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僕の相棒は女装美少年  作者: 海北水澪
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僕の相棒は女装美少年2

「ツバメ、昆虫とか好きだったの? 」

「好き、って程でもないかな。だからと言って嫌いでもないけど。興味があるくらい」

「ふうん。でもその蝶々きれいだね」

 下校するため、のぞみと歩きながら話す。蝶々はのぞみと話す前に、捕まえた。先に捕まえろ、って言われたから遠慮なく。また響ちゃんがいないのは教室を閉めるためとか、事務作業を終わらせるとかいう理由。部室に戻ってから、しばらくはいたけど、そのうちいなくなってしまった。あと虫かごは作った。近くのごみ箱から見つけたペットボトルを、使っている即席のものだけど。

 で、残った時間の活動。つまりは郊外活動の報告を二人でしてたわけ。活動報告の主な内容は次の三つ。

 一つ。僕が見つけたカードについて。のぞみと話し合っても、なんだかわからなかったため続けて調べる必要が、あるという結果が出た。

 二つ。のぞみが近所の聞き込みで得た情報について。調べでは笛の音が聞こえたという人が多かったという。しかし、その前後に笛を持っているような少女は見当たらない。ケースとか背負っていたり、小さいものじゃないから目立つはずなんだけど。

 三つ。今僕たちが今話していたこと。不思議な蝶々について。

「あのカードが、何かの秘密を持っているのは事実なんだろうけど。なんなのかな」

 わからない。現場をもう一か所見ることができれば、何かが変わる気がするんだけど。確証は持てないな。

「それよりさ、ツバメなんでその蝶々捕まえたの。きれい、っていう理由だけで捕まえたわけじゃないんでしょ」

「最初はきれいだなって思ったよ。けど間近で観察したら、図鑑で見たことがない蝶々だから。まあ珍しいからっていうのと怪しさを感じたから捕まえだ。それだけだよ」

「ふうん? 」

 ニヤニヤしながら、僕のことを見てくる。のぞみじゃなかったら、この時点で殴り飛ばしてるな。

「言いたいことでもあるのか」

「なんかやる気出すまでに、時間かかるけど、一度やると決めたら結構乗ってくれるよね、って思ってさ。それじゃあ、段々やる気を見せてきた、ツバメに文芸部としての課題を出そうか」

「課題? 」

「そ、消えた学生の中に、神崎の人が混じってるみたいなんだ。その人のことを明日の放課後までに調べてね。できる限りでいいよ」

「僕はこの学校の学生で面識があるの、のぞみしかいないから、どこまでやれるか」

「出来る範囲でいいよ。でもやる気を出したり、やるべきって課されたことがあるツバメは、面識があるとかないとか、その程度のことは気にしないって知ってるけどね」

「何が言いたい? 」

「ツバメはやれる、ってボクは信じているってこと」

 婉曲的な表現だ。要は僕がある程度の結果を持ってくることを、確信してるってことか。

「あ、来ましたねのぞみちゃん」

 校門のすぐ横にある石垣に腰を下ろしていた女性が、のぞみの姿を見て立ち上がると裾についていたゴミを払う。メイド服にブーツ。長い髪を頭の後ろでまとめている女性で、年は僕たちより少し上。格好からわかる通り、のぞみの家が雇っている使用人だけど、僕の知っている人―雅さんじゃなかった。そもそも喋り方が違う。あの人はのぞみのことを、ちゃん付けで呼んだりはしない。もっとよそよそしいというか。

「あれ雅さんは、どうしたの」

「雅は頭が痛いとかっていう、理由で早引けしました。って言っても屋敷内に住み込みですから、自室で寝てるだけなんですけども。まあそんなわけなので、雅の具合がよくなるまでは、しばらくお迎えは私が担当します」

