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その手に幸いを掴んだら  作者: 桐花・改
序章 一緒に行こう
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1話 何処へだって、あなたと一緒なら

「響華ちゃん、君はどうしてこんなところにいるんだい?まさか、地獄に落ちたんじゃないだろうね。」

「そんな訳ないじゃない!何だか騒がしかったから、ちょっと…ほんとにちょっとだけだよ?好奇心が騒いじゃって。それで様子を見にきたら、ここにたっくんがいたってわけ。すごい偶然だと思わない?」


 そうだった、忘れていた。この子病弱のくせによく病院内を駆け回ってたな。それで止めるために追いかけてた僕だけが怒られてたっけ。ダメだ、そんなことは思い出すな。あぁ、忌々しい。


「この騒ぎ、たっくんのせいでしょ?死者が閻魔大王のお裁きから逃げるなんて前代未聞だよ?こんなに獄卒が騒ぐのも無理はないね。」

「僕は何も悪くない!生きてた時からもずっとそうだったけど、なんで僕があんな理不尽な判決を受けなきゃいけないんだ!?顔か!?僕が醜い男だからか!?見た目が悪いから、どんな理不尽を与えてもいいっていうのか!?ふざけるな…ふざけるな!!」


 まただ。産まれてから死ぬまで、響華ちゃんと過ごした日々以外ではずっと理不尽を受け続けていた。幸せなんて知ることはできなかった。吐き出したい思いがたくさんあったのに、何一つ、そうすることも許されなかった。おかげで、ただただ鬱憤が溜まっていくばかりだ。噛み締めた唇が切れ、ツー、と細く血が垂れる。


「たっくん」


 響華は恨み言を遮るように巽の顔の前に近づき、突然キスをした。彼女の唇は柔らかく、何というかとても好ましい感触だったのだが、いきなりの事態に驚いた巽は大きく後ろに下がった。たたらを踏み狼狽えている。


「な、な、な、何すんだよいきなり!?」

「ダメよたっくん!誰かを恨んだって結果は変わらないんだから、そんなこと言うだけ無駄よ!今たっくんがするべきことはそんなことを言うことじゃなくて逃げ切って生き返る事でしょ!」

「な、なんなんだよ!?響華ちゃんに僕の何がわかるってんだよ!生まれてから死ぬまで、ずっと人にもモノにも恵まれてきた君に僕の気持ちなんてわからないくせに、勝手なこと言わないでくれよ!」


 それが、巽の本心だ。あいつらを恨まないでおくだなんて、そんなの「やられたこと全部水に流して許すから、もっとやって!」と言ってるのと同じだ。

 あいつらを許すことなんて、たとえ自分が消えてるとしても絶対に嫌だ。


「分かるわ。だって、たっくんは本当に辛そうだったもの。味方してくれる人が一人もいないまま死んじゃったんでしょ?ずっと暗い独房の中で独りぼっちで、寂しかったんでしょ?なのにどうして、助けを求めないの?どうして私に助けを求めないの?どうして自分よりも先に他人のことを思うの?あなたの目の前にいるじゃない、たっくんを助けたいと思ってる人が。」

「…………響華ちゃん、僕を、助けてくれるの?」

「あら、どうかしら。私はそうしたいけど、たっくんは助けなんていらないみたいだし?」

「そんなわけ………ない!僕は、死にたくない!消えたくなんてない!何も成さず、何も残さず、ただ汚名だけを被って消えるなんて、絶対に嫌だ!」


 巽は心から叫んだ。もっと生きたい。絶対に死にたくない。そこまで叫ぶと、響華が手を差し伸べた。真剣な表情で巽に言う。


「ねぇたっくん。助かりたいのなら私の手を取って。私についてきて。私なら、きっとたっくんを助けてあげられるから。」


 僕は差し伸べられるその手を取った。もう自分が縋れる相手はこの子しかいない。消えたくない。響華は掴んだ巽の手を引っ張り、どこかへと連れて行こうとする。巽も抵抗せず素直についていく。彼女すら信用できなくなる時が来てしまえば、その時自分の心ははもう終わってしまうからだ。

 時折、追いついてきたのか近くで叫ぶ鬼を撒くため止まって隠れる。いなくなったら進む。これを何度か繰り返していくうちに、響華は立ち止まった。どうやら、目的地にたどり着いたようだ。


