冒頭話 悪夢の先へ
『なんで………!なんでよ!あんな汚物が私から産まれたのよ!なんで私があんな汚物を産まなきゃいけなかったのよ!』
母親が泣いている。父、母、姉二人、弟。みんな見た目だけは綺麗な家族だった。その中でただ一人、醜い姿で自分だけが異物だった。僕を産んだことを後悔して、父親に、家族に責められ、独り居間で泣いている。この後、僕は何度も顔を叩かれるんだ。
お前の顔だって、本来は僕と同じ、醜い姿だったろうに。整形して手に入れたものじゃないか。たまたま僕が本来のお前に似て生まれてきただけだ。お前のせいじゃないか。
『お前のせいだぞ!お前のせいで俺は出世できなくなったんだ!仕事がうまくいかないのも部下が俺のことを舐めてんのも全部お前のせいだ!』
父が殴る。蹴る。逃げられないように四肢を結束バンドで後ろ向きに縛り、奴の気が済むまで暴行を続ける。こんなことをしたって、部下から敬われたり、仕事ができるようになったりするわけじゃないのに。無駄なことを。
『うわーキッタネー!クズの菌が感染るぞー!』
『しょーどくー!』
『しょーどくー!』
『お前に爪なんて勿体ねーよ!とっちまおーぜ!ペンチ!ペンチ!』
『歯もいらねーよな!こんなゴミに付けられた爪と歯がかわいそーだぜ!』
『『『『助けてやらねーとな!』』』』
子供達が拷問する。口に石を詰められ、塞がれて殴られる。消毒用のアルコールを身体中に吹きかける。傷に染みる。ペンチで爪を一枚一枚乱暴に剥がされる。その後は生えてこないように指先をへし折って。
ふざけるな。返せ、僕の爪を返せ!
歯は石を詰められたときに砕けた。残ったものも無理やり引き抜かれる。体は当然のように拘束されていて、どんなに痛くとも身動き一つ許されない。
『ちょっと!なんでそんなもので殴んのよ!?油が勿体無いじゃない!』
『あーごめん!しっくたしくった!買いなおさねーとな!けど、こんなゴミのせいで無駄になって油がかわいそーだな!』
『私たちでちゃーんと供養してあげないとね!』
兄弟達だ。買ったばかりの油の詰まった瓶で頭を殴られた。傷口からは肉が見える。血も止まらない。そこに、瓶が割れたことで漏れた油が入り込み、激痛をより加速させる。
そこに、百円ライターの火がつけられた。油に火が移り、全身に燃え広がる。
『あはは!よく燃えてる!ひだるまー!』
『スッゴイ変な動きー!きっんもーい!』
自分の体の上で燃え盛る火を消そうと必死にのたうちまわる。その姿を見て誰もが笑う。
アハハ、アハハ、アハハ!
……………笑うな。
アハハ、アハハ、アハハ、アハハ、アハハ、アハハ、アハハ、アハハ、アハハ、アハハ、アハハ、アハハ、アハハ、アハハ、アハハ、アハハ、アハハ、アハハ!
…………笑うな。笑うな!笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うな笑うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!
「ぷはあっ……………………!!!はぁ………、はぁ………ゆ…め………?」
僕は悪夢から目覚めた。体の異変を確認したが、汗に濡れていること以外は大した異変がないことに安堵した。見ると、シーツも寝巻きも汗でじっとりと濡れている。体の動悸が治まらない。こんな夢、昨日までは見ることがなかったのに。
窓から外を見ると、未だ月明かりの綺麗な夜空だった。夜明けは当分来そうにない。けど、もう僕眠る気にはならなかった。汗でぐっしょりの布団をでて、椅子の上で夜明けまでを過ごした。
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「あ、おはよー。タルパー、着替えならー、更衣室にいくつか用意してあるからー、好きな色を選びなー。サイズがあってなかったら言ってくれよー。」
「オッケー。じゃあちょっと着替えてくるね。」
「おー。着替えたらちゃんと来るんだぞー。遅刻するなよー?」
「はいはい。気をつけるよ。」
朝起きて、あの夢の記憶を振り払い、朝食を食べてから宿を出て治安警察隊の本部に行った。本部は昨日の関所と違ってとても大きく、東京の県庁を彷彿とさせた。石造りで、年季も入っていて、なんというか、「荘厳」という感じの建物だ。
玄関先ではサロメが待ってくれていた。今日は僕を他の隊員に紹介する為だけに、みんなに集まってもらったんだそうだ。なんだか悪いなと思った。いったいどんな人達が待っているのだろうか。悪い人じゃないといいな。
更衣室に着いた。玄関の所に間取り図が貼ってあったから迷うことはなかった。けど、前世のせいで男子更衣室に入ろうとしてしまっていた。今は女の子で、男子更衣室には入れないのに。
女子更衣室に入る時もなんだか変な気持ちになったけど、それは押し殺した。今はこっちに入るべきなんだと自分に言い聞かせた。
中には確かに、色だけが違う同じ制服が置かれていた。赤、青、白、黒、黄色、緑、と、合計10種類くらいはあったな。全部サイズはあってた。
「うーん………僕は……これ、かな。」
色々あったが、その中からは灰色の服を選んだ。
着替えはかなり面倒だった。ボタンが二箇所にあってどっちにつければいいのか迷ったりした。
設置されていた鏡を使って姿を確認する。苦労してつけた治安警察隊の制服は、かっちりとしてて見た目がとてもかっこいい。サロメのような素敵なバストがあれば完璧だったのだが、そうではない為彼女がつけていたのと比べれば印象が全然違う。地に足ついていない子供のコスプレのようにも見える。
「まぁ、僕の方が見た目のバランス良いし?そもそも年齢も違うから比較する意味ないし?」
一応誰も聞いちゃいないが言っておく。聞かれてたら恥ずかしい類の独り言だが、それは失念している。
さて、もう着替えも終わったし、人を待たせているのだ。油を売るのはやめて、そろそろ行かねば。更衣室のドアを開け、廊下に出る。制服を着てから見る廊下はさっきまでと同じ道のはずなのに着替える前とは全くの別物のように感じられた。
今日から、都での生活。新たな日常の始まりだ。
「おーう、着替えは終わったみたいだなー。とてもよく似合ってるぞー。それじゃ、みんなが待ってるところに案内するからー、しっかりついてこいよー。」
「うん。これから同僚になる人達かぁ。ここではどんな人に出会えるのかな?サロメみたいな強い人ばっかりなんでしょ?」
この世界では、人間関係が心地よいものばかりだった。狭い村で互いに協力し合うのが前提だったからというのもあるはずだが、人との関わりが楽しいものになるというのは良いことだ。
………お友達、できると良いな。