 誰なんだろうって思っていたら、女性の方から僕に気が付いて、近寄ってきた。そして名刺を手渡してくる。

「どーも、本宮飛鳥です。君がツバメちゃんだね。よろしく。私の仕事ってさ、いつもは炊事番とか、食料の買い出しなんかが中心で……。要は食事関係の取り仕切りです。ちなみに雅は、何でもこなすオールラウンダータイプなんだ。まあ仕事やっててこういう風に、のぞみちゃんと接する機会はないんですよ。だから君のことは話だけ聞いてて―」

 よく喋る人だ。手渡された名刺には太い文字で『本宮飛鳥』とだけ書かれている。電話番号も、住所も何も記されていない。話を聞いている感じだと雅さんと違い、親しみ深い気がする。嫌な言い方をすれば、馴れ馴れしいになるんだけどこの人にはそういうイヤミさがあまりない。多分ある程度の適切な距離感を、保っているからなんだと思う。僕のことあれこれ聞いてきたりしない。

「と、話しすぎましたね」

「相変わらずだね飛鳥さん」

 のぞみは、こういう人の相手もしてるのか。対応能力はある意味で、見習うべきところがあるのかも。

「ツバメちゃんのお顔を見ることができましたし、あとは私の自己紹介もすんで……帰りましょうかね」

「うん、それじゃねツバメ。また明日」

「ああ」

 手を振ると、目の前に止めてあった車に乗り込む。モノの数秒もたたないうちに発進して、気が付いたら遠くを走っていた。のぞみの送り迎えは、金持ちによくあるリムジンみたいな車では行われていない。今の時代少なくなった2ドア車、要はスポーツクーペとかだ。なんでそんなの使ってるんだろ。のぞみはそういうのに関心ない感じだったし。単純に速いからなのかな。

「待たせたわ。阿南はもう帰ったの」

 車が見えなくなった頃に、響ちゃんが校門から出てきた。

「さっきまでいたけどね」

「そう。じゃあ行こうかしら」

 一応どうなったのかだけを僕に確認して、先に歩き始める。響ちゃんは歩きにくいとかっていう理由で、ヒールの付いている靴を嫌っていた。嫌いな理由はうまく走ることが、できないからだって。歩き辛いからじゃないんだ。だから昔から、何かと揉めることがあるって言っている。っていうか、僕とほとんど背が変わらないから、なくてもあってもいいと思うんだけどね。

 何も話さないまま歩き続けると、駅に着いた。市内の中心駅で、周辺のバス路線も発着する交通の結節点になっているような場所だった。いわゆるターミナル駅で、特急も一部は止まる。わざわざ都内まで行かなくても、この辺りに来れば大体の物はそろった。

「あーあ、混んでるし嫌になるよ」

「後ろに行けば、少しは空いているわ」

 響ちゃんが言った通りに後方の階段を使って、各駅停車のホームに降りていく。降りた瞬間に、電車が入ってきたので待つことなく乗れた。でも車内は全部座席が埋まってる。そんな長距離乗るわけでもないから、別に座れなくてもいいんだけど、やっぱり空席がないとなんか損した気分にもなるよね。

 車内は僕たち以外にも、神崎の学生が何人もいるのが見てわかる。それ以外だと紺色のブレザーとか。あれはどこの学校だったかな。

「この中に黒幕がいると思う? 」

 壁に寄りかかっている、響ちゃんにそっと耳打ちする。宇宙人の存在は割と、っていうか結構知られていない存在なので、変に聞かれるとまずい。

「どうかしらね。可能性としてはあるかもしれないけど。ぱっと見ただけじゃ分からないから、難しいわ」

「白雪ちゃんだったら、できるのかな」

 白雪ちゃんっていうのは、僕をこの学校に招いてくれた人物。神崎学苑の理事長を務めていて、学生みたいな外見の女の子だ。それもあって、豪奢な部屋に似合わない。なんで若いのかというと、彼女もどうやら宇宙人だかららしい。と言っても。宇宙人と地球人のハーフなんだ。ハーフ自体そんなに珍しくもなくて、割といるみたい。