「着いたわ、ここよ。」

「え………なにここ?これは……穴?光ってる……」


 思わず疑問を漏らす。彼女だけは信じるようにしているが、目の前の異様な光景には質問しないわけにはいかなかった。


「これは転生の穴。地獄で罪を贖った死者や転生を希望した死者の園の魂が入ると、また一から人生をやり直すことができるようになるの。まぁ、何処でやり直すかは分からないんだけどね。」

「へぇ…すごい穴なんだね………」

「ホントは記憶とか全部消してから飛び込むそうだけど、そんなことしてる暇はないからそのまま飛び込んじゃお!きっと、今の記憶を保ったまま転生出来るよ!」

「うん…じゃあ、すぐに飛び込………ん?飛び込んじゃおって、もしかして君…」


 ちょっと嫌な予感がしたので聞いてみる。答えはすぐに帰ってきた。予想通りだった。


「え?当たり前じゃないの。私も一緒だよ。たっくん一人で行かせるなんてできないよ。転生した先でも敵ばかりかもしれないし、たっくんに味方ができるとも限らないからね!味方がいなきゃまた、今回みたいに無駄に一生を終えちゃうかもしれないんだよ?だから私が付いてってあげる!」

「それに、地獄の罪人の逃走幇助とか、こんなことしたら私だってお裁き受けちゃうのが分かり切ってるしね。だから私もたっくんと一緒に逃げちゃうの!」


 屈託のない笑顔でそうのたまう。僕は心底呆れた気持ちになるが、すぐにそんな思いは消え失せ、申し訳ないという思いでいっぱいになる。


「ごめんね、響華ちゃん。僕なんかが関わらなければ君もずっと平和に暮らせてたのに。本当にごめん。僕なんかの為に平和な暮らしを捨てさせちゃって。」

「何言ってるの。死ぬ前にも言ったでしょ?私はたっくんのこと愛してるのよ。愛する人とまた同じ世界に行けるだなんて、とっても幸せで、ロマンチックなことじゃないの!」

「ロ、ロマンチック………?」





「おい、いたぞ!転生の穴の前だ!」

「何だと!?急げ!さっさとしないと捕まえられなくなるぞ!」


 追っ手も遂にここまでやってきた。早くしないと逃げられない。


「ありがとう、響華ちゃん。僕はもういくよ。来世では幸せになれるように頑張るから。そして、君を迎えに行くから。」

「私も。来世のたっくんの幸せの中に自分が居られるといいな。………もういくよ。」

「うん。例えどんなに離れ離れになったって、僕は絶対に、君に会いにいくから。」


 僕は響華ちゃんを抱き寄せ、転生の穴の中に飛び込んだ。何処でやり直すことになるのかは分からない。けど僕は次は、次こそは幸せになってみせるよ。


「必ず、私を迎えに来てね。」


 勿論。世界が僕たちを隔てたって、それを超えて君に会いに行くから。愛の力で世界の理すら捻じ曲げてやる。あぁ、意識が朦朧としてきた。視界が霞む。耳が遠くなる。これが転生するということなのだろうか。この眠りから覚めた時にーーーー







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







「奥様、産まれました!あらら、こんなにすごい大声出しちゃって…!ほら、こーんなに元気で可愛い女の子ですよ!」


「頑張ったな………お前も赤ん坊も無事で、本当によかった………!」


 …………ん。ふうぁぁぁ……………ここは………何処?なんだか景色が曖昧だ。だれかが泣いてるし、大声を出してる。赤ん坊だろう、あぁうるさい。

 あぁ、そうだ。僕は転生したんだった。記憶は残ってる。今でも鮮明に思い出せる、かつて受けた理不尽と、少しの愛に生きることのできた時間の記憶を。せっかく引き継げたんだ、上手く今の僕の人生の糧にしなくちゃな。

 とか考えていると、いきなり抱き上げられた。ちょっとしたGの強襲に体が圧を受ける。抱き上げるその手はとてもゴツゴツしている。きっと、この人が僕の父親なのだろう。


「よし、名前を決めた!お前の名前はタルパだ!これからよろしくな、我が娘よ!」


 ……………え?ちょっと待て。む、す、め?



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