタビューの画面に切り替わる。インタビューの内容は『元死刑囚山下巽の冤罪』についてだ。
インタビューを受けた者達は皆口を揃えて言う。
「えー!?アレ冤罪だったんですかー!?」
「信じられない!あれが犯人じゃなかったことも犯人があんなイケメンだったことも信じらんない!」
「今回は冤罪だったけどあの顔は放っておいたらいつか絶対やってましたね!だからあそこで殺しておいて正解ですよ!」
「………十年で放送倫理はだいぶレベルが下がったみたいだね。よくこの時間に殺すだとか死んで良かったとか言えたものだよ。」
僕が死んで良かっただと?
ふざけるな。死んだほうがいい人間なんてこの世に存在しない。誰もが生きたいと思って、死にたくないと思って日々を生きてるんだ。たとえ誰かの死が強く望まれることがあっても、それは決して、果たされちゃいけないんだ。果たされてはいけないんだ。
「僕に死んでほしくないと思う人もいたんだな、響華ちゃん以外に。それだけは良かったよ。」
まぁ、あの弁護士には全然僕の名誉回復できてねぇだろとか言いたいことはあるが、あの持ち前の正義感で長い時間がかかっても僕の冤罪を晴らしてくれたことには感謝しないとな。
それに、僕に死んで欲しくない人で思い出したが、ここに来たなら響華ちゃんのお墓詣りに行くべきじゃないかな?場所わかんないけど。
「ま、見つかりゃいいか。あの子の家は教えてもらってたし、そこから後をつければ見つかるだろ。だとしたらすぐ、に………」
そこまで言うと、言葉が出てこなくなった。目の前の光景に集中したからだ。
成長して老けているが、アレは僕が入院する前にいた家の奴ら。忘れられるはずがない顔だ。
怒りと殺意がふつふつと湧き上がってくる。それと同時に恐怖心も。繕えない程に体が震えている。恐怖を訴え、ここから離れろと脳が命令を出している。
「姉ちゃん、結婚するってのに家のことばっかしてて大丈夫なのかよ?式の準備とかいいのか?大丈夫?招待状とかドレスとか準備できてる?」
「いいのいいの。彼がそっちはやってくれてるから、私がやるべきは花嫁修行!アレのせいで危うく婚期を逃すところだったから、花嫁修行なんて全然してなかったもの。すぐにものにしなくちゃ、彼と、新しい家族に笑われちゃうわ!」
「アレ、今頃何してんだろうな。散々俺たちの邪魔して、迷惑かけて、死んで、死刑になったって聞いた時ほんとせいせいしたよな!」
「ほんとよ!まぁ、アレのことだし神様にも嫌われて地獄に落ちてるでしょ。お似合いだわ。」
「絶縁しても俺たちに迷惑かけてたんだもんな!地獄に落ちて当然だ!閻魔にはたくさん苦しめた上であと百回くらい殺して欲しいぜ!」
「あいつ元々戸籍ないから、最初から他人のようなものだけど!」
「ははは!言えてら!」
「………」
途端に震えは止まった。不思議と体が不自然なほど自然に動く。どうやら、恐怖心や怒りを殺意が凌駕したようだ。あいつらの未来なんて、もう考えるのはやめよう。知るか。苦しめ。苦しんで苦しんで苦しみ抜いて絶望しきって、せめて僕の百分の1でも辛い思いをしてから死ね。
「そうだ………あいつらが死ねば、僕のトラウマも晴れるかな。そうだ、きっと晴れるよ。そうに違いないんだ。」
ゆっくりと二人に近づく。目立つ格好だが、ローブの効果のおかげで一切こちらの接近を悟られていない。このクズどもを処理するには絶好の機会だ。苦しめ。どれだけお前らが苦しんだって僕受けた苦しみには届かない。ならせめて汚く泣いてみせろよ、ゴミども。
「はは………ぐびょお!?」
「ど、どうしたの……………!?ぎゃあ!?」
和気藹々と談笑していた二人の顔面に、謎の衝撃が襲いかかる。一切反応できずに、二人は衝撃をもろに食らってしまった。
「脆い。これくらいで喚くなよ、情けないな。」
「だ、誰よ!?なんでこんなことするのよ!?」
姿を見せるとすぐに口答えしてきたので、もう一度顔面にグーを入れる。「びゅっ!」と叫んだが、すぐ大人しくなった。適当な路地裏に放り投げて僕もすぐに追いつく。
「聞いたよ。お前結婚するんだってな。人を一人破滅させた人生で享受する幸せの味はどうだ?最高か?」
「何言ってるのよ!わたしそんなこ………ぶっ!」
「黙れ。お前がしていいのは嬲られて泣き喚くことだけだ。それ以外は許さん。さぁ、言ってみろよ。『山下巽』を破滅させたその体に、魂に、ありうる限りの恐怖と絶望を叩き込んでやる。」
「ねえちゃっ」
「お前もだよ。何姉をおいて逃げようとしてんだ、男だろ。ならか弱いゴミ一人ぐらい庇ってみせろよ。」
こんなゴミクズが幸せの絶頂にいるなんて、僕には許せない。苦しめ、喚け。ゴミを殴ってる間に、もう一つのゴミが逃げようとしていた。当然だが逃すわけない。
一応逃げないように魔力で壁を作っておこう。僕の力の応用だ、結構簡単に作れた。魔力の結界が狭い路地裏を覆い包み、外からの認識を完全に遮断するカーテンとなった。
これで、コイツらを逃さない状況は作れた。さて、どんな風に痛めつけてやろうか。せめて、少しはトラウマを拭えるくらい、僕の気を紛らわせてくれよ?