「無理よ。確かに宇宙人ってことは特定できるかもしれないけど、相手の心中までは読めないわ。っていうかツバメ、あの人のことなんだと思ってるの」

「超能力者、かな」

「ふざけたこと言うと、扇子で引っ叩かれるわよ」

「結構血気盛んな人なんだね」

「そんなに知りたいなら、私に聞くんじゃなくて直接会って話でもしたほうがいいわよ。学校に直接呼んでくれるってことは、ツバメのことそんなに嫌ってるわけでもないだろうし」

 そういう会話をしている間に、最寄駅に電車が止まった。別路線の乗換駅でもあるので、僕たち以外にも乗換で降りる人間が多い。何回か神崎の学生が改札口に向かわず、別路線のホームへ歩いていくのを見たことがある。ここで結構人が降りる関係で、実は空席が増えるんだけどね。何回この光景を見ても、少し複雑な気分になるよ本当。

 そして駅から、しばらく歩いていくと、十階建てのマンションが建っているのだが、そこが僕の自宅だ。オープンロック式なので部外者は門前払い。

 六階に住んでいるので、僕たちは大体エレベーターで移動する。マンションの中は四角形になっておりその外周に部屋が配置されている感じ。

「ただいまー」

「伯母さん、帰りましたー」

 長い廊下を進んでリビングに入ると、既に料理が置かれていた。作った人物、つまり僕の母親は、ソファに座ってクロスワードを解いている。中々熱中してるようで、僕たちが入ってきてもしばらくは気付かなかった。

「あなたたち、いつ帰ってきたの。声くらいかけなさいよ」

「さっきだよ、っていうかちゃんと言ったよ」

「そう? 気づかなかった」

 雑誌を放り出すと、立ち上がり背伸びをする。室内だからってまた、変な格好して……。母さんは若いように見えて実際四十近い。ただメイク次第だと、大学生だと偽ることも可能だと思う。響ちゃんと干支が一回りくらいしか年齢が違わないのは、かなり若い頃に結婚したから。

「さ、ごはんにするよ」

「やったぁ。今日コロッケだ。伯母さんの作るコロッケ大好きなのよね」

 響ちゃんが受かれているとは。学校内で多くの学生に、見せている姿と正反対だ。神崎の学生が持つ響ちゃんのイメージは、クールであらゆることに動じない完璧な養護教諭。実はこれで、もう数年は通しているというから驚きだ。

「響ちゃん、この子学校でうまくやってる? 」

「大丈夫ですよ、友達だってちゃんといますし」

 食事をしながら、響ちゃんが僕の近況を母さんに話していく。別に口止するような話なんか出ていない。それよりも僕は煮卵を味わうのが今は最優先。家でコロッケの付け合せとして、キャベツとともに必ず出てくる。付け合せには渋すぎるかもしれないが、僕は母さんの作る料理では一番好きだ。外で食べるものよりも、味が薄いのだがその分多く食べられる。

「おかわりあるからね」

「うん」

 黙々と煮卵を口に運び、母さんの言葉に返事する。おかわりって、コロッケのことだろうな。そういえば、定食屋行くとキャベツのおかわりはあっても、主菜の方って見たことないよね。出してくれるところなんて、あるのだろうか。

「あんたのぞみちゃんと宇宙人探してるんだってね」

 風呂から上がって水を飲んでいると、僕の隣に座る母さんが話しかけてきた。もうのぞみのことを、ちゃんづけで呼ぶことには触れないことにしよう。

「響ちゃんに聞いたの? 」

「うん、あんたがお風呂入ってる間にね」

 その風呂には今、響ちゃんが入ってる。母さんは僕たちが、帰ってくる前に入ってしまったらしい。響ちゃん本当に、全部話しちゃったんだな。

「その話をする前に、着替えない? 」

「いやよ暑いもん。下は履いてるからいいじゃない」

 脚を組み酒を口に運んで、投げやりに言う。その服装だと目のやり場に困るんだよな。シャツの裾を結んで、へそ出しして。年齢考えれば、すごい見苦しいはずなのに、少しばかり若く見えるから、どうにか様になってるっていうのがまた。っていうか下は履いてるっていうけど、そっちも結構露出してるよ。

