4話 力の差
「ふむ。どうやら混乱しているようだな。まぁ無理もないか。人探しをしていると言っていたが、その探している対象がそっちの方から来たのだからな。」
「え、えと、その、」
「場所を変えよう。君は少し動転しているようだ。どこか落ち着ける場所に移動しようじゃないか。」
「ひゃ、ひゃい!」
というわけで、移動することになった。移動先は騎士団の詰所だ。セネカルトさんと出会った場所とはかなり近かった。………こんなに近くにいたのに迷っていたのか。いや、僕は悪くない。都の複雑な道のりが悪いんだ。
「座りなさい。お茶でも入れよう。君が落ち着いてから要件を聞こうか。」
案内された部屋は、掃除の行き届いた綺麗な部屋だった。そこに置かれていた座椅子に座るよう促され、座る。ふかふかのクッションが気持ちいい。
カップに入れられた湯気を放つ紅茶が渡される。カップを手に取り、渡されたお茶を飲む。熱かったので吹いて冷ました。味はあんまり美味しくはなかった。お茶を淹れるのは苦手なのだろうか?
「えと、要件というのは、セネカルトさんの噂話のことでして。ちょっと世間で噂されてるあなたが真実なら、色々あなたから聞きたいことがあるんです。」
緊張して使い慣れない敬語が出てくる。この人から見える魂の色は『黒』。黒い魂は今まで一度も見たことがない。この人の人格がつかめない。これまでもいろんな人や色を見てそれぞれの人格を見てきたが、ここまで底の知れない深い色を見たのは初めてだ。
「ほう。私の噂話だと?どのようなものかな?」
「えっと、何十年も見た目が変わってないとか、異世界から来たとか、何度も転生を繰り返してるとか、実は現世に降り立った神様だとか。」
半分以上でまかせだが、これだけ並べ立てれば何か一つは当たってると思う。実際、みんなも同じようなことを言っていたしね。
「ふっ、そんな噂が流れてるのか!この世界の世間は面白いことを考えるな!」
「この世界?」
気になるワードだ。普通人は世界の行き来なんてしない。そんな発言が出るということは、まさか………
「そう。私はこことはまた違う、別の次元から来た、『異世界人』とでも呼ぶべき存在だ。私の知る中では次元からまた別の次元へと移動できる者は、私を含めても二人しか知らん。」
「成る程。けど、転生する時ってどの次元に生まれるかはわからないんですか?」
「私は転生していないから分からんよ。しかし、神によれば、転生先は実際にそうする際に希望を出せるようだぞ。それが通るかは知らんがな。」
「へー。転生者じゃないんだ。ん?じゃあどうやってセネカルトさんは次元の移動を果たしたんですか?」
「私は本来転生するはずだったのだ。だが、『終世』を制覇したことで転生することなく死を従えることができたのだよ。お陰で今の私は不老不死のようなものだ。」
ほぉ…ふろーふし……素敵な響きだなぁ………
「で?タルパちゃん。君は私に質問する事で、何を知りたいんだ?」
「僕は転生者で、その時同時に転生した子がいるんですけど、その子はこの世界にいるはずだけど、居場所がわからないんです!転生者の前世を知る方法ってありますか!?」
「ふむ。一応知っている」
「本当に!?」
本当に知ってるの!?それは僥倖だ!
「教えてくれませんか!なんでもしますから!」
「ほう。なんでもすると言ったな?ならば、私と手合わせしてみろ!君の実力を試させてもらおう!」
「やっぱり、そうくるかぁ………」
対決の類をを申し込まれることは、みんなからの情報のおかげで事前にある程度は予測できていた。だから身構えていたし、すぐにそうなることも考えて、さっきからずっと、攻撃の準備は整えていたのだ。
セネカルトさんとの対決は、騎士団の修練場でやるのかな?と思っていた。思っていたんだ。
結果、それは僕の想像の斜め上に遥か高みをいっていた。
「………まさか、次元を超えるなんて、想像しないでしょう!」
「ここならうっかり出力を間違えても街に被害が及ばんからな。それに、この世界………『終世』は生きる者の存在を例外を除いて絶対に許さない。この世界で生き抜くことができたら君は私と同じ高みまで登ることができるようになるぞ?やってみるかい?」
「今は、いや、これからも遠慮する!」
「そうか、まぁ、いずれ確実に必要になるのだがな………今は気にしなくていいか。」
「じゃあ、始めますよ。」
剣を抜く。魂具の灰色の輝きが眩しい。死が支配する世界に来て、剣も気分を上げているようだ。
「さて、やるぞ。………今一度、その雄姿を見せろ。『ヴィオラ・ソナタ』よ。」
「先手………必勝!」
セネカルトさんが剣を抜いた。何やらポエミィな台詞を言っていたが、多分あれは剣の名前と騎士の口上だ。気にするな僕よ。
魔力を足に集中させ、脚力を強化して剣の間合いに飛び込む。完全に虚をついた!
(この機を逃すな!思いっきり………ふれぇ!)
ガキィ!と、大きな音が鳴る。これは剣と剣がぶつかり合った音。つまり、完全に不意打ちになったはずの渾身の一撃は防がれたということ。
「なっ………!?」
「成る程。これは素晴らしい才能だ。転生者の肉体というのは、前世に強い影響を受けるという。かつて受けた傷を二度と受けぬよう、かつての幸福をまた享受出来るよう、その身を強化するそうだ。君の前世は、その年でここまで強くなれる程に波乱に満ちていたのだろうな。」
話す間も反撃してくる。言葉に、剣戟に、意識が削がれていく。言ってることは重要そうだし、かといって攻撃は苛烈で後手後手になるし、どっちに集中すればいいのか。
「だが、君は転生してまだ十年やそこら。素晴らしい才能をまだ伸ばしきれていない。ここで君が私に勝つことは、天地が翻っても不可能だ。」
「だったらなんで………自分が勝つってわかりきってる勝負を仕掛けたんですかねぇ!」
そこまでいって剣を振り下ろす。魔力をたっぷりと纏わせて、強化することは忘れない。剣を振るスピードを上げて、今度こそ、当てる!
ッカーン!
「グゥ………!」
「それは、君の目的、それを果たすのに必要になるかもしれなかったからだ。私の知っている方法は、少しばかり手荒な方法なのでな。」
「それを教える前に、今は決着をつけておこう。一応、君との戦いはなかなか楽しめたぞ。君の将来がとても楽しみだ。」
剣を弾かれ、無防備になった。無防備な時間は短かったが、その間にこれだけまくしたてられた。
くる。セネカルトさんの渾身の一撃が。早く避けなければーーーーーー
「峰打ち」
ゴッ!!!
鈍い音が響く。剣の腹で頭を叩かれたのだ。峰打ちとはいえ強烈な衝撃がくる。意識が急速に遠のいていく。そして僕は負けた。地面に倒れ伏し、気を失った。
「終世の制覇とまでは言わないが、せめて死の克服くらいは果たしてもらわねばならんな。これから先は大変だぞ?目的を果たしたければ、しっかりついてくることだ。」
薄れていく意識の中で、最後にそんな言葉が聞こえたのだった。