「いーでしょ。別に誰も見てないんだから」

「僕が困るんだよ。っていうか暑いのは、酒なんか飲んでるからだろ」

「あーもううるさいうるさい。で、どうなのよ」

「探す、って言ってもまだ相手のあたりとか、目的をつけている段階だよ」

「ふうん?あの事件でしょ。新聞にも出てた」

 興味深そうな反応を示してまた酒を口に運ぶ。が途中でなくなってしまい自分のグラスに、ソーダ水とウイスキーを注いでいった。母さんは酒に強いって言っていた。

「のぞみとか組織の見立てでは、異世界に人が飛ばされているんだって」

「それはまた大きく出たわね、宇宙人も」

 コップに入っていた水を飲み込む。中身が空になると、母さんが机の端にある薬缶を指差した。蓋を開けてみると、麦茶が入っている。

「母さんは宇宙人のことを、いつ頃知ったの」

「あんたと同じくらいかしらね、白雪っているでしょ」

「理事長の? 」

「あいつが教えてくれたのよ。自分が宇宙人と関わる人間だってね」

 急に言われて驚いたのは、僕にも簡単に想像できる。事実そうだった。いるかどうか、あやふやな存在だったものが急に実在する証拠を、突き付けられるのだから。

「ちなみに、あんたのお父さんのしている仕事も、宇宙人関係の仕事よ」

「さらりとそういう事実明かさないで」

 僕の父さんは、仕事で海外に行っている。四つ離れた妹も現地の学校に通うため父さんと一緒。あとなんでか知らないけど、父方のお祖父ちゃんとお祖母ちゃんも現地で暮らしてる。両方とも日本人だけどね。父さんの仕事とか今まで詳しいことは、聞いたことなかったけど。

「地球に来る宇宙人の事務作業を、引き受けている仕事をしているのよお父さんは。お父さんの方は、小学生の頃から知ってたみたい」

 どんどん知らなかった事実が、明かされていく。父さんも謎が多いよな。海外で仕事してるっていうけど、僕が小学生の時にはもう日本にはいなかったし。

「母さんはさ、異世界に行ってみたいと思うことってある? 」

 麦茶を自分のコップに注ぎながら、何気なく聞いてみる。

「異世界? ないよ」

 あっさりと否定された。

「そりゃ、仕事がだるいとか税金とか、経済施策が面倒とかあるわ。つまらんことを、振りかざす人間にイラついたこととかもね」

 酒が入っているせいもあるのか、日頃の不満をぶちまけ始める。酒には強いんじゃなかったのか。呑まれているよこれ。

「けどね、それでも別の世界に、行きたいとは思わないわ」

「ふうん」

 微妙に息をつきながら、母さんの話に耳を傾けていた。なんでこんなことを聞いてみたかっていうと、異世界に行きたがる人の気持ちが分からなかったから。のぞみの発言からすると、この事件の黒幕とか首謀者は、異なる世界に連れて行くと言っていた。けど僕はどうして、彼らと同じように異世界に行きたい、という気持ちが出てこないんだろう。この世界が好きでも何でもないのに。

「ねえ、悩んでるの」

「どうしてそう思うの? 」

「急に押し黙ったりしたかしらね。話してる途中で黙ると考え出すのは、あんたのクセみたいなものだから」

 ごまかしきれない部分もある。母親には全て分かっちゃうんだ。だから部屋の配置とか、物隠すのも苦労するってわけ。

「まあ言い辛いことがあるんなら、無理に言わなくてもいいわ。何かあるんならのぞみちゃんに話すのよ」

「のぞみに対する評価高いんだね」

 コップに残った氷を、かき混ぜながら言う。確かに話を持っていきやすさで言うと、のぞみはいいかもしれないけど。時折変なところがあるからなあ。考えて分からなかったら、聞けばいい。時間はまだある。夜は始まったばかり。まずは図鑑で蝶々のことを調べよう。

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